イ・スヒョクがおすすめする「心を安らかにする音楽」

世の中のすべてのことがそうであるように、やりたいこと一つをやるためには、様々なやりたくないことをやらなくてはならない。韓服も刀も非常にぎこちなく感じたというイ・スヒョクにとって、ユンピョンは最初から嬉しいと思った役ではなかった。「たくさんの作品をやった後だったら負担が少なかったかもしれないけれど、自信がない状態で時代劇はやりたくありませんでした」自分で準備ができたと思った時、堂々とカメラの前に立ちたかった新人俳優は、当たり前のように経験不足から混乱を味わい、「ドラマ序盤の7、8話の映像や表情は見たくないです。演技というより、状況だけに集中し過ぎているように見えるから」ときっぱり評する彼の声からは、後悔が感じられる。
しかし、新たな経験を通して期待もしていなかった楽しさと教えに遭遇するのも、何かを始める人々の特権である。高い視聴率を記録した「根の深い木」で得たものは、街で会う子どもから「密本の悪い人でしょう?刀を振り回すアクションとかやってみてよ」と言われたりする知名度だけではなかった。「以前は俳優になりたいと漠然に思っていただけで、生意気にも“良い俳優”になりたいなどと思ったことはなかったです。演技も下手だし、能力もまだないから。しかし、ハン・ソッキュ先輩やチャン・ヒョク先輩を見て“良い俳優”になりたいと初めて思いました」と少し照れながら話すイ・スヒョク。そんな彼を見ていたら、顔立ちが異なるという先入観のせいで気づかなかった彼の異なる考えと異なる話がだんだん気になってきた。
ここで、イ・スヒョクが好きな音楽を紹介していきたいと思う。紹介するのは、5曲には絞れないと言い、かなり悩んで決めた旅行先で聴くのにおススメの心を安らかにする音楽だ。

「モデルの仕事のために行ったパリで、1ヵ月半くらい一人暮らしをしたことがあります。友達と行った時は雰囲気もよく、見る所も多い場所だから非常に好きだったけど、仕事で行ってご飯もいつも一人で食べていたら本当に気が狂いそうになりました(笑) この曲がなかったら、耐えられなかったと思います。一緒に聴いたりおススメしてくれた人をたくさん思い出した曲です。それから、ジョン・レノンの息子として生きる人生はどんなに大変なんだろうと思って、この人が気になったというのもあります」
イ・スヒョクがお勧めした1曲目はショーン・レノンの「Parachute」である。決して乗り越えることも抜け出すこともできない“ジョン・レノンの息子”として生まれた悲運のアーティストと定めるにはもったいなく、そして惜しいミュージシャンだ。「Parachute」は彼ならではの穏やかな音色の魅力をたっぷり感じられる曲だ。

「この曲はタイトルをどう読めばいいか分かりません(笑) 映画『イパネマの少年』を撮った時、海辺で3ヶ月間暮らしたことがあります。撮影中、時間が少し空いて、スチール写真を撮っていたフォトグラファーさんが聞いていたイヤホンを取って、そのまま聞きながら海に入ったんですけど、本当にビックリしました。大げさでなく、本当に天国に来たような感じがしたんです。一時間くらい繰り返し再生して、目をつぶったまま、海の中を漂いました。それから海に行く人にはおススメしています」
触ると壊れてしまいそうな砂のお城、もしくは今にも切れそうな細い糸のような音楽が続く「Sæglopur」。タイトルはアイスランド語で「Lost at sea」“海で迷う”という意味だ。

「Airのアルバムはほぼすべて僕のiPodに入っていますが、有名な曲だけ探して聞く場合が多いから、この曲の存在は気付きませんでした。『イパネマの少年』の監督と僕たちでプロモーションビデオを作りましたけど、監督がこの曲をバックミュージックに使っていたんです。『この曲は初めて聞くな』と思ったけど、iPodに入っていました。日本の札幌と夕張で撮影した、とても寒い冬に歩くシーンを使って作っていましたが、よく似合っています。どこか寂しい感じもするし」
イ・スヒョクがお勧めする3番目の曲「Left Bank」は、誰でも1度くらいは聞いたことあるはずの「Sexy Boy」をはじめ、Daft Punkなどと共にフレンチ・ダンス・レボリューションを主導したフレンチ・エレクトロニック・デュオAirの曲だ。

「仲の良いスタイリストさんがおススメしてくれた曲ですが、高校の頃、たくさん聞きました。最近聞いてもまったく飽きない曲です。異性同士でも同性同士でも一緒に静かに話したい時に聞くと良い曲です。ワインを飲む時でもいいし。何年前かは覚えてないけれど、テレポップミュージックが12月31日に来韓公演をしたことがあって、それに行きました。大きなLPレコードで音楽を聞かせてくれたんですが、本当によかったです」
数年前に、ある携帯電話のCMで流れた「Breathe」をはじめ、数多くのエレクトロニックミュージックのファンから愛されるテレポップミュージックの「Don't look back」は、まるで海中の砂を踏みながら歩くような肌触りが足元に感じられる曲だ。

「この曲はタイトルが本当に気に入っているんです。テレポップミュージックとロイクソップは幼かった頃、特によく聞いた曲です。最近はバンドミュージックやヒップホップもたくさん聞いていますが、中学や高校の時はエレクトロニックやトランスをよく聞きました。だから、この曲を聞くと高校の頃を思い出すんです」
エレクトロニックミュージック独特の夢幻的な雰囲気の中に、北欧の何となく寂しいながらも洗練された風景を描くような「Beaufirul Day without you」は、物語を朗読するかのように低めでささやくメロディーが印象的だ。エレクトロニックミュージックというジャンルの中にある、ダウンテンポの情緒を一番うまく表現していると評価される、ノルウェー出身のデュオロイクソップ独特の感性が感じられる曲だ。

「以前なら事務所でいくら勧められてもシットコムの出演を選んだりはしなかったと思います。でも様々な作品をしながらやりたいこと、やりたくないことを分ける前に、今やらなくてならないことがあると思うようになりました。今回の作品はストーリーがかなり面白く、共演する俳優さんたちと一緒にいるのが好きで、一番楽しく撮影しています」この言葉が本気に思えたのは、いつも真面目な彼の顔から口元だけ動いて小さく笑うその微笑にムカディルを見つけたからだ。“やりたくないことは顔にはっきり出る”素直な25歳の青年に、今この仕事は楽しいものに違いない。“楽しい”スタートラインから走り出したばかりの新人にこれ以上必要なものはないと思う。
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- キム・ヒジュ、写真:イ・ジニョク、翻訳:ナ・ウンジョン
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