「3人のアンヌ」ホン・サンス“芸術家は高地に向かって走る突撃隊ではない”
カンヌ国際映画祭のレッドカーペットを歩く時も蝶ネクタイをしないほど、固い格式を好まないホン・サンス監督が23日の午後(現地時間)、クロワゼビーチ、カールトンホテルの1階でカジュアルな服装でインタビューに応じた。彼はこの日、サンダル姿で現れた。
芸術家の所信と自負がひしひしと感じられた時間だった。現実を恨むことなく、自身だけのユニークな方式で10年以上を人生の空しさ、理不尽さにフォーカスを当ててきたホン・サンス監督とインタビューを行った。
自身の13作目の映画「3人のアンヌ」(制作:JEONWONSA FILM)が第65回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品されたホン・サンス監督と、23日の午後2時(現地時間)にカールトンホテルで会った。サンダルを履いたラフな姿で現れた彼は、座ってすぐタバコに火をつけた。プライベートのことを聞かれると笑い、女優のことを聞かれると沈黙で答えを避けていた彼だったが、映画に関する質問にはまるで四輪駆動の自動車のように思う存分エンジンを回してくれた。
フランスの国民的女優イザベル・ユペールに関する質問を惜しむ必要はなかった。こちらの質問に、ホン・サンス監督は「昔から好きだった女優であり、彼女も僕への信頼があったので、キャスティングに成功しました。今朝も少し会いましたが、次は寒い冬にもう一本撮りましょうと言われました」と笑顔で答えた。世界的な女優を無報酬でキャスティングしたあなたが“本当のお金持ちの監督”だと言うと、大きく笑ってくれた。
「航空チケットと食事、ホテル以外はこちらで何もやっていません。彼女も出演料のことを考えていたなら、僕と作業しなかったでしょう。僕の映画に出演している韓国の俳優たちも、すごく少ない金額で出演してますが、それを考えると僕はすごく運の良い人です(笑)」
1~3部で構成されている「3人のアンヌ」では、それぞれのエピソードにアンヌという名前の女性が登場する。映画監督、不倫をする女性、離婚した女性として登場するアンヌは、茅項(モハン)という海浜の町にあるペンションに泊まり、海上救助員(ユ・ジュンサン)をはじめとする数人の人物に繰り返し遭遇する。
ホン監督は「僕たちが外国人に出会った時に経験する様々な感情を描くのは、興味深いと思いました。避けたり、照れたり、必要以上の親切を見せる人々を繰り返して映すことで、僕たちが気付いていなかったある姿を捉えることができるだろうと思いました」と説明した。その人々の姿を拡張すれば、国籍と関係なく全ての人が他の国の人のように見えるかもしれないということだった。
「コミュニケーションの不完全さと、交感を見せたかったんです。『人は他人と交感する』のではなく、どの地点で交感が途絶え、疎通できなくなるのか。どうすればスムーズにコミュニケーションをすることができるのかを日常を通じて描きたい欲求がありました」
パートを3つに分けた理由については「独立的であって、またある時点ではその独立性が濁るところを最大に表現するために」と答えてくれた。例えば第3部のアンヌが第2部のアンヌをピックアップする姿や、第1部の海辺に捨てられ割れていた焼酎の瓶が第3部のアンヌが捨てたものかもしれないと推測できるようにする方式だ。全く異なる3つのパートが、実は小さなネジ数本で繋がっているという印象を与える。回転ドアの中にいると、まるで外と中を自由自在に行き来しているように見えても、実は同じところを回っているだけにすぎないように。
ホン・サンス監督は「僕たちが経験して心得た事実を、果たしてどこまで信じるべきなのか疑問を感じていました。その疑問を観客とともに解いてみたいと思いました」と話した。監督自身も「人生は疑問だらけなので、こうやって映画を一本一本撮りながら僕もその疑問を解いています」と哲学者のように笑った。
“知っている分だけ見える”という面から、ホン・サンスの映画は不親切だという話をしてみた。「好きな人だけ見ろ」というような態度ではないかと疑問を感じていた。ホン監督はタバコを吸い続けた。
「他の監督と映画を作る基本的な理由が異なっているため」だと話を始めた。「他の監督は、観客とコミュニケーションを取り、共感を得ることを重んじていますが、僕はそうではありません。普遍的な情緒と日常を描きながら、僕自身が何かを発見し、悟ることでやっと映画の作業を終えることができます。どんなに小さいことでも、映画を撮る前には知らなかった何かの事実を発見することが目標であるということが、僕の映画の特徴であり、志しているところでもあります」と答えた。
ユ・ジュンサン、イ・ソンギュン、チョン・ユミなど、常連の出演俳優たちがいるが、キャスティングの原則は何だろうか。彼は「僕は俳優の顔を思い出し『似合う、違う』を判断するような性格ではありません。誰かが偶然ある俳優の名前を言い出した時、あるいは偶然テレビで僕の好奇心を刺激するような人を見つけた時に連絡を取ってみるスタイルです。もちろん、断られることも多いですよ(笑) ありきたりで予想できるような人は除いて、直感と好奇心でキャスティングしています」と話してくれた。
「金の味(THE TASTE OF MONEY)」のイム・サンス監督をはじめ、22本の競争作品があると話すと「カンヌでの授賞が、僕にとって役に立つか邪魔になるのかはまだ分かりません」と笑った。みんなが美味しく食べている餅も、誰かは喉が詰まって死んだりもすると言うホン監督は「授賞というのは、努力次第というよりはその年の審査委員の傾向で分かれることが多いものです。なので、期待のかけすぎは禁物」と固く答えた。それなのに、引き続きカンヌ国際映画祭に映画を出品している理由は何だろうか。彼は今年でカンヌから8回目の招待状をもらった、韓国では最も多くカンヌ国際映画祭に参加した監督だ。
「カンヌ国際映画祭は、世界から最も多くの人々が訪れ、映画にフォーカスを当てる映画祭です。僕の映画は、全ての人を満足させることはできないので、僕の映画が好きになってくれそうな新しい観客を求めてここに来ています。大きな市場なので、このチャンスを逃さずホン・サンスの映画をセールスするのです」
フィルムの代わりにRed OneやiPhoneで映画を撮る考えはないかと聞くと「まだありません」と答えた。機械やテクニックよりは、どんな空間でどんな俳優と作業をするのかのほうが遥かに大事だからだと言う。
出演した俳優たちの話をしている途中、女優コ・ヒョンジョンの話が出た。彼女に関する感想を聞くと「いや、それはここでは言えません。そんな話は本人に直接伝えたほうが良いでしょう。僕が感じた感情を文章に移すと、歪曲されて伝わる可能性が高いので、気をつけています」と答えた。
イム・サンス監督とは面識があるのかと聞くと「全くありませんでしたが、ユン・ヨジョンさんの紹介でイム監督が僕の映画の試写会に来てくれました。一緒に飲みに行きましたが、清潔で飾り気のない方だという印象を受けました」と話した。下の名前が同じであることから“2サンス”と言われていることについては「小学生が名前でからかっているようで、そんなに良い気分ではありません」と笑った。
「芸術家は特定の高地に向かって走る突撃隊ではありません。なので、30歳で作った映画が60歳で作った映画より劣っているとは思っていません。20歳で映画を撮ったとしても、その時の自分の全ての感情とエネルギーを使い切ったならば、それは生涯最高の傑作になるのです。大事なのは、その瞬間に最後まで最善を尽くしたかですね。遠くカンヌまで来て下さってありがとうございました」
芸術家の所信と自負がひしひしと感じられた時間だった。現実を恨むことなく、自身だけのユニークな方式で10年以上を人生の空しさ、理不尽さにフォーカスを当ててきたホン・サンス監督とインタビューを行った。
自身の13作目の映画「3人のアンヌ」(制作:JEONWONSA FILM)が第65回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品されたホン・サンス監督と、23日の午後2時(現地時間)にカールトンホテルで会った。サンダルを履いたラフな姿で現れた彼は、座ってすぐタバコに火をつけた。プライベートのことを聞かれると笑い、女優のことを聞かれると沈黙で答えを避けていた彼だったが、映画に関する質問にはまるで四輪駆動の自動車のように思う存分エンジンを回してくれた。
フランスの国民的女優イザベル・ユペールに関する質問を惜しむ必要はなかった。こちらの質問に、ホン・サンス監督は「昔から好きだった女優であり、彼女も僕への信頼があったので、キャスティングに成功しました。今朝も少し会いましたが、次は寒い冬にもう一本撮りましょうと言われました」と笑顔で答えた。世界的な女優を無報酬でキャスティングしたあなたが“本当のお金持ちの監督”だと言うと、大きく笑ってくれた。
「航空チケットと食事、ホテル以外はこちらで何もやっていません。彼女も出演料のことを考えていたなら、僕と作業しなかったでしょう。僕の映画に出演している韓国の俳優たちも、すごく少ない金額で出演してますが、それを考えると僕はすごく運の良い人です(笑)」
1~3部で構成されている「3人のアンヌ」では、それぞれのエピソードにアンヌという名前の女性が登場する。映画監督、不倫をする女性、離婚した女性として登場するアンヌは、茅項(モハン)という海浜の町にあるペンションに泊まり、海上救助員(ユ・ジュンサン)をはじめとする数人の人物に繰り返し遭遇する。
ホン監督は「僕たちが外国人に出会った時に経験する様々な感情を描くのは、興味深いと思いました。避けたり、照れたり、必要以上の親切を見せる人々を繰り返して映すことで、僕たちが気付いていなかったある姿を捉えることができるだろうと思いました」と説明した。その人々の姿を拡張すれば、国籍と関係なく全ての人が他の国の人のように見えるかもしれないということだった。
「コミュニケーションの不完全さと、交感を見せたかったんです。『人は他人と交感する』のではなく、どの地点で交感が途絶え、疎通できなくなるのか。どうすればスムーズにコミュニケーションをすることができるのかを日常を通じて描きたい欲求がありました」
パートを3つに分けた理由については「独立的であって、またある時点ではその独立性が濁るところを最大に表現するために」と答えてくれた。例えば第3部のアンヌが第2部のアンヌをピックアップする姿や、第1部の海辺に捨てられ割れていた焼酎の瓶が第3部のアンヌが捨てたものかもしれないと推測できるようにする方式だ。全く異なる3つのパートが、実は小さなネジ数本で繋がっているという印象を与える。回転ドアの中にいると、まるで外と中を自由自在に行き来しているように見えても、実は同じところを回っているだけにすぎないように。
ホン・サンス監督は「僕たちが経験して心得た事実を、果たしてどこまで信じるべきなのか疑問を感じていました。その疑問を観客とともに解いてみたいと思いました」と話した。監督自身も「人生は疑問だらけなので、こうやって映画を一本一本撮りながら僕もその疑問を解いています」と哲学者のように笑った。
“知っている分だけ見える”という面から、ホン・サンスの映画は不親切だという話をしてみた。「好きな人だけ見ろ」というような態度ではないかと疑問を感じていた。ホン監督はタバコを吸い続けた。
「他の監督と映画を作る基本的な理由が異なっているため」だと話を始めた。「他の監督は、観客とコミュニケーションを取り、共感を得ることを重んじていますが、僕はそうではありません。普遍的な情緒と日常を描きながら、僕自身が何かを発見し、悟ることでやっと映画の作業を終えることができます。どんなに小さいことでも、映画を撮る前には知らなかった何かの事実を発見することが目標であるということが、僕の映画の特徴であり、志しているところでもあります」と答えた。
ユ・ジュンサン、イ・ソンギュン、チョン・ユミなど、常連の出演俳優たちがいるが、キャスティングの原則は何だろうか。彼は「僕は俳優の顔を思い出し『似合う、違う』を判断するような性格ではありません。誰かが偶然ある俳優の名前を言い出した時、あるいは偶然テレビで僕の好奇心を刺激するような人を見つけた時に連絡を取ってみるスタイルです。もちろん、断られることも多いですよ(笑) ありきたりで予想できるような人は除いて、直感と好奇心でキャスティングしています」と話してくれた。
「金の味(THE TASTE OF MONEY)」のイム・サンス監督をはじめ、22本の競争作品があると話すと「カンヌでの授賞が、僕にとって役に立つか邪魔になるのかはまだ分かりません」と笑った。みんなが美味しく食べている餅も、誰かは喉が詰まって死んだりもすると言うホン監督は「授賞というのは、努力次第というよりはその年の審査委員の傾向で分かれることが多いものです。なので、期待のかけすぎは禁物」と固く答えた。それなのに、引き続きカンヌ国際映画祭に映画を出品している理由は何だろうか。彼は今年でカンヌから8回目の招待状をもらった、韓国では最も多くカンヌ国際映画祭に参加した監督だ。
「カンヌ国際映画祭は、世界から最も多くの人々が訪れ、映画にフォーカスを当てる映画祭です。僕の映画は、全ての人を満足させることはできないので、僕の映画が好きになってくれそうな新しい観客を求めてここに来ています。大きな市場なので、このチャンスを逃さずホン・サンスの映画をセールスするのです」
フィルムの代わりにRed OneやiPhoneで映画を撮る考えはないかと聞くと「まだありません」と答えた。機械やテクニックよりは、どんな空間でどんな俳優と作業をするのかのほうが遥かに大事だからだと言う。
出演した俳優たちの話をしている途中、女優コ・ヒョンジョンの話が出た。彼女に関する感想を聞くと「いや、それはここでは言えません。そんな話は本人に直接伝えたほうが良いでしょう。僕が感じた感情を文章に移すと、歪曲されて伝わる可能性が高いので、気をつけています」と答えた。
イム・サンス監督とは面識があるのかと聞くと「全くありませんでしたが、ユン・ヨジョンさんの紹介でイム監督が僕の映画の試写会に来てくれました。一緒に飲みに行きましたが、清潔で飾り気のない方だという印象を受けました」と話した。下の名前が同じであることから“2サンス”と言われていることについては「小学生が名前でからかっているようで、そんなに良い気分ではありません」と笑った。
「芸術家は特定の高地に向かって走る突撃隊ではありません。なので、30歳で作った映画が60歳で作った映画より劣っているとは思っていません。20歳で映画を撮ったとしても、その時の自分の全ての感情とエネルギーを使い切ったならば、それは生涯最高の傑作になるのです。大事なのは、その瞬間に最後まで最善を尽くしたかですね。遠くカンヌまで来て下さってありがとうございました」
- 元記事配信日時 :
- 記者 :
- キム・ボムソク
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