凍える牙
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イ・ナヨン、キム・ソヨン…“既成概念からの脱皮”
イ・ナヨン、コン・ヒョジン、キム・ミニ、キム・ソヨンなどの女優たちが、スクリーンを通して挑戦する。2月と3月に、韓国を代表する女優たちが次々とスクリーンに復帰する。イ・ナヨンはユ・ハ監督の「凍える牙」、コン・ヒョジンはチョン・ケス監督の「ラブフィクション」、キム・ミニはピョン・ヨンジュ監督の「火車」、キム・ソヨンはチャン・ユンヒョン監督の『GABI / ガビ-国境の愛-』で観客の前に姿を現す。彼女らが披露する映画は、それぞれに特別な意味がある。自分の力量を試すことはもちろんだが、今回の映画を通して自分の新しい姿を披露する。「凍える牙」イ・ナヨン、女優の映画を導くイ・ナヨンは16日に公開した「凍える牙」で事件の裏に隠されている秘密を明かそうとする新米刑事のウニョンを演じた。映画の中で彼女は、韓国映画ではなかなか見られない女優が映画の流れをリードする重大な役割を務めた。ソン・ガンホという存在感ある俳優との共演だったが「凍える牙」で絡まれた糸をほどいていく人物は、ソン・ガンホではなくイ・ナヨンだった。ソン・ガンホという大先輩俳優と並んで、自分が映画をリードするストーリーは、イ・ナヨンだけだはなく、どんな女優でもプレッシャーを感じずにはいられない。さらに、ウニョンの持つ複雑な心理を、限られた演技の中で表現しなくてはならなかったため、彼女の負担は一層大きかったと思われる。そのため、今回の撮影はいつも以上に難しい作業だった。これと関連し、彼女は「『なんでも学んでみる』『自分がやったことがないもの、難しいことに打ち勝ちたい』という気持ちでこの作品を始めた。私にとっての実験であり、やらなければいけなかったことだった」と、撮影に臨んだ覚悟を明かした。「ラブフィクション」コン・ヒョジン、コンブリー(コン・ヒョジン+ラブリー)更に壊れるコン・ヒョジンは壊れることを恐れない女優だ。壊れた彼女の姿が見せた代表作はイ・ギョンミ監督の映画「ミスにんじん」であった。ヤン・ミンスクを演じた彼女は、すぐに顔が赤くなる赤面症にかかったマイナスイメージの強い女性に変身。田舎くさいファッションとぼさぼさの髪で、ヒステリックな独身女性の役を完璧に演じた。彼女の進化はここで終わらなかった。コン・ヒョジンは今月の29日に公開する「ラブフィクション」で、ワンテイクで壊れた演技を撮った。今回の映画で彼女は脇毛を伸ばした姿で登場する。それは女優として、女性として、覚悟を必要とする挑戦だった。女優なら自分をもっと美しく見せたいという欲望があるのが普通だが、彼女は「それぞれの好みと趣向があるので、その辺が心配だけど、それがセクシーにも見えたりもするかもしれない。そんな映画の中の話のように、いい反応を見せてくれればいい」と話し「私は演じていてとても面白かった」と明かし、挑戦を恐れない器の大きな女優魂を見せた。「火車」キム・ミニ、映画のキーパーソン重大な役割キム・ミニは「火車」で演じたカン・ソニョンという人物について「12年の女優人生で、こんなにも強烈なキャラクターは初めて」と評価した。カン・ソニョンはチャン・ムノ(イ・ソンギュン)の消えた婚約者であり、ストーリーの鍵となる人物。キム・ミニは今回の映画でカン・ソヨンを演じ、庇護欲を掻き立てる愛らしい女性や、衝撃的な過去と秘密を持つ女性など、さまざまなキャラクターへの変身に挑戦した。このようにさまざまな姿を表現しなければならなかったのは、のカン・ソニョンという人物が神秘のベールに包まれた女性だったからである。キム・ミニも自分の役について「ミステリアスな女性で、たまねぎみたいな存在」と説明し、期待感を高めた。「火車」のピョン・ヨンジュ監督は「最初の撮影で最初の演技を見た瞬間、キム・ミニは自分が考えていたソニョンより、さらに多くの物語を見せてくれるかもしれないと思った。だから、最初のシナリオよりもずっと出演シーンが増えた」と評価した。ピョン・ヨンジュ監督の話のように、来月8日に公開される「火車」では、キム・ミニがたまねぎの皮を一枚ずつはがしていくように、衝撃的な演技の変身を見せてくれる。作品の緊張感を、さらに張り詰めてくれることに注目だ。「GABI / ガビ-国境の愛-」のキム・ソヨン、スクリーンで大人の演技と時代劇に初挑戦来月の15日に公開する「GABI / ガビ-国境の愛-」はキム・ソヨンが成人女性の演技に初めて挑戦する作品である。彼女は1997年のイ・ジンソク監督の映画「チェンジ」で高校生として登場した後、映画ではなくドラマで活躍してきた。そのため15年振りに再びキム・ソヨンをスクリーンに復活させた「GABI / ガビ-国境の愛-」は、恐らく今後、彼女の映画人生を語る時になくてはならない映画になるだろう。それだけに、彼女は今回の映画出演が大きなプレッシャーとなり、困難な挑戦となったはずだ。またキム・ソヨンの初の時代劇の出演という点も「GABI / ガビ-国境の愛-」を注目させる。キム・ソヨンは1994年の青少年ドラマ「恐竜先生」「恋歌」「母よ姉よ」「イヴのすべて」「食客」「IRIS―アイリス」「ATHENA -アテナ-」などに出演し、スタイリッシュなイメージを主に披露してきた。2005年に韓国、中国、香港の間で作られた映画「七剣」(監督ソ・グク)では、武術練磨と武器所持が禁止された17世紀の清を舞台にしている。そのような点と照らし合わせてみるとキム・ソヨンの時代劇と呼ばれるにふさわしい映画は「GABI / ガビ-国境の愛-」が初めてといっても過言ではない。初の成人演技、初の時代劇への挑戦。キム・ソヨンの「GABI / ガビ-国境の愛-」が期待される理由だ。
「折れた矢」「凍える牙」…韓国映画の独走はいつまで?
旧正月連休に公開された「ダンシング・クィーン」と「折れた矢」を皮切りに「悪いやつら」「凍える牙」まで韓国映画の独走が一ヶ月以上続いている。20日午前、映画振興委員会である映画館入場券統合ネットワークによれば、18日の週末の興行成績1位はソン・ガンホ&イ・ナヨン主演の「凍える牙」、2位はチェ・ミンシク&ハ・ジョンウ主演の「悪いやつら」3位はファン・ジョンミン&オム・ジョンファ主演の「ダンシング・クィーン」が占めた。4位と5位はそれぞれ「ソール―ヴァルハラの伝説」と「サグレー」で、アイスランドの3Dアニメーションとハリウッドのアクション映画が占めているが、韓国映画「折れた矢」と「チョムバキ:韓半島の恐竜」が6位と7位にランクインしている。10位の「パパ」まで加えれば、興行成績トップ10に入った韓国映画は全6作品。その中の3作品(「ダンシング・クィーン」「折れた矢」「悪いやつら」)は300万人以上の観客を動員したロングヒット作という点も興味深い。韓国映画の強勢は旧正月連休から始まった。正月連休に公開された「ダンシング・クィーン」と「折れた矢」は今も興行成績上位を占め、上々といえる観客を動員している。その後公開された「悪いやつら」は青少年観覧不可という条件にもかかわらず、約2週間1位を守り、300万人以上の観客を動員した。そして16日公開された「凍える牙」がその勢いを引き受け、観客を集めている。その他に、2月末にはハ・ジョンウ&コン・ヒョジン主演の映画「ラブフィクション」が公開を控えており、3月には恋愛映画「建築学概論」、歴史映画「GABI / ガビ-国境の愛-」、ミステリー映画「火車」など、様々なジャンルの韓国映画が公開される予定で、韓国映画の独走がいつまで続くかが注目されている。
「凍える牙」「火車」「GABI」など、ベストセラー小説が原作の映画が次々と公開!
ベストセラー小説を原作にした映画が次々と公開される予定だ。2月と3月だけでも「凍える牙」「ワン・フォー・ザ・マネー」「火車」『GABI / ガビ-国境の愛-』など、小説から映画化された作品が封切りを控えている。ソン・ガンホとイ・ナヨンが出演するユ・ハ監督の映画「凍える牙」と、韓国好きで知られているキャサリン・ハイグル主演の「ワン・フォー・ザ・マネー」、ダニエル・ラドクリフ主演の「ウーマン・イン・ブラック」が16日に封切りする。 「凍える牙」は乃南アサの小説「凍りついた牙」が原作。乃南アサはこの作品で第115回 直木賞を受賞し、日本を代表する女流作家として脚光を浴びた。「ワン・フォー・ザ・マネー」はアメリカで18ものシリーズが出版され、75週連続で全米ベストセラーを記録した同名の小説を原作としている。 「ウーマン・イン・ブラック」は1983年に発表された作品で、イギリスの新聞ガーディアンが選定した世界5大ホラー小説に選ばれたスーザン・ヒルの同名小説をもとに映画化された。この小説は、ドラマや演劇などに脚色されて人気を博し、映画の封切り時期に合わせて韓国でも書籍が出版された。 3月8日には ビョン・ヨンジュ監督の「火車」が封切りになる。7年連続で日本人が最も好む作家に選ばれた宮部みゆきの同名小説「火車」を映画化したもので、火車とは悪行を犯した死者を焼いて地獄に向かって走る伝説の火車のことをいう。 また、3月15日にはチャン・ユンヒョン監督の「GABI / ガビ-国境の愛-」が公開される。「朝鮮名探偵」の原作者 キム・タクァン作家の「露西亜珈琲」が原作で、朝鮮初のバリスタを巡る高宗暗殺作戦の秘密を描いた作品だ。 また1月11日には、世界的なベストセラー作家であるスティーグ・ラーソンの「ミレニアム」3部作の1部である「ドラゴン・タトゥーの女」を映画化した「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」(監督:デヴィッド・フィンチャー)が公開された。2月にはダグラス・マクグラス監督の「I Don't Know How She Does It(原題)」、スティーブン・スピルバーグ監督の「戦火の馬」や「マイ・バック・ページ」などが次々と封切した。2日に封切りした「I Don't Know How She Does It」は、23週連続でニューヨークタイムズのベストセラーに選ばれた同名小説を原作とした映画で、9日に封切りした「戦火の馬」も、1982年に出版されたベストセラー小説「War Horse」をもとに制作された。 また、15日に封切りした「マイ・バック・ページ」は、朝日新聞社の元記者である川本三郎の自伝小説「マイ・バック・ページ-ある60年代の物語」をもとに映画化された。
「凍える牙」公開初日に10万人動員!ランキング1位に
ソン・ガンホ、イ・ナヨン主演映画「凍える牙」(監督:ユ・ハ、制作:オパスピクチャーズ)が公開初日の17日、動員観客10万人を突破し、興行ランキング1位となった。17日、韓国映画振興委員会の映画館入場券統合ネットワークの集計によると、16日に公開した「凍える牙」は1日で10万2718人の観客を動員したという。今月2日の公開後、3週間連続で不動の1位だった「悪いやつら」(監督:ユン・ジョンビン、制作:パレートピクチャーズ)は同じ日、7万4088人(累積観客289万5309人)を動員して2位となり、ワンランク下がった。17日、300万人観客動員を目前にしている「悪いやつら」の勢いが、「凍える牙」の追撃によって止まるのか、関心が高まっている。ソン・ガンホ、イ・ナヨン主演の「凍える牙」は昇進したいがために、事件に執着する刑事サンギル(ソン・ガンホ)と、事件の裏に隠された秘密を明かそうとする新米刑事ウンヨン(イ・ナヨン)がパートナーとなり、狼犬による連続殺人を追う物語を描いた映画だ。
ソン・ガンホ 「観客も私に疲れを感じているようだ」
「凍える牙」を演出したユ・ハ監督は、ソン・ガンホの出演について「心強い味方を手に入れたようだ」と語った。女性と動物が主人公の商業映画を制作するのが容易でない状況でのソン・ガンホの存在は、一人の俳優が参加した以上の意味を持つためである。もしかしたら私たちは、ソン・ガンホが出てくる映画ではなく、ソン・ガンホが選んだ映画を見に劇場へ足を運んでいるのではないかと思うほど、彼の名前はとても誇らしく見える。新米の刑事ウニョン(イ・ナヨン)が女性の直感と根性で捜査する映画「凍える牙」でソン・ガンホが演じたサンギルは、彼女を支える役割だ。後輩に昇進争いで負けるほどの万年平刑事のため、事件も考課点数だけで見るサンギルは、ソン・ガンホ特有のリズミカルな演技が堪能できるリアルな人物だとみるのは難しい。前作で惜しい思いをした「青い塩」以降、「凍える牙」のサポート役として戻ってきたソン・ガンホとのインタビューは、なぜこの映画を選んだのか、そして俳優が責任を負わなければならないのはどこまでなのか、という話にまで発展した。―サンギルは、ソン・ガンホという名前から期待されるよりもずっと小さな役だ。ソン・ガンホ:役の重要度よりも内容が気に入ったのです。既存の韓国の刑事映画には見られない風変わりな面がありました。主流の映画にはないアンダーグラウンドな感性に焦点を合わせたところにも魅力を感じました。原作から女性刑事が主人公であるという作品で、当初のシナリオもほとんどウニョンが中心でした。しかし、映画的なおもしろさや豊かさをさらに付け加えるため、ユ・ハ監督が脚色すると、補助役というよりもパートナーとしての役割が強くなりました。話が後半に進むにつれ、さらにあいまいな点が出てくるのは仕方ないと思っています。サンギルの存在がちょっと薄れる代わりに、ウニョン本来の姿が引き立たなければいけませんから。―サンギルに対しての第一印象は、受け身だった。サンギルの頑固な性格のせいで事件が起こり、ウニョンは頬をぶたれたが、後になってのっそりと姿を見せる。そんな場面から、確実に責任を負いたがらない性格が表れている。ソン・ガンホ:実際にこの映画が笑いや商業的な要素を含んでいたとしたら面白く演出できたのですが、監督はあくまでも真面目な視点を持っていたので、私もその意見を尊重しようと思っていました。だから、それ以上映画的な面白さを追求する演出はしませんでした。ちょっとした瞬間に与えるイメージが、この映画をしっかりと構築しているのだと思います。女性刑事よりも、先輩の男性刑事であるサンギルに明らかに責任があるのに、ワキが甘いのが女性刑事です。単純な男女差別という問題ではなく、弱者に対しての見えない社会的暴力という気がします。女性だからではなく弱者だからで、弱者であっても彼女が男だったらそこまでひどい侮辱を与えられることはなかっただろうと思います。「作品ごとに線を引く必要はないと思っている」―弱者という側面では、サンギルも組織の覇権争いで敗れた弱者だ。ソン・ガンホ:以前はそのような立場で哀愁の漂う演技をしていました。「大統領の理髪師」や「反則王」の小市民的なプロレスラーのように。「優雅な世界」の暴力団員も、どこか弱者という感じでしたし。哀愁を演技に込め、それを通じて多くのイメージを伝えていましたが、「凍える牙」は現実を淡々と表現する点が違います。だから、いつもとは違う演技をしました。以前までのパターンだったら、サンギルがその状況を逃れるための行動や言葉で観客を笑わせることもできたのですが、あえてそうはしませんでした。それが今回の映画でのとても小さな、見えない変化である気がします。―いつも熱演というよりは、冷静に、知的に役作りされるようですが、それは哀愁を表現するためなのでしょうか。ソン・ガンホ:笑って悲しむ感情が与えるカタルシス(開放)がありますから。今回の映画も、もしサンギルの話だったら、もう一歩踏み込んでいたかもしれません。でも明らかにウニョンの話だったので、この程度のラインまで表現して、そこに留まるのが良いと考えました。―しかし、主演俳優の意欲というものがあると思う。頭で理解するのと、体で理解するのは違うこともあるだろうが、主人公としての意欲に慣れてしまった人として、やりすぎてしまったことはなかったのだろうか。ソン・ガンホ:やはり本能的にピンとくるときもあります。「これはもっと面白くすることもできたのに」と思う場面もたくさんありました。その場面の真面目さと深刻さを十分に観客に伝えながら愉快に終わらせることもできたのに、と思う部分はよくありました。でもそのようなことが積み重なると、作品がダメになってしまう。それは、私も監督も望んでいないことだから、瞬間的に観客に大きなカタルシスを与えられなくなっても、作品が進むべき方向をしっかりと決めなければならないと思います。―サンギルは正義感よりも生活のために動く刑事。リアリティはあるが映画的にはあまりにもあっけらかんとした設定のようだ。役の重要度は別にしても、この役を引き受けた理由がとても気になる。ソン・ガンホ:作品に出演し、以前演じた役と重なるようなイメージの役だったり、スポットライトが当たらない役だったとしても、少しでも意味がある役ならば挑戦したいと思っています。スポーツの試合のように、45分経てば終わって勝負がつくような作業ならば、作品ごとに選択の幅や決断の基準が変わっていたと思います。しかし、演技というものは10年、20年と自分自身が年をとりながら自然に流れていく作業なのです。つまり、作品ごとに線を引く必要はないと思っているのです。だからと言って手を抜くという意味ではありません。短期的な気持ちというよりは、ひとつの通過点だと思っています。今後の仕事で俳優としてリアリティを出すこともできますしね。自分としては、そのようにとても自由な考えを持っているのですが、そうは思わない人もいるようです。―意図しないうちに、結果的にはいつも線を引いていた、ということだろうか(笑)ソン・ガンホ:そのせいで「青い塩」の時も痛烈な批判や非難受けたんですよ。うははははは(笑) 「君にはとても失望したよ」という反応が、他の俳優より2、3倍は大きいこともあると十分に分かっています。興行結果はさておき、とにかくいつも話題作に出演していましたから。ただ言いたいことは、どんな作品でもいい加減に傍観するように演じたことはないということです。「青い塩」はもちろんのこと、今回の「凍える牙」も自分なりに意味を探しましたし、それをもって作品に臨みました。結果があまり良くなかった時もありますし、その瞬間は残念に思いますが、後悔はしていません。「作品を決める時、監督の好みや価値観が大切になってくる」―「青い塩」もドゥホンという人物を演じるのはおもしろそうだと思った。作品自体がよく話題になるせいで、演技に対する話が十分にされなかったということを改めて悟りながら、俳優が責任を負うべき部分がどこまでなのか、という疑問が浮かんだ。ソン・ガンホ:だからみんなシナリオ、シナリオという。シナリオが良くないと、どれだけ俳優が努力しても限界があります。だから俳優は90%以上がシナリオで決めるのです。私は監督の好みや情緒、価値観などを大切にします。もしシナリオに物足りなさや問題点があったとしても、挑戦してみたいと思います。―ユ・ハ監督やイ・ヒョンスン監督のような、ある程度自身の世界を作るカラーがはっきりとしている中堅監督との仕事は、どのような経験になったのだろうか?ソン・ガンホ:韓国映画で大ヒットを飛ばしたとか、すごく高評価を受けた作品を演出された方々ではありませんが、忠武路(チュムロ:映画の街として知られる地域)で先輩監督として粘り強く制作をされてきた方なので、一緒に仕事をしたいと思っていました。斬新で情熱あふれる新人監督との映画を作るのも良いけれど、遠い昔にデビューした先輩監督との作業も、とても意味のあることでした。この方たちが同じ世代を生きながら積み重ねてきた映画の感性が、また違った経験になりました。先ほど話したように、短距離選手ならば毎日ポン・ジュノ監督やパク・チャヌク監督の作品に出演するでしょうが、そうではないので。―刺激を受けたいと思う分、一方では力を与えたいと思ったこともあるのではないか。ソン・ガンホ:そのような部分も確かにあります。「青い塩」は結果的にそれがうまくいかなかったケースです。はははは(笑) 「凍える牙」は大丈夫そうですが。―最近、若い俳優のパートナーとして出演し続けてきたことも、後輩を指導するためだろうか。ソン・ガンホ:いいえ。なぜしょっちゅう女優と出演するのかと気にする方もいらっしゃいますが、女優が好きなためでもないし、後輩の力になりたいためでもありません。忠武路で長く活動していたためか、中年俳優にって先輩よりも後輩の方が増えた今の立場だと自然にそうなるのです。よく俳優側が(作品を)選ぶと考えられていますが、結果的には選ばれる立場だということを分かっていただきたいです。私にオファーが来る作品の中から選ぶのですが、広い意味では監督と制作者が俳優を選ぶのです。作品の時期、当時の状況や立場に合わせて進められる作品が、偶然にそのようになったというだけなのです。―キャラクターに対してもそうだが、作品や業界についても全体図を描いているようだ。ソン・ガンホ:もちろん全体も見ないと。一人の俳優にすぎませんが、「凍える牙」という映画を代表する顔であり、先輩俳優でもありますからね。この作品を観客に見せる時、私の役の重要度や責任が大きな影響を与えます。だからそのような点では、私だけでなく他の主演俳優も全体を見なければならないのは同じです。―俳優として、一度はやってみたい役などはないだろうか。全体に縛られてしまうと、そのような面白さを逃しかねないと思うが。ソン・ガンホ:そうですね。俳優として自然に年をとっていきますが、自分自身も年を取るわけですので、私がどのようなポジションにいなければならないのか、当然考えなければなりませんね。「来年はさらに新しい分野に挑戦する姿をお見せできると思います」―どういう瞬間に、年を取ったと感じるのだろうか。ソン・ガンホ:日常生活ではよく感じます。子供が成長する姿を見たり、白髪の増えた頭を見たり。でも、映画に出演する時はあまり感じません。もちろん体力的にはアクションをしても昔よりもすぐ疲れますし、夜に撮影があると辛くなるので、昔とは違うんだなぁとと思いますが、俳優として年をとったとはあまり感じません。外見やスタイルで多少変化することはあるでしょうが、基本的には昔と今であまり変わりはないようです。いつも元気に作品に取り組んでいます。―車のボンネットにしがみつくシーンを見て、大変そうだと思った。ソン・ガンホ:そういったシーンはそうですね。でも人の気持ちというのはとても不思議なもので、そんなシーンでは妙な力が湧いてくるんです。今後、肉体的にはさらに辛くなっていくのでしょうが、精神的なこと、俳優としての気持ちは、陳腐な表現かもしれませんが、いつでも二八青春(16歳前後の若者)なのではないでしょうか。チェ・ミンシク先輩もそう仰っていませんでしたか? オールド・ボーイのイメージで見ないでほしいと。ははははは。―恋愛映画にも出演できるということだろうか(笑)ソン・ガンホ:そう。俳優はみんなそうだと思います。―「凍える牙」のエンディングは自身のアイディアだと聞いた。作品の中での意味としては納得できるのだが、前に「義兄弟」のラストシーンについては、残念な点があったと話していたのを思い出すと、考え方が変わったようだが。ソン・ガンホ:それよりも、作品として見た時にさらに良くなると思って提案しました。「義兄弟」と「凍える牙」、それぞれのエンディングの大衆性は似通っていますが違います。「義兄弟」では家族と会うことが観客に幸せな結末を与え、興行という面では良いとは思いますが、現実的に見てそれが本当のハッピーエンドなのか、ファンタジー過ぎやしないのかと思いました。「凍える牙」では元々のエンディングは格好良く、原作の意味により近い表現ではあったものの、小さな希望の糸を私たちが残さなければならないのではないかと思い、話をしました。「義兄弟」の時は、非情なシーンを演出することによりさらに格が高い作品に仕上がるのではないかと思いましたが、そうしたらあんな風にヒットしなかったかもしれないので、不満はないです。うははははは(笑)―ソン・ガンホという俳優は、作品の選択であれ演技であれ、賢く変化球を投げることができる選手だと思っていた。でも「凍える牙」は重い直球を投げたように見える。自ら評価するとしたらどのようになるだろうか。ソン・ガンホ:もともと直球が150km/hを超えるとメジャー級で、140km/hを超えると韓国エース級だけど、私は130km/hほどなのです。速い直球、遅い直球があるように、本当に素晴らしい直球は、速い球を投げる能力を持っていてもそれだけを駆使することはしません。打者の目を眩ませ、タイミングが合わないようにする。素晴らしい投手は、速球を投げると思わせながら遅い直球を投げて調節するのですが、そのような意味で今回はとても遅い130km/hの直球を投げたのではないのかと思います。―スクリーンの外では姿をあまり見せないので、俳優としてのイメージが維持される半面、スクリーンでの姿だけで評価されてしまう部分もある。そのせいで酷評されてしまうこともあると思うが。ソン・ガンホ:そういった面もありますが、あまりに姿を見せすぎると何より観客たちが疲れてしまうのです。16年間映画俳優をしてきて、一年に1、2本ずつ映画に出ていると、あれこれ同じに見えて飽きてしまいます。しかしそれは自然なことで、受け入れなければならないことだと思います。実際、変化という点で俳優自らが「こんな風になりたい」などと言うのはナンセンスです。俳優の演技はそのようにして変わるものではありませんしね。いつでも誠意を持って作品や役柄に接しながら演技し、その気持ちが通じたときに、作品ごとに評価してもらえるのです。なので、自ら「前作のイメージがこうだったから今回はこのようにしなければ」とはできないし、それは俳優の姿ではないと思います。―次回作はポン・ジュノ監督の「スノーピアサー」に出演されるとのことだが。ソン・ガンホ:すぐに撮影に入ります。「凍える牙」が公開された後にチェコへ行き、一度戻って3月20日ぐらいから4ヵ月ほど現地で撮影します。―前作から次の作品に、簡単に気持ちを切り替えることができるのだろうか。ソン・ガンホ:撮影が終わると、まず手を離します。公開されると、気持ちも切り離します。一日が終わると、その瞬間にすぐセリフも忘れるのです。うははは。私も長い間役に入り込んで彷徨ったりもしたいのですが、背を向けるとすぐに忘れるタイプです。ヒット作でも、評価が高かった作品でも。―俳優としてはプレッシャーを感じるかもしれないが、ソン・ガンホという名前は信頼と誇りのあるブランドだ。戦略を立てて動くタイプではないとのことだが、今後もそれを守り抜いてほしいと願っている。ソン・ガンホ:そういった点では、今予定している作品で観客の希望に応えることができそうです。もちろん「スノーピアサー」もそうですが、公開は先になる歴史映画にも出演しました。歴史物には初めて挑戦します。その歴史映画と「スノーピアサー」は、あえて選択したラインナップではないけれど、結果的に観客の疲労を取り除くことができそうです。来年は、ソン・ガンホという俳優のまた違った姿をお見せできると思います。
Vol.2 ― イ・ナヨン「次回はソフトな演技がしてみたい」
女優イ・ナヨンは映画「凍える牙」で打たれ、転び、投げ込まれるなど、体を駆使するアクションシーンを披露した。前作のKBSドラマ「逃亡者 PLANB」(以下「逃亡者」)でも同様だった。体を張った彼女のアクション演技は、イ・ナヨンの違った一面を発見できた。特に痛快なキックは、見ている人たちの心までスッキリさせた。「逃亡者」では華麗なアクションシーンのために長いウィッグをつけ、着飾って役作りをしたのに対し、今回の映画では飾りを取り除いた。当初、衣装2セットとスニーカーひとつで映画を撮影しようとしていたという彼女は、黙々と感情を抑え、節制した演技を見せなくてはいけないという淡白さが役柄のウニョンと似ていた。それにしてもなぜイ・ナヨンは、リアルな喧嘩はもちろん、射撃とオートバイの運転など肉体的な苦痛だけではなく、感情表現を取り除いた難易度の高い「凍える牙」のウニョン役で再び戻ってきたのか。もちろん、ユ・ハ監督やソン・ガンホと一緒に作品を作ることへの欲もあっただろうし、女優が事件を解決する鍵を担って主導的に行動するという、韓国映画ではなかなか見られないキャラクターだったということもあるだろう。イ・ナヨンは「とりあえず、身勝手だった」と明かした後、「女優として、このようなキャラクターやこんな機会がまたいつ訪れるのだろうかと考えた。特に良かったのはジャンルもので、登場する女性の設定がイメージ通りにならず、メッセージや感情そのものを表現できるものだったから」と説明した。そして「たくさんの方々が見てくれたら嬉しいということと、当然お金を払って頂いた方に損をさせてはいけないという考えもあったし、一方では、今回の映画をきっかけに、女優たちの役が広がったらどうだろうと考えた」と付け加えた。イ・ナヨンが演じたウニョンはなかなか珍しいキャラクターだ。相手役のソン・ガンホが事件を解決して行くのではなく、彼が取り逃したものにイ・ナヨンが踏み込み、事件を解決していく。これまでの過程で、強力班という小さな世界で非主流になりやすい女刑事について取り上げ、狼でもなく犬でもない狼犬の話に、どこか妙に似ているウニョンと狼犬の関わりについても話した。そのため、「凍える牙」は単純なアクション映画でも、犯罪捜査ドラマでもない「感性捜査劇」に分類されるだけのことはある。このようなキャラクターを演じたのには、ソン・ガンホの力が大きかった。実は初めにシナリオをもらった時、彼の役割は助演程度だった。シナリオを作る過程を経て、主演のイ・ナヨンとセリフの分量が近くなった。ソン・ガンホは「凍える牙」のマスコミ試写会で「役ではなく、この作品が言おうとしていることに感化され、出演を決めた。我々も認識してはいるが、実際は黙認されている社会的暴力や、男というだけで社会的強者と表現する暴力性がある。その中で、存在しないともいえる珍獣と一番弱々しい女刑事という弱者同士が、傷を癒して希望を語るということが、とても魅力的だった」とし、「そのため、役にこだわらずに良かった」と、作品に出演することになった理由を説明した。ソン・ガンホは初めからイ・ナヨンのために協力なサポートに回ることを決心したも同然だった。このように力強い先輩は、撮影現場でもムードメーカー役を買って出た。イ・ナヨンは「とても面白い方だ。先輩といると笑ってばかりだ。先輩は現場のムードメーカーだ」と明かした。これと共に、映画の中に挿入された狼の鳴き声は、現場でずっと狼の鳴き声を真似ていたソン・ガンホのせいで挿入されたというエピソードを暴露した。劇中でソン・ガンホは、独特な彼らしいコミカルな演出を披露。同時に、ペク・チヨンの曲「銃に撃たれたように」を音痴では言い表せないほどのひどい実力で熱唱した。イ・ナヨンは「ソン・ガンホ先輩は、ペク・チヨンさんに本当に申し訳ないと感じていた。だから、ペク・チヨンさんは気に入るだろうと伝えた」と、ソン・ガンホを慰めた話をし、笑いを誘った。実際にソン・ガンホの歌より人々の感性を刺激したシーンは、イ・ナヨン演じるウニョンが宴会の席で歌を歌うシーンであった。ウニョンは「辛い時は空を見て、私はいつも一人じゃない」などの歌詞で、自分自身の立場を代弁するようなソ・ヨンウンの「独りじゃない私」を歌った。彼女は「歌を決める時、監督とたくさん話をした。監督が『カスバの女性』が好きで歌ってみたのだが、私が歌うトロット(韓国の演歌)な感じも面白かった」と語った。それから、「(『一人じゃない私』が)女刑事が歌う曲の一つだ」と話し、歌詞の内容からユ・ハ監督が映画に入れることにしたという後日談を伝えた。2つのアクション作品を続けて演じた彼女は、次はどんな作品に挑戦したいと考えているのだろうか。彼女は「キャラクターが決まっているものを演じてみたい気もするし、作ってみたい気もする。あるいは『逃亡者』や『凍える牙』で走り続けてきたので、ソフトな感じの演技もしてみたい」と話し、「今の私は、どういった言葉遣いや行動で日常の姿を演じることができるのかという疑問があるので、コメディでも、ラブストーリーでも楽に演じていきたい」と打ち明けた。
Vol.1 ― イ・ナヨン「凍える牙」は私にとって実験だった
イ・ナヨンは映画「凍える牙」で、事件の裏に隠された秘密を明かそうとする新米刑事のウニョン役に扮した。普通、映画の中に登場する女刑事といえば強情なイメージがまず思い浮かぶ。それだけに、強情ではないイ・ナヨンが演じる刑事の姿が、頭の中にすぐ思い描けなかったが、「凍える牙」の中の彼女は、強い女刑事そのものだった。彼女は今回の映画に入る前に自分自身を消し、映画を撮りながら消した空間を埋めていった。彼女にとって今回の作品は、一種の実験と同じだ。本人は「演技が難しかった」と言うが、イ・ナヨンの再発見といった修飾語が付くほどに、本人の演技の幅を一段階広げるきっかけになった。イ・ナヨンは「あの時の表情をもう一度やってみろと言われてもできません。映画では全体的にぎゅうぎゅうと感情を押し込んで、淡々と表現することがほとんどだった」と話し、「適度なラインを保つことが難しかった」と語った。彼女は強い先輩に食って掛かるシーンでも、相手への感情を爆発させることはなかった。そこが目立ってしまうとキャラクター化してしまうのではないかという懸念があったためだ。それゆえ、イ・ナヨンにとって「凍える牙」での演技は一瞬一瞬が難しい作業だった。彼女は「なんでも学んでみよう自分がしたことがないこと、難しいことに打ち勝ってみようという気持ちで、この作品を始めた。私にとっては、自分自身に対しての実験であり、しなくてはならないことだった」と説明した。彼女の実験は成功したか? イ・ナヨンは自分自身にどれだけ満足しているのかについて話す前に、「ひとまず、映画を無事に終えた」と話して笑った。「凍える牙」の中で見せたイメージに合わせて、わざと安心した姿を見せた後、「監督からひとまずのオッケーをいただいてそのまま映画が終わったので、それは成功ではなかったんじゃないかな」と謙虚な姿勢を見せた。デビューして14年目になる女優が、新しいことに挑戦しようと決心したこと自体簡単なことではないが、イ・ナヨンは自分を消して、また埋めていくことを恐れなかった。これは彼女の演技にかける意欲の成せる技ではないかと思う。実際に「凍える牙」でイ・ナヨンがソン・ガンホ(サンギル)と対立するイ・ソンミン(ヨンチョル)に、頬を打たれるシーンについての話が出るやいなや、目を輝かせ、「そのシーンよくないですか?」と逆に聞かれるほどであった。彼女は「撮ってから、とても誇らしかった」と話し、「私はもともとそういうのが好きだ」と冗談まじりに話した。本当に頬を打たれたせいで2、3日は頬が腫れていたが、撮影前から自分に「申し訳ない」と言っていたイ・ソンミンがむしろ心配になった。撮影は一回で済んだが、頬を打った後にセリフを言うイ・ソンミンが震えていたためである。一方で、ユ・ハ監督は物足りなさを表した。イ・ナヨンは、「しっかり打たれたせいで髪の毛が頬を隠してしまったので、手形がよく見えるように髪の毛を結んだ後、もう一度撮影したがっていた」と、そのシーンをもう一度撮りたがったユ・ハ監督について話した。しかし髪の毛を縛る場合、前後の流れに合わず、他のシーンまですべて撮り直しをしなくてはいけないため、ユ・ハ監督を説得したのだそうだ。イ・ナヨンは、自分を「私は、自分が見てもおかしいと思う」と評価した。難しいアクション演技(「凍える牙」「逃亡者 PLANB」)も惜しまず、時には男に扮して(「パパは女が好き」)、ヒゲをつけて男装をすることもためらわない(「明日に向かってハイキック」カメオ出演)彼女は、一緒にいるだけでも楽しめる愉快な俳優だ。
映画「凍える牙」緩んだ構成、力の抜けた狼犬の空しい鳴き声
出世には縁がなく、出世に繋がらない捜査ばかりを担当している警察強力第5班の後片付け専門の刑事・サンギル(ソン・ガンホ)は、同じチームになった巡察隊出身のウニョン(イ・ナヨン)が気に入らない。心を込めたアドバイスと言えるのは、「ここで男に勝とうとすれば、最後にはここにいられなくなる。時には加減したほうが良い」ぐらいだ。しかし、ウニョンは自身に任された都心の連続自然発火事件を黙々と捜査し、被害者の遺体に残された動物の噛み跡で、狼と犬の変種である狼犬が殺人兵器として使われていることに気付く。この事件の裏に麻薬を利用した未成年の性犯罪者がいることを突き止めたウニョンは、彼らを追いかける。昇進の評価点数を気にして、上司に報告をせずに捜査をするチーム長のサンギルとことごとく意見が合わないのも、ウニョンにはストレスだ。結局二人は強力班から孤立してしまう。サンギルはひとまず危機を逃れようと必死となり、ウニョンは犯人と内部の敵を同時に相手しなければならない二重苦を強いられる。捜査網が狭まると、犯人は予想外の場所で足跡を絶ち、ウニョンは罪悪感に悩まされている元警察犬訓練士がこの事件に介入されていることを知ってショックを受ける。映画「凍える牙」は、狼犬と冷酷な犯罪組織を一網打尽する二人の刑事の活躍を期待して見ようとすれば、少なからず「裏切られる」ような映画だ。残酷な犯罪者を裁く刑事のストーリーは、この映画のアウトラインにすぎない。「凍える牙」が伝えたいのは、どこにも属することができず、彷徨っているボーダーラインにいる人々の物語と、彼らとのコミュニケーションだ。小説「凍える牙」を脚色した映画「凍える牙」は、原作があるからこそ一層繊細に描くべきだった。ウニョンの心の変化や内面の声にもっと耳を傾けるべきだった。「強力班」という男社会に溶け込めずに空回りしているウニョンは、男性でも女性でもなく「中性」としての存在を強いられる。強力班の刑事にとってのウニョンは、捜査手法や犯人を逮捕するコツを教えるべき後輩ではなく、溜まっている捜査費用の領収書を片付けてくれたり、カラオケで一緒にブルースを踊れるような目下の人間に過ぎない。既婚でも未婚でもなく、バツイチで家族もいないウニョンは完璧な一人ぼっちであり、疎外された人物として描かれる。孤独な彼女だからこそ、殺人兵器として利用されている狼犬を見て、恐れるよりは狼犬の悲しい目にどこか自身と似ているという感情を抱くようになり、憐憫へと発展していく。野獣でもなく、ペットでもない狼犬と、疎外されているウニョンの境遇がまるでデカルコマニーのように重ね合わされるのだ。残念なことに、このようなウニョンの憐憫に馴染むことは容易でない。繊細な筆で描くはずの絵を、太い筆で描いたような鈍い感じがするのは、原作を生かせなかった脚色や演出のせいだ。あまりにも膨大なストーリーやソースを手に入れたために選択と集中に失敗し、シーンの繋ぎ合せのような印象を受けた。映画「マルジュク通り残酷史」「卑劣な街」で、疎外されている人物の寂しさを上手く演出してきたユ・ハ監督は、映画「霜花店(サンファジョム)-運命、その愛」の頃からどういうわけか自身の色を失っているのではないかという気がする。劇中でソン・ガンホが昇進した後輩に「初心を忘れるな」とベルトをプレゼントするシーンを言及したら言いすぎだろうか。「熱演はしない」という言葉の通り、イ・ナヨンを支えているソン・ガンホの演技は捨て所がない。わざと高い声を出したり、大げさな仕草をしなくても、彼の感情と心臓の鼓動は十分客席に伝わった。映画「義兄弟~SECRETREUNION~」「青い塩」に続き、後輩との共演に力を入れている彼の活躍は、演技以外の部分も含めて尊重したい。最近の興行成績はあまり良くなかったが、イ・ナヨンもウニョンというキャラクターを完璧に演じ切り、見応えがあった。いつ雨雲が雨を降らせるのか分からないという言葉の通り、イ・ナヨンを見ていると、いつその無表情から雷が落ちてくるのかが楽しみである。顔の筋肉を最小限に動かしながらも豊かな感情演技をこなす彼女は、ベテランといえる演技を見せてくれた。時間の関係で削除されたが、ウニョンの胸のうちをナレーションで表現していたのなら、映画がより一層輝いたのではないだろうか。そうすれば、言葉の話せない狼犬とウニョンのシンクロ度が一層高まったのかもしれない。「グエムル-漢江の怪物-」などいくつかの作品を除くと、韓国では動物のストーリーを描いた映画が良い興行成績を上げたことはほとんどない。「凍える牙」がこのジンクスを乗り越えられるのか、注目したい。映画「凍える牙」は、韓国で16日から公開される。
「凍える牙」荒々しくも温かい、ユ・ハ監督特有の映画
映画「凍える牙」は荒々しい印象の捜査劇とユ・ハ監督の独特な感性が混ざった作品という点が異色だ。ユ・ハ監督は前作「マルチュク青春通り」や「霜花店(サンファジョム)-運命、その愛」、そして更に遡って「情愛」まで、人間の内にある感情をひねりながらも、温かみは忘れなかった。「凍える牙」もその例外ではない。ジャンル言えば捜査劇だろう。しかしユ・ハ監督は「(この映画を通して)家族についての話をしたかった」と語った。そして「家族の温かさを肯定的に描写する映画は多いが、家族の影になっている部分についての話は少ない。血縁主義の排他性、家族のエゴイズムについて反省する映画が必要ではないかと考え、この作品を作ることになった」と付け加えた。結局「凍える牙」は残酷な狼犬の連続殺人事件についての物語ではなく、家族についての物語なのだ。主人公の女刑事のチャ・ウニョン(イ・ナヨン)とチョ・サンギル(ソン・ガンホ)についての描写でも家族についての話がほとんどの部分を占める。ウニョンは刑事という職業を理解してくれない夫と離婚したバツイチで、サンギルもやはり職業のせいで家庭を守れなかった無能な一家の主として登場する。そんなふうに壊れた家庭の隙間を見せながら、映画は家族の定義を問う。大変な刑事の仕事をやめて、女らしく結婚して生活しなさいという周囲の言葉に、「なんでそうやって生きなきゃいけないんですか?」とウニョンが反論するシーンはそのひとつの例だ。さらに、ウニョンとサンギルだけではなく、狼犬の生き方にも家族についての質問が投げかけられる。ユ・ハ監督はマスコミ試写会で「犬とジョンア(ナム・ボラ)が皿を並べて一緒にご飯を食べるシーンが、私が伝えたいメッセージである。我々の社会ももう多文化社会になった。他者としての付き合いや親交が家族の意味を拡張させ、それと共に人類の平和をもたらすのではないかという考えだ」と伝えた。また、狼犬が狼と犬の交配で作られた、狼でも犬でもない存在であることにも大きな意味がある。しかし捜査劇というジャンルの特性と家族についての問いかけ、更に青少年の性犯罪と既得権の不正など、さまざまな素材を取り入れたため、ユ・ハ監督特有の温かくも鋭い批判精神は弱まった。公開は16日。狼犬の連続殺人事件を扱っているが、15歳から観覧できる。
「凍える牙」イ・ナヨン“離婚した女刑事と狼犬、感情は同じなんです”
映画の中で演じたチャ・ウニョンと狼犬との妙に似通った部分について話す時、女優イ・ナヨン(33)の目が輝いた。犬と狼の変種である狼犬とウニョンはどこかが似ている。男社会である警察強力班で男の先輩から無視され、なかなかなじむことができない巡察隊出身のウニョンは、男性と女性の間をさまよっている。そして、既婚でも未婚でもない、離婚した女性としてのウニョンも、居場所を見つけられない完全な他者である。「狼犬は撮影現場で『大御所俳優』扱いでした」イ・ナヨンは「シナリオを読んでみて、無条件で演じてみたいと思いました」と語り「非主流や寂しさ、孤独などを表現してみたかったし、ヒロインのシーンの割合が圧倒的に多いにも関わらずソン・ガンホ先輩が出演を決めたので、ためらう理由がさらになくなりました」と説明した。「狼犬が映画ではどのように描かれるのかがとても気になりました。シナリオを読んで、日本の原作小説『凍える牙』も読みました。どのシーンもとても楽しみで、ソン・ガンホ先輩と共演できたことも嬉しかったです。あまりない経験ですからね。初めの頃は、なぜソン・ガンホ先輩がこの映画を選んだのか疑問だったんですが『シークレット・サンシャイン』を思い出して納得しました。彼は映画の興行成績や出演シーンの割合だけを気にする人ではありませんから」劇中でウニョンは、昇進に失敗したサンギル(ソン・ガンホ)と共に、都心で発生する連続自然発火事件を捜査する。その過程で、殺人の背後には狼犬がいて、その背後にはさらに悪質な犯罪集団がいることに気付く。一次検挙対象である狼犬は、元警官の復讐の手段として利用されており、加害者というよりは被害者だった。イ・ナヨンは「この映画には、『アジョシ』のウォンビンのように、主人公から伝わってくる感動があります。それがよかったし、それが物語の本筋だと感じました」と答え「撮影途中に生じた、多くの疑問符を感嘆符に変えてくれたユ・ハ監督にも感謝したいです」と微笑んだ。「情愛」の時から、人間の寂しさを圧縮的に描写するユ・ハ監督のファンだったという彼女は「不良や任侠世界の映画を多く作った監督がこのような映画を作るというから、初めはとても不慣れな感じでした」と説明した。「コントロールできない動物が出演する映画だから、俳優が後回しにされる日も多かったです(笑) 俳優の間で狼犬のジルプンは『大御所俳優』と呼ばれてました。俳優たちの食事より高い餌を食べて、毎日のコンディションが重要視されていたからです。ジルプンの好きなおやつであるピーナッツを用意するのも製作部の重要な仕事でした」ウニョンはいつも自分を無視し、何かしようとすると「ちょっとどいて」と言うサンギルが気に入らないが、パートナーとして組むことになる。そうするうちに、離婚して二人の子供を一人で育てるサンギルの事情を知り、サンギルを可哀想に思うようになる。徐々に息を合わせていく二人は、終盤、遂にそのチームワークを遺憾なく発揮することとなる。「第5班はよく見ると、班長からすべての刑事がどこか欠けている人ばかりです。ネジが一つずつ緩んでいる感じですね。私たちが今何のために生きていて、どう暮らしていくのが正しいのかと自問自答する映画になりそうです」「監督に『ナヨンはなぜ怒らないのか』と聞かれたことも」ここでイ・ナヨンに聞いた。あなたは今どんな風に暮らしているのか、計画通りの人生なのか、と。すると彼女は「経験ほど怖いものはないと思う。だからデザイナーのジ・チュンヒ先生のように人生を見抜く力のある方によく会って、インスピレーションを得たり、ヒントを得たりするんです」と答えた。そして「良い人間関係とは互いに利害関係なく、会って笑顔で話せる仲だと思います。相手に何かを望み、期待する瞬間、失望するようになり、そうなると人間関係がグチャグチャになってしまうから」と付け加えた。「誰でも幸せになるために生きているんだと思います。幸せになるためには欲をどこまで抑えればいいのか、知りたいです。世の中って欲がないと発展できないところでしょう? すぐ答えが出てこなくても、私はいつもそんな風に人生に対する疑問を抱いています。何も考えず生きるのは、退屈で時間の無駄遣いのように思えてしまって」映画「パパは女の人が好き」(09)とドラマ「逃亡者 PLAN B」(09)の成績があまりよくなかったが、それが刺激になったのではないかと尋ねると、これに対してイ・ナヨンは「あまりにも楽な道だけを歩こうとしたのではないかと、反省しました」と答えた。「実際『凍える牙』を選んだのも、私が持っているすべてをリセットして、新しく始めてみようと考えたからでした。ある日、監督が『ここまでしたら怒ってもおかしくないのに、ナヨンはどうして全然怒らないのか』と聞いてきました。私を全部カラにした結果だったんですけどね。監督としては俳優が怒る姿を見たかったのかもしれませんが、私はとにかく今回は自分のモードを自責モードにセットしました。不思議なことに、そうするとすべてのことが楽になったんです(笑)」この映画の名シーンである、ウニョンがバイクに乗って狼犬を追撃するシーンについて「も聞いてみた。このシーンのため、生まれて初めてバイクの免許を取り、どっしりとしたバイクを運転してみたという。もし防護服やヘルメットがなかったら大きなケガに繋がりかねない事故も経験した。イ・ナヨンは「時速60Kmが超えると、重いバイクがまるで鳥の羽のように軽くなる快感を経験しました。走るときはいいけど、乗る時と降りる時にバイクを支えるのが難しくてそれに苦労しました」と笑った。「去年の今頃、田舎のあぜ道で初めてバイクを習いました。寒い日にデコボコの道武術監督に『何で私のことをこんなに強く鍛えるのか』と文句を言ったりもしました。それからもう一年が経って、映画も公開間近になったんですね。人生は自分の年と同じ速度で走ると聞きましたが、私ももう30代半ばです(笑) 大切なのは、速度よりも信号をきちんと守って、他の車を配慮することかもしれませんね」
「凍える牙」ユ・ハ監督“イ・ナヨンはリアルとファンタジーが共存する女優”
6日午後、ソウル・往十里(ワンシムニ)CGVで映画「凍える牙」(監督:ユ・ハ)のマスコミ試写会が行われた。この場でユ・ハ監督は「僕は映画を作るのが下手だけど、いい俳優たちに恵まれていると思う。今回もやはり運が良いと思ったのが、いつか必ず一緒に映画を撮りたいと思っていたソン・ガンホが出演してくださったのだ。とてもわくわくしていた。また、イ・ナヨンのリアルとファンタジーが共存する顔はこの映画にぴったりだと思った」と語った。一方、女優イ・ナヨンは「監督はOKサインをあまり出してくれなかった。難しかったけど、先輩が隣にいてくれたので無事に撮影を終えることが出来たと思う」と感想を伝えた。映画「凍える牙」は、狼犬による連続殺人事件の秘密を暴こうとする二人の刑事ソン・ガンホとイ・ナヨンの物語を描いた捜査劇で、韓国で2月16日から公開される予定だ。
ソン・ガンホが語る、女優イ・ナヨンとは?
俳優ソン・ガンホが、女優イ・ナヨンの演技について正直に語った。6日午後、ソウル・城東区(ソンドング)・杏堂洞(ヘンダンドン)・往十里(ワンシムニ)CGVで開かれた映画「凍える牙」(監督 ユ・ハ)のマスコミ試写会に、俳優ソン・ガンホ、イ・ナヨン、ユ・ハ監督が共に出席した。この日ソン・ガンホは、イ・ナヨンと共に出演した感想について、「イ・ナヨンはよく知っている後輩だが、共演するのは今回が初めて」「静かで内気なようだが、現場では驚くほど居心地が良かった」と話した。さらに「一番きつくて難しいアクションシーンを撮るときでもユーモアを忘れず、相手の気持ちが楽になるようにしてくれた。そういう点は、なにか目的を持ってするのと自然にするのとでは、はっきりと違いが出るはずなのだが、彼女の場合は自然に身体からにじみ出ていた」と言い、「頭で計算してする行動ではないと思う。生まれ持った人間性が、とても立派だと思う」と褒めた。映画「凍える牙」は、狼犬連続殺人事件の秘密を追っている2人の刑事、ソン・ガンホとイ・ナヨンの話を描いた捜査劇で、16日から韓国で公開される。