【コラム】「ドラマの帝王」現実は厳しく理想が遠い今、没落の危機 ― カン・ミョンソク

謎の死を巡る真実を追跡するユン・ジフンは、自身を犠牲にする覚悟と勇気さえあれば真実のために歩いていくことができた。一方、アンソニー・キムは、幼い頃慰めになったドラマがきっかけで制作者になり、制作に必要な資本と編成を勝ち取るために策略を巡らす。制作費をまかなうためには無理なこともしなければならず、制作陣を苛酷に追い詰めたりしなければならない。犯罪に対する真実は一つだが、良いドラマに対する答えは決まっていない。アウトサイダーは自身の道だけを追及するが、リーダーは全ての状況と立場を考慮する。「ドラマの帝王」は、「サイン」より日常的な舞台で、より複雑で答えのない問題を解いていく。
「ドラマの帝王」は勝負どころを逃した

だが、アンソニー・キムは、「京城の朝」の編成と関連し、ドラマ局長(ユン・ジュサン)に賄賂を渡し、新しい局長であるナム・ウンヒョン(クォン・ヘヒョ)に放送局の上層部を通じて圧力を加える。また、制作費が必要になって帝国エンターテインメントの会長の金を騙し取る。この地点で「ドラマの帝王」は、「京城の朝」の制作現実と重なる。「京城の朝」がヒットのためにラブストーリーが必要であることと同様に、「ドラマの帝王」は面白さを与えるためにアンソニー・キムを引き続き危機に追い込み、時には正しくない方法で危機を克服させるようにする。彼が策略を巡らして危機から抜け出す瞬間が、「ドラマの帝王」では一番面白い。アンソニー・キムの方法はより現実的で、より痛快な印象がするかもしれない。だが、イ・ゴウンを通じて語る理想ではない。「ドラマの帝王」は、ある時点でアンソニー・キムの手段を代替できる新しいドラマ制作法に対する答えを出す方向に向かっていくべきだった。それが「ドラマの帝王」の勝負所であり、理想が現実のものになる瞬間になるだろう。
それにも関わらず、いいドラマを作るためには…

それでアンソニー・キムが次第に温かい人に変わっていくことは、理想的な結果だとは言えない。誰も信じないと言った彼は、今イ・ゴウンを信じ、自身に真心を込めて接してくれる職員たちから感動を受け、涙を流す。だが、彼は外では依然として戦争をしているように生きていく。イ・ゴウンの理想は、アンソニー・キムの影響力があってこそ実現でき、彼の影響力は自ら「三国志」の戦争にたとえた策略を巡らした戦争を通して拡大する。人を躊躇せず投げ捨てる帝国エンターテインメントの代わりに、自分の味方を考えてあげるアンソニー・キムの影響力が大きくなることも良いことだろう。だが、世の中が公正なルールの通じない戦場であることに変わりはない。
「サイン」でユン・ジフンは死を覚悟し、全ての人に真実を知らせた。だが「ドラマの帝王」は、ユン・ジフンが作り上げた世界上では、より良い世界に対する答えを出す代わりに、彼らだけの世界をより温かくすることに留まる。これは、逆説的にドラマの現実なのかもしれない。理想を語ることは簡単だ。だが、現実は難しい。現実を変えることはもっと難しい。だが、それにも関わらずその道を歩んでいくしかない。より良いドラマを作るためには。
文:コラムニスト カン・ミョンソク

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- カン・ミョンソク
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