「K-POPスター」で大絶賛の嵐!アン・イェウン、音楽への情熱を語る「椎名林檎やX JAPANから影響」
韓国には、個性的な女性シンガーソングライターが数多くいるが、アン・イェウンのように独自のスタイルを貫き通して成功を収めたタイプはめずらしいと言えるだろう。
オーディション番組「K-POPスター」シーズン5への出演を機に、2016年11月にデビュー。学生時代から磨いてきた作詞・作曲・アレンジで他にはない輝きを放ち、生み出された数々のナンバーはいずれもドラマチックかつ親しみやすいメロディーラインが印象に残るものばかり。その実力はプロのキャリアを歩み始めると同時に、映像業界でも注目を集めるようになり、これまでに「逆賊-民の英雄ホン・ギルドン」をはじめ、様々な作品のOST(劇中歌)に参加している。
“自作曲にこだわる才気あふれる女性”。インタビュー前はそんなイメージを持っていたものの、実際に会った彼女は庶民的な雰囲気があり、日本語で質問に答える様子は終始穏やか。飾らない言葉のひとつひとつから誠実な人柄がにじみ出ていた。
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日本の音楽から影響「椎名林檎やX JAPANが大好き」
――今年10月に来日し、単独公演(11日:大阪・PLUSWIN HALL、13日:神奈川・SUPERNOVA KAWASAKI)を無事終えました。今の気持ちをお聞かせください。アン・イェウン:公演が終わっても、まだ夢の中にいるような気がしています。昔からずっと日本でライブがやりたいと思っていたので、これが現実なのかどうなのか、まだ分からない状態ですね。
――お客さんの反応はいかがでしたか?
アン・イェウン:予想していたよりも私のことを知っていらっしゃる方が多くて、驚いたのと同時に感動もしました。
――日本は他の国と比べて静かにじっくりと聴くタイプの人が多いのですが、今回の来日公演はどのような雰囲気でしたか?
アン・イェウン:皆さん、集中して聴いてくださったと思います。私のファンは私のキャラクターに似た人が多いせいか、波長が合う感じでした。
――大学時代にオーディション番組に参加しようと、「電話に出ないあなたに」や「re-feet」といった自作曲をテレビ局に送っていたそうですが、本格的にプロのミュージシャンになろうと思ったのは、やはりこの頃なのでしょうか?
アン・イェウン:いいえ、もっと前ですね。12歳になったときに韓国の紫雨林(ジャウリム)というロックバンドの音を聴いて「こういう人になりたい!」と思ったのが、プロのミュージシャンを目指すきっかけでした。大学は音楽を専門に勉強するところでしたから、そこで基礎を学びながら仲間とバンド活動をしていたんです。私はピアノを担当していました。
――イェウンさんのボーカルスタイルですが、やはり紫雨林からの影響は大きかったようですね。
アン・イェウン:そうですね、カリスマ的な魅力がある紫雨林のキム・ユナさんや、あとは椎名林檎さんでしょうか。お二人の影響がかなりあると思います。
――日本のロックやポップスにも関心があったのですね。
アン・イェウン:はい。子どもの時からずっと日本の音楽を聴いています。X JAPANも好きでしたし、オルタナティブなフォークロックで知られる、たまも好きでした。あとは……Sound Horizon。
――Sound Horizon ですか。2000年代から活動している、ストーリー性のあるメタル/ロックが得意なユニットですよね。随分と深いところまで掘って聴いていたのですね。
アン・イェウン:あははは。最近は、くるりとかフジファブリックもよく聴いていますよ。
――そのような日本のロックやポップスをたくさん聴いたことが、ご自身の音楽スタイルにもプラスになっているのでしょうか。
アン・イェウン:日本の音楽は、鳴っているすべての楽器が1音1音、話しているような感じがあって、そこがとても好きなんです。だから私もそうした音作りを常に意識しています。
――曲を作り始めたのは何歳ぐらいからですか。
アン・イェウン:あまり記憶がないのですが、私の母によると、かなり小さい頃にすでにピアノを弾いたり、楽譜を書いたりしていたようです。実際にその様子を捉えた写真がありますが、いまだに信じられないです(笑)。本格的に曲を作ったのは16歳か17歳で、プロの漫画家を志す友達が描いた絵にインスピレーションを受けて、メロディーを書いたのが最初です。現在、その友達はウェブ漫画家になっています。
「K-POPスター」で一躍注目!ユ・ヒヨルの絶賛に感無量
――イェウンさんが飛躍するきっかけとなった番組「K-POPスター」シーズン5について聞かせてください。この番組ではオリジナル曲で勝負しましたが、自分の個性をはっきり見せたいという気持ちからでしょうか。アン・イェウン:私は優秀なボーカリストではないからです。私の武器は作曲ができることとピアノを弾くことでしたし、自然な流れでそうなりました。
――この番組で、K-POP界を代表するベテランアーティストのユ・ヒヨルさんに高く評価されました。彼に褒められたことは非常に嬉しかったのではないでしょうか。
アン・イェウン:はい。ユ・ヒヨルさんが私を救ってくれました。当時の私は、音楽を諦めるか続けるかでずっと悩んでいたんです。だから「K-POPスター」シーズン5は、ラストチャンスだと思って臨みました。なので褒められた時は単純に嬉しいというよりも、ひたすら感動してしまって……。「私、音楽を続けて大丈夫なんだ」と、自信に繋がったのが正直な気持ちですね。
――同番組での準優勝を足掛かりにプロの道へ。芸能事務所と契約をしたこの時期は、やはり期待と不安が入り混じった感じだったのでしょうか。
アン・イェウン:とにかく不安でした。当時は「K-POPスター」と似た番組がたくさん放送されていたせいで、オーディション番組出身であることはセールスポイントにならなかったんです。それでも、私の名前が広く知られるようになったのは間違いありません。だから早く具体的なアクションを起こさなきゃいけないと、焦っていました。
――2016年に念願のソロデビューを果たします。1stアルバム「アン・イェウン」はパッケージもかなり凝ったもので、周囲の期待も相当高かったと思います。作品を出した時の心境や、仕上がりの満足度について教えてください。
アン・イェウン:プレッシャーがかかりました。すでにCDを購入する人が減っている時期でしたし、コアなファン以外は買わないんじゃないかと心配しました。収録曲についても自信がなかったので、バンドメンバーの友達に頼った部分もかなりあります。というわけで、私とその友達のスタイルがミックスされた作品ではありますが、今でもお気に入りの1枚です。
―― 1stアルバムには「K-POPスター」シーズン5で歌った「ホンヨン」や「春が来たら」が収録されていますね。両曲とも、のちにMBCドラマ「逆賊-民の英雄ホン・ギルドン」に使用されました。イェウンさんは時代劇ファンだそうですが、かなり嬉しかったのではないでしょうか。
アン・イェウン:デビューして3ヶ月も経っていない頃に、「逆賊-民の英雄ホン・ギルドン」の監督さんから、直接相談がありました。とにかくびっくりした、その記憶しかありませんね。実はあのドラマのOSTは、すべて私が制作に関わっているんですよ。
――そうだったのですか! 凄いことですね。
アン・イェウン:ひとりの作曲家がOSTの全曲を作るケースは、韓国ではレアです。とても素敵な経験をすることができて光栄でした。
――この仕事を手始めに、OSTの仕事が増えていきました。OSTでは、他の方のプロデュースや楽曲提供もあると思います。こうした制作過程は、ご自身の活動の参考になりますか?
アン・イェウン:それもそうですが、私はストーリーのあるものに関連する仕事が好きなので、いつも楽しくやっていますよ。
――現時点での最新曲「はさみ」や、少し前の曲「死に関する4分15秒の物語」などが典型的ですが、他にはない題材で視覚的な音作りをするのが、イェウンさんの持ち味だと思っています。ご自身も、そのあたりは常に意識している点なのでしょうか。
アン・イェウン:ありがたいことに、そのような褒め言葉をたくさんいただきます。私が歌詞を書くときは、メロディーがついていなくても、ひとつの物語になっていることを目指しますし、作曲や編曲の面でも、音を聴くだけで映画や漫画、アニメなどを観ているような気分になれたらいいなと思いながら手掛けています。
――個人的には、ワルツ風のアレンジが比較的多いと感じました。三拍子の曲がお好きなのでしょうか?
アン・イェウン:そうですか? あまり深く考えたことはないのですが、リズムに対するこだわりはあるのかも知れませんね。以前、私が作った曲を知り合いのアレンジャーに送ったら、ピアノのリズムを聴いて「これはムーンバートンというジャンルに近いかも」と教えてくれて、それに近いサウンドに仕上げてくれました。
音楽を続ける理由「私も“誰かのオタク”だから」
――数年前に、ソウルの野外フェスティバルでイェウンさんのライブを観ました。楽器の響きを大切にした演奏が心地よかったのを覚えています。現在も、ライブ活動は積極的に行っているのでしょうか。アン・イェウン:はい。レコーディングとはまったく違う環境ではありますが、良いものを生みだそうという気持ちは変わりません。ライブでは、オリジナルバージョンとは異なるアレンジで楽しんだりしていますね。バックで支えてくださっているミュージシャンは、私がデビューした時からずっと変わっていないんです。だからファミリーのような気分で毎回やっています。
――バックバンドというと、メンバーチェンジが当たり前のような気がしますが、それほど素晴らしいミュージシャンばかりが揃ったということですね。
アン・イェウン:ええ、その通りです。しかも、みんな義理人情が厚い。私がデビューしたばかりの頃は金銭的にも大変でしたが、それでも一緒にがんばろうと一致団結して行動していました。
――今回の来日コンサートでは、そんな仲の良いメンバーたちと一緒に演奏することができませんでしたね。
アン・イェウン:その点は残念に思います。日本でライブをやることが決まったとき、バンドのメンバーたちは目をキラキラさせていましたが、「ごめん、今回は私だけ」って(笑)。
――となると、次の来日公演はバンドでやりたいですよね。
アン・イェウン:はい! それが私の夢であり、バンドのメンバー全員の夢でもあります!
――これからは、どのようなサウンドスタイルに挑戦してみたいですか?
アン・イェウン:そうですね……。歌詞がない曲でしょうか。BGMになるサウンドを作りたいです。
――今後の活動予定を教えてください。
アン・イェウン:12月に「メリーオタククリスマス」という、毎年恒例の公演を予定しています。私は自分のために曲を作る人なので、他のアーティストの曲を歌う機会がないんです。だから年末ぐらいは、ファンの方が事前にリクエストしてくれた曲を歌う特別企画をやってもいいんじゃないかなと思い、2017年からシリーズ化しています。リクエストでよくあるのは、J-POPやアニメソング、ボカロなど。私のアレンジでオリジナルとは異なる雰囲気にしたり、コスチュームもあわせたり……。歌とトークがつながった構成・演出でやっているのですが、チケットが完売するほど人気があるんですよ。
――ユニークな試みですね。普通のシンガーソングライターとは違う独自のカラーを追求している印象があります。最後の質問になりますが、あなたにとって音楽とは何ですか?
アン・イェウン:かっこいい答えではないけれど、「仕事」です(笑)。
――アイドル系のシンガーに同じ質問をすると「水」や「空気」といった答えが多いのですが、やはりイェウンさんは違いますね(笑)。
アン・イェウン:ごめんなさい(笑)。仕事だから、いつも一生懸命しないといけないと考えているんです。私の音楽を聴いてくださる方、私のライブをわざわざ観に来てくださる方の気持ちがよく分かるからこそ、そうしたい。私だって常に“誰かのオタク”でしたから。だからこそファンのためにがんばって、音楽にもしっかり向き合わなきゃいけないと考えています。
――すべて日本語で丁寧に答えてくださって本当に感謝しています。ありがとうございました。
アン・イェウン:こちらこそありがとうございました!
(取材:まつもとたくお)
- 元記事配信日時 :
- 記者 :
- Kstyle編集部
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