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「ファントム」クリエイティブな警察サスペンスとしての位置づけ

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SBSドラマ「ファントム」の1、2話ほど、圧倒的で完結性の高いドラマの出発は、後にも先にもなかったような印象を受けた。キム・ウニ脚本家は法医学を背景にした前作「サイン」でも、大統領選挙出馬候補者の娘が巻き込まれた、アイドル歌手の殺人事件から始まり、権力と正義を説く緊張感のあるサスペンス物語を作ったことがある。

このように「ファントム」への期待感は、残念ながらソ・ジソブでも、「悪いやつら」を通じて電撃抜擢されたクァク・ドウォンでもなく、キム・ウニ脚本家の文才から始まった。そして「ファントム」の出発は“これ以上ない”くらい、期待以上だった。

ハッカーのハデス(パク・ギヨン)の出没、人気スターであるシン・ヒョジョン(イ・ソム)の殺人事件、これを追いかける警察庁サイバー捜査隊キム・ウヒョン(ソ・ジソブ)警部補の活躍。緊迫感やスピード感も優れていたが、殺人犯の濡れ衣を着せられたハデスであるパク・ギヨンとキム・ウヒョンが警察大学の入学同期だったことが早めに明かされ、パク・ギヨンが危険を顧みず、警察庁に潜入したとき、ドラマには張り詰めた空気が漂っていた。

そして第2話の20分が過ぎたところで、シン・ヒョジョン殺人事件の犯人であるファントムが仕掛けた罠にはまり、キム・ウヒョンが即死する。主人公であるキム・ウヒョンがドラマスタートからわずか80分で死んでしまうという、とんでもないシチュエーションが発生したのである。そしてそれに続きパク・ギヨンが整形手術でキム・ウヒョンの顔へ“フェイスオフ”する設定やオルチャン(整った顔)警察ユ・ガンミ(イ・ヨニ)の助けで成し遂げた完璧な偽装。

第2話のクライマックスは、パク・ギヨンを殺すために送った、ファントム側の男が登場した病院でのシーンである。身分を偽装し、解剖室にまで現れユ・ガンミの邪魔をする刑事クォン・ヒョクジュ(クァク・ドウォン)もまた緊張感を高めた要因だった。

ここにキム・ウヒョンが殺人事件と関わりがあるとの手掛かりが提示される一方、ファントムに協力する助力者たちと「私は一人ではない」とするキム・ウヒョンの言葉が加わり、「誰も信じられない」という混乱がドラマ全体を支配した。「ファントム」の力はここに起因する。繰り返されるどんでん返しとサスペンス、キム・ウヒョンが真実を暴くためにしばらくファントムのチョ・ヒョンミン(オム・ギジュン)と手を組んだという事実が明かされたのは、17話になってからだった。

そのときまで「ファントム」は、悪の枢軸であるチョ・ヒョンミンと対決するかのような大きな流れの中で所々に、パク・ギヨンとクォン・ヒョクジュ、ユ・ガンミを除き、警察と検察、マスコミまで信頼できないというホラー的な要素を入れた。警察ドラマとホラーの境界で「ファントム」が思うままに行き来し、干渉する情念こそが、キム・ウニ脚本家が仕掛けた「ファントム」の核心的な正体である。


「インファナル・アフェア」から出発、クリエイティブな警察サスペンスへ位置づけられる

ユ・ガンミの回想シーン、制服姿で「立派な警察になれよ」と後輩に語る死ぬ前のキム・ウヒョンの姿から、映画「インファナル・アフェア」シリーズの「立派な警察になりたかった」というアンディ・ラウの名セリフを思い出さずにはいられなかった。闇社会の一員として潜入した警察と、警察で成功の軌道に乗った闇社会のスパイ、警察大学の同級生である二人の男の運命の対決を描いた「インファナル・アフェア」は、シリーズ第3弾まで制作され、香港の歴史を描いた時代劇と人間の内面を暴く心理戦に発展した。

悲しい場面や、序盤の細かい部分が「インファナル・アフェア」とよく似ている「ファントム」だが、クリエイティブな面は、ハッカーの幽霊であるパク・ギヨンという犯罪者と、それを捜査するサイバー捜査隊の警察(キム・ウヒョン)が“親友”であり、警察大学の同級生という設定で、この二人を一人の人物として混ぜてしまったことだ。この裏にはまた、キム・ウヒョンが警察で不正をしたかも知れないというパク・ギヨンへの疑心感と信用という二つの心が存在する。つまり、偽装した体と身分の持ち主を絶えず疑いながらも、彼の真実を暴かなければいけない“幽霊”のような存在でいなければならないのが、整形手術をして生まれ変わったパク・ギヨンの宿命でもある。

警察ドラマとしての「ファントム」は「誰も信じられない」という命題を常に絶えず確認する過程である。またファントムのチョ・ヒョンミンを出現させるもう一つの幽霊たちを確認して行くゲームのようだった。回を重ねることに、警察庁トップとサイバーチームの博士、マスコミまでチョ・ヒョンミンの手下だったことが暴かれるといった印象だ。

キム・ウニ脚本家は、このような前提を、ドラマの緊張感を高めるサスペンスの材料として活用すると同時に、警察庁の中で捜査を受けていたチョ・ヒョンミンの手下を殺した内部の裏切り者を探すために、1話の分量を丸ごと使用してしまうなど、一話一話を積極的に展開させる。チョ・ヒョンミンに殺されたハン・ヨンソク刑事(クォン・ヘヒョ)の正体もまた、背筋が凍るどんでん返しの道具だったほどだ。

また「ファントム」は形式の面で、1、2話で区分されるエピソード構成と、ファントムであるチョ・ヒョンミンを捕まえるための物語構成が混在している。キム・ウニ脚本家はシン・ヒョジョンの死と1年後の悪質書き込み犯連続殺人事件、DDoS(標的となるサーバーのサービスを不能にする攻撃)事件、民間人捜査まで、個別のエピソードを披露し、チョ・ヒョンミンを前面に登場させながら、連続ドラマとしての性質を展開して行く。アメリカや日本のドラマに親しみのある若い層と連続ドラマに慣れた人々を同時に満足させる賢い布石だといえよう。

個別の事件を解決する形式をあえて取らずとも、絶えず1年前のシン・ヒョジョン殺人事件と10年前のチョ・ヒョンミンとキム・ウヒョンの父が関わったセガングループ事件を繋ぐ緻密さ。「ファントム」のもう一つの特徴は、続けて人を殺していくチョ・ヒョンミンと、これに立ち向かうパク・ギヨンの武器として“サイバー世界”を設定したところにある。


サイバー世界の現実性と幽霊という象徴性

「パソコンは人の脳と一緒です。それを覗いて見ることは、その人の頭の中を覗いて見ることと一緒です。他人に隠したいこと、脱税、違法裏金、違法不動産、違法政治資金、株価操作。キーボードを何回か叩くだけで全部分かります」

チョ・ヒョンミンは父を死に追いやった叔父に、お金を武器とした彼と、自分との違いをこのように説明する。サイバー世界を支配する彼は、マルウェア(悪意のある不正ソフトウェアやプログラム)、ハッキング、DDoSなどで、セガングループの会長の座に上り詰め、さらには警察庁まで手に入れる。

悪質な書き込み、電子メール、動画の流布、DDosなどの用語が毎回登場する「ファントム」の現実性は、このようにサイバー世界が、現実世界の包括的なシステムはもちろん、我々の日常までも支配しているという事実から始まる。書き込みによる被害、DDos攻撃による被害、ハッキングによる被害など「ファントム」の中の事件は、国内外のニュースを問わず、いつでも接することができる。チョ・ヒョンミンがセガングループの役職員を巻き込むために、あらゆる不正の証拠をスマートフォンのメッセージで送信するシーンは決定的だ。

「ファントム」はチョ・ヒョンミンのこのような世界観を国内の現実に上手く取り入れている。現実にある程度近づきつつあるサイバー世界が、いつでも侵される可能性があるという恐怖、それを後ろで支配する幽霊のような存在が誕生するかも知れないという警告。そしてそれを止める人が幽霊のような存在であるハッカー、パク・ギヨンだという点からくるジャンルが与える面白さ。何よりもサイバー世界の匿名性で繋がっている「誰も信じられない」という「ファントム」のサスペンス装置。

このように、幾多の構想と、解釈の余地を持つ「ファントム」の運命は、実際「太陽を抱く月」や「棚ぼたのあなた」のように“国民ドラマ”になれるポジションではなかったと思う。最終回の放送まで2話しか残っていない「ファントム」の最高の視聴率が15%しか出なかったことがこれを証明している。しかし「ファントム」は演出者交代とともに、後半に行くほどぎこちなかった「サイン」とは違い、冒頭から結末に至るまで、一貫した完結性を見せている。「追跡者 THE CHASER」に続き、完成度の高いジャンルのドラマの出現を、長く心に刻んでおきたい。
元記事配信日時 : 
記者 : 
ハ・ソンテ

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