【3D映画のすべて】3D映画、恐れる必要はない
現在、韓国映画界で3D映画とはどんな位置にあるだろうか? 韓国で3D映画という分野はスタートすらきちんとできなかったにもかかわらず、一休みに入っている。それには映画「第7鉱区」の興行不振が大きな影響を与えたが、ただそれだけの理由ではない。3D映画が十分論議されるには、技術、資本、知識、哲学、何よりも勇気が足りなかったからだ。しかし、ハリウッド映画「アバター」が世界中でセンセーションを巻き起こした頃、韓国でも250億ウォン(約21億1218万円)規模の、3D撮影技法を使った巨大プロジェクトが誕生した。映画「国家代表!?」「カンナさん大成功です!」を演出したキム・ヨンファ監督の「ミスターGO!」がそれだ。「ミスターGO!」の視覚効果(VFX)パートを総括担当したDexter Digitalのチョン・ソンジン本部長に会い、韓国で初めて試みたこの3D映画について率直な話を聞いた。韓国初なので難しく大変だったが、初めてだからこそ持てる期待と初めてにもかかわらず持つことのできた確信の声を聞くことができた。
―ホ・ヨンマンの野球漫画「第7球団」を原作として、“フル3D”映画を作っていると聞いた。「ミスターGO!」では、どんな仕事を担当したのか?チョン・ソンジン:正式な名前で紹介すると、視覚効果会社であるDexter DigitalのVFX(Visual Effects:視覚効果)スーパーバイザーだ。普通、CG(コンピューターグラフィックス)を担当する人として紹介されるが、「ミスターGO!」では3D効果をはじめ、VFX全体を総括している。映画の企画の段階では、全般的にどのような3D効果や視覚効果を実装するかを決め、現場では、この効果を撮影に組み合わせてシーンを作る際の問題について決定を行う役割を果たしている。例えば、「このシーンはミニチュア撮影をするか、クロマキー(Chroma key:複数の画像を合成する手法)撮影をするか」などを考える役割だ。撮影が終わったら、企画段階から現場で行われた撮影に至るまで、すべての素材を組み合わせることが、後半の作業になる。事前に作ったパズルをすべて集めて、完成させるのである。
「1年半の間、合宿訓練をしながら様々なものを撮ってみた」
―韓国で初めて試みる3D撮影映画なので、企画段階から準備することが多かったと思う。チョン・ソンジン:立体(3D)システムに対し、定型化されたR&D(Research and development:研究開発)を行っている会社がないので、企画段階からより多くの時間を投資しなければならなかった。現在、Dexter Digitalで「ミスターGO!」に参加しているメインスタッフはおよそ160人ぐらいだが、彼らは全員、3D作業が可能な人たちだ。そのようになるため、およそ1年間のトレーニングを行った。本当に挑戦だった。企画段階で2年間費やしたが、その2年間という時間でも少し足りないかもしれないと思える状態だった。本当に大変だった。海外をひたすら回りながら新しい技術についても調べた。
―前例がないので、解決しなければならない難題も多かったと思うが。
チョン・ソンジン:韓国に3D映画をきちんと撮れる人がいなかった。撮影スタッフも、ノウハウもなかった。でも、実はハリウッドにもそういう人はいない。まだ3D映画に関する環境がきちんと整えられていない状況だからだ。当時、「アバター」だけが世に出た状況で、その映画の影響を受けて色んな人が3D映画を撮ってみようとする雰囲気だけがあった。そのため、美学的な部分は後にして、演出面で3D映画が観客たちにどんな点をアピールできるのか、立体を作る目的は何かという問題を先に解決する必要があった。単に、映画館の収入を上げることができるという問題ではなかった。それよりも作り手側の立場で、あるストーリーを観客たちにまるで自分たちの目の前で起こっているようなインパクトを与え、胸に響くようにしたいと思ったのである。そして、それが一番最初の目的になった。
―目的を達成するため、現実的にどんな答えを出して近づいたのか?
チョン・ソンジン:観客たちにもう少し優しく気楽に近づいていける立体映像を作ることに焦点を合わせた。そして、それをR&Dで解決しようとしたのが、ジェームズ・キャメロンの「アバター」である。でも、「アバター」は初期の作品であるため、ノウハウ的によくない部分もあり、それを僕たちが研究した立体システムと組み合わせ、僕たちだけの方法で作りたいと思った。それで、例えば撮影チームがあるように、“立体チーム”が組まれたのである。莫大な費用をかけて機材を購入し、ほぼ1年半の間、合宿訓練をしながら様々なものを撮ってみた。撮ったものは毎回、試写を行ったが、これは観客たちにどのように近づけばいいのかを考えるためだった。最近の観客たちは、相当な3D映画でもなかなか3Dとも思ってくれないので(笑)
―「ミスターGO!」は、映画のコンセプト自体がヒューマンドラマに近いので、ドラマティックな壮大さが少ないと思った。そのため、観客が期待する強烈な効果や印象を残すことが難しいとも思えるが。
チョン・ソンジン:実際、その点を一番悩んだ。飛行機が出てくるわけでもなく、映画「トランスフォーマー」のようにロボットが出るわけでもない。「ミスターGO!」の主人公は、デジタルクリーチャーであるゴリラだ。ゴリラが野球をする映画だが、実は、かなり前のアニメーション映画「ロジャー・ラビット」で実写と漫画が組み合わさったように、ゴリラをアニメーションにしてもドラマチックにストーリーを進められる。それにもかかわらず、ゴリラを立体に作ったのは、観客たちに立体で見せたいと思った明確な理由があるからだ。「あんな動物が本当にいるんだ」と想像できるようにさせたかったし、あの動物が生きて動きながら人のように行動し、演じ、表情することで面白さを感じさせたいと思ったためだ。
―アクションより感情を伝えるという面で、3Dを重要に思っているのか?
チョン・ソンジン:僕もこれまで映画を作りながらアクションが重要だと思ってきた。でも、やっているうちに感情の方がより重要ということに気づいた。それで、両方を3Dと合わせることで完璧なバランスを取れると思った。「アバター」に参加したクリス・リーというプロデューサーがいるが、後半作業に参加した。彼は立体で作業して、それをブルーレイで撮る作業を行ったが、そうした理由を「もし2Dで撮影したらすべてアニメーションのように見えるから」と話した。そして僕が今、立体作業をしながら感じたことが、ゴリラも立体に作った時、よりリアルに感じられるということだ。ボリューム感を与えることで、ゴリラが手を前に差し出したら、本当に僕の前で手を差し出しているような感じがして、錯覚するようになる。そして、それが感情的に観客たちにより近づけることができるポイントだと思う。
―韓国で初めて“感情とストーリーの伝達”のために技術を使って、挑戦したことになるが、難しいことはなかったのか?
チョン・ソンジン:実は、立体は全世界的に“難解”として受け入れられている。非常に面白い分野なのに、ノウハウがないためだ。カメラの使用が1つから2つに増えただけで、人々に気楽に見せるために生じる問題が本当に多い。2つのカメラの間の微細な動きまでも調整し、目が痛くないようにしなければならないからだ。
「映画界の中でも若い層が3D映画を好む」
―演出者であるキム・ヨンファ監督自ら、VFX会社であるこのDexter Digitalを作った。そのため、3D作業が使われるVFXと映画の演出の間に距離がなく、緊密に繋がって作業を進めることができたと思うがチョン・ソンジン:キム・ヨンファ監督は、この映画の企画段階から「『ミスターGO!』は、3D映画でなければならない」という明確な信念を持って作っている。キム・ヨンファ監督は3D技術にほぼ精通した状態で、自ら撮影してみたり確認もしながら積み重ねてきた監督なりのノウハウがあるので、3D映画の制作プロセスについて一番よく分かっている監督だと思う。VFXについてもそうだ。実際、韓国でそのような経験を積んだ監督は、ほとんどいない。
―機材を取り揃えることは、難しくなかったのか?
チョン・ソンジン:R&Dを行ってカメラは小さくなった方がいいことに気づき、カメラのリサーチをした。それで、レッドという会社がエピックという新しいシステムのカメラを制作していたので、それを使って撮影した。機材の軽量化や小型化、補正技術の発展は着実に進んでいると思う。だが、僕たちが撮影を始めた当時は、本当に何もない状態だった。そのため、何から何まですべて勉強しなければならなかった。中でも、“立体映像で撮ったらVFXをどうしたらいいか”について一番深く研究した。それは、“両目に写るポイントを、カメラレンズで同じポイントとしてどのように探すか”から始めた。適当にやるわけにはいかないので、ソフトウェアが必要になり、それで、プログラマーたちが投入されるようになった。彼らが両方のカメラを分析し、僕たちが望む場所がどこなのかを探すことから作業を始めた。
―立体映像に対する経験がないので、ほぼ最初から新たに始めなければならなかったのか?
チョン・ソンジン:VFXをやっている人々は、立体に対する経験を着実に積み重ねてきた。ただ、映画界で立体が一番遅く始まっているだけだ。ゲームや特殊映像の方では、すでに立体映像があるじゃないか。1990年後半、“Ride Movie”の作業を行ったことがある。椅子が揺れながらスクリーンに立体映像を写しその空間を体験するような映像だったが、それが1990年代後半の作業だったのでかなり前からあったことになる。より遡ってみたら、韓国最初の立体映画が1960年代にすでに作られた。その時は大きなカメラを2つ用意し、それをテープで巻きつけて撮影した。
―およそ2年間の企画段階を経たが、その時、計画して考えていた部分がいざ撮影に入った時、現実的に衝突した部分はなかったのか?
チョン・ソンジン:企画の過程を本当に精密に行った。試作映像を最初から立体で作った。ドラマ、アニメーション、音楽、テキストまですべて入れて見本を作ってみた。結果的に本撮影の前に、ノウハウをたくさん積み重ねることができたと思う。撮影チームを映画振興委員会の倉庫にほぼ閉じ込める状態にし、毎日のように朝起きてからカメラを組み立てたり外したりしながら、被写体を置いては撮影を行った。そして、数ヶ月間のトレーニングを行った後、本撮影に入ったので、3Dだからといって作業がより遅く進んだりはしなかった。もちろん、思ってもいなかった問題が毎日のように生じた。精密に適用される技術的な部分だったが、立体とVFXを融合していく過程でまだ乗り越えられない壁があった。今は、そのような壁を少し乗り越えてみようという時点にいると思う。
―映画「第7鉱区」の話をしたいと思う。多くの人々がこの映画を通じて3D映画に対する期待を見せたが、映画はその期待に応えることができなかった。「第7鉱区」がその後の韓国の3D映画にどんな影響を与えたと思うのか?
チョン・ソンジン:もし「アバター」が出なかったら、誰も最初から3Dで制作しなかったかもしれない。「第7鉱区」が韓国で公開された時、映画界でVFXをやる人々の間では、とりあえずうまくいって欲しいと思っていた。でも、残念な結果になった。僕はその映画を見て、コンバーティング(表面加工)においてR&Dをもっと行うべきだったし、政治的な論理などが介入するべきでないと感じた。
―「第7鉱区」が、結果的に成功できなかった3D映画だとしたら、その根本的な問題が研究開発の不足にあったと思っているのか?
チョン・ソンジン:コンバーティングという技術を使用するに当たって、政府の予算なしで自分たちでやろうとしたため、小規模の費用や人力になり、ノウハウもあまりなかったと思う。そのためか、3D映画は画面を暗くしてはいけないという常識を見逃すというミスを犯した。企画段階でもう少しだけ充実して行っていれば、問題が減ったのではないかと思う。
―かつて、李明博(イ・ミョンバク)政府がコンバーティング技術に対し、大規模の金額を支援したと聞いた。その時、みんなコンバーティングに力を注いだが、今はまた、小休止状態に入っているように見える。韓国映画界の中で、コンバーティングと3D撮影という2つの方向性に関する意見はどうなっているのか?
チョン・ソンジン:意見が一致していない。それについて専門家たちが一緒に話し合うような懇談会に僕もよく参加するが、行ったらいつも嫌な話だけして帰ってくる。「コンバーティングをしても別に効果はないと思う。それより、映画に直接投資したりコンテンツをうまく育成するなど、もう少し現実的に行おう」と言ったら、専門家たちは機材やコンピューターの購入を考えるので複雑だと思ってしまうのである。
―現在の韓国映画界は、3D映画をめぐる視線がはっきり分かれているように見える。
チョン・ソンジン:保守派と進歩派に分かれている(笑) 3D映画をあまり好意的に思っていない人がいれば、取り合えず、その人の年齢を疑ってみる必要がある。実は、かなり明確に分かれている。これはアメリカでも調査結果が出ているが、年を取っていたり、老眼になっているほど、立体を気難しく思う(笑) 逆に、若ければ若いほど気楽に思うし、映画界の中でも若い層の方が3D映画を好んでいる。
「3D映画に対し、かなりまとまってきた段階」
―異論が多いため、「ミスターGO!」を進行しながら、技術的な衝突以外、周りからの意見を聞くことも大変だったと思う。チョン・ソンジン:このプロジェクトを進行する中で、一番大変だったのが否定的な意見が多かったことだ。「お前、立体できるの? それ、不可能だよ」とか、「何で立体カメラで撮影するの? コンバーティングすればいいじゃん」とか。僕がコンバーティングは立体ではない、実際に撮影しなければならないと言ってもそれに対し否定的な意見を返してくる。「250億ウォンで作れるの? 300億ウォン(約25億3500万円)でも作れないよ。たぶん、800億ウォン(約67億5900万円)は必要なんじゃない?」と言われたりもした。大きなプロジェクトだし、キム・ヨンファ監督もスター監督なので周りから嫌な話をたくさん聞いたと思う。それでも、諦めず、押し進めようと思ってキム・ヨンファ監督と一緒に作業した。
―人々が思っているほどの費用をかけずに3D映画を制作できるということか?
チョン・ソンジン:「第7鉱区」にお金がたくさんかかったのは、立体だったからではなく、VFXが凄まじいほど入ったためだった。VFXが多く入った映画は、お金がたくさんかかるしかない。ハリウッドで映画を作る時も、VFXの費用が大きすぎて撮影できないというケースが多い。映画全体の制作費の半分以上をVFXに使うようになるので負担がかかる。実際、「ミスターGO!」の制作費が多くかかったのも立体だからという理由だけではない。VFXが映画の99%ほどを占めているためだ。
―立体撮影を経験し、恐れるよりも挑戦してみる価値があると思うか?
チョン・ソンジン:撮ってみたら、機材とシステムさえあればCGを多く使わなくてもできると思った。実際、立体映像はただカメラが変わるだけである。そのため、アクションとラブストーリーが混ざった40億ウォン(約3億3800万円)の映画に、20億ウォン(約1億7000万円)ぐらいさらに投資して撮ってみるとどうかなとも思ってみた。やったこともないのに、みんな恐れるばかりだと思う。現場に来て、見てみたらみんな分かるだろうが、撮影は思ったより速く行われる。さらに、カメラは進歩を続けている。結局、立体映像を撮る時、重要なのは、どのように撮影するかを明確に決めることだ。何をどのように撮影すればいいのかを分からない状態のまま、ただ現場に行って撮影すれば費用が増えるが、恐れる必要はないと思う。僕たちにもできる。
―恐れるばかりで立体映像を撮ろうとしない理由は何だと思うのか?
チョン・ソンジン:まず、保守的な考えを持っているためだ。立体映像に対し、間違った考えを持っていると思う。2~3倍のお金がかかると漠然と思うばかりで、ただ恐れてやろうともしない。そして、作る環境が整っていないことも事実だ。実は、テストする費用も十分ではない。ご飯を食べることさえ大変になるので、試作映像を作る費用もないのだ。そして、市場があまりにも小さすぎることがもう1つの問題だ。
―それにもかかわらず、「どうして3D映画を作らなければならないのか?」と聞かれたら、商業的なメリットや映像の未来、制作側の必要性、どれだと思うのか?
チョン・ソンジン:多くの人々がそのような話をしてきた。でも、僕は商業的なメリットがあるという意見には反対だ。ただ、1つのツールとして利用しているだけだと思っている。もし僕がこれを商業的に見たら、失敗すると思う(笑) 無条件に演出の1つのポイントだと思っている。もちろん、映画を作る時、制作側は商業性を考えなければならないが、そのためには感情的にアピールする必要がある。面白くなければならないのだ。「ミスターGO!」の撮影でも、立体映像は一つのオプションとして見ているだけだ。3Dで再現されたゴリラを見たら、表情を作ったり、鼻息を出す姿が本当に面白い。これはこの映画が立体映像というはっきりした目的を持って誕生した映画だからこそ、浮き彫りになる部分だと思う。
―立体映像をめぐり、制作側の人々はどのように表現したいのかを考えるが、観客側はどのように自分の胸に響いてくるのかを考えるしかない。両方の間の認識を縮めるためには、何が必要だと思うのか?
チョン・ソンジン:制作側は、こだわっていることだけを押し付けるのではなく、観客たちの意見を認め、受け入れることが重要だと思う。現在、「ミスターGO!」もシナリオがずっと変わり続けている。繰り返して見たり、周りにも見せながら、どの部分が退屈だろうか、このアクションは過度ではないのかと悩み続けている。観客たちがターゲットであるので、僕たちだけ面白くても仕方ない。だから、すごく大変だ(笑) 毎日のように作業しては消すことを何度も繰り返している。さっきもキム・ヨンファ監督から電話が来た。今、中国の投資会社との会議のために中国にいるが、電話で「それは消してもいいじゃないか。それより、これはどうするか」と休まず話し合っている。3D映画に対する話は、その範囲が本当に広い。そのため、3D映画をめぐって色んな話があったが、今はずいぶんまとまってきた段階だと思う。それに、我々はうまく撮影出来たと思うし(笑) でも、「ミスターGO!」が公開して、興行に成功することで、どうか従来からの見方が変わったらいいなと思う。
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- 記者 :
- カン・ミョンソク、イ・ギョンジン、写真 : チェ・ギウォン、編集 : チャン・ギョンジン、翻訳 : ナ・ウンジョン
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