Vol.1 ― 「ミナ文房具店」チェ・ガンヒ、童顔だけを強調するにはもったいない彼女
女優チェ・ガンヒ(36)には華やかなドレスよりも何ヶ所か破れたビンテージデニムが馴染む。セクシーなハイヒールよりも無造作に履いてもスタイリッシュなスニーカーが、皮の匂いがする高級ブランドバックよりもエコバックの方がはるかに似合う。細かいけれど特別、チェ・ガンヒはそんな女性だ。
信頼できる女優チェ・ガンヒが「くだらないロマンス」(2010、監督:キム・ジョンフン)以来、3年ぶりに映画に復帰した。今回は子供の頃の記憶を思い出させるヒューマンコメディ映画「ミナ文房具店」(監督:チョン・イクファン、制作:ビョリビョル)だ。かつては優秀な公務員だったが、無理やり問題の多い文房具店を背負うことになったオーナーのミナ役を務める。“狂った怪物”というニックネームに、気の強い小学生たちに怒鳴るなど……彼女は一体どのような事情でそんなに怒らなければならないのだろうか?
「環境運動をしていることから普段はマグカップやタンブラーを使っていますが、たまに紙コップが懐かしくなる時があります。雨の日、軒下で雨垂れを見つめながらインスタントコーヒーを一杯飲みたくなることがあるんですよ。紙コップで飲むコーヒーと、マグカップで飲むコーヒーの味が違うっていうこと、知ってますか? 特にインスタントコーヒーの場合は(笑) ここで打ち明けますが、本当に懐かしくなる時には紙コップで一杯ほど飲みます。どこか温かいですから。情があって……。『ミナ文房具店』はまさに紙コップで飲むインスタントコーヒーみたいだと思います。ビターでスイートなテイストがあります」
考えてみれば、「女子高怪談」を除くと、チェ・ガンヒの出演作のほとんどは小さくてこぢんまりとした、日常の物語を描いた映画である。ヒットした映画は全くない。それにもかかわらず、予想外の興行成績を収める妙(?)な力を持っている。実は、予想外のことでもない。観客が信頼する女優チェ・ガンヒだからこそ、興行成績も当たり前の結果。彼女は18年間観客の信頼を得てきた、ごく稀な女優だ。
チェ・ガンヒは「観客が私のどのような姿を見たがるのか、よく分かっている。今回の映画も大きな映画ではない。期待できない作品なのかもしれないが、俳優の顔ぶれを見てまず一度は信じてほしい。少なくとも、期待を裏切らない」と力強く言った。キラキラと輝く彼女の目を見ると、どうもデタラメではないようだ。
しかしそんな観客の信頼が、時にはプレッシャーになることもある。世の中、容易なことはないはずだが、それにもその分の責任が付き物だ。おまけに彼女はまだカメラの前で緊張するという。18年間カメラの前で過ごしてきたのに……本当に驚くことばかりだ。
「ハリウッドスターのヒュー・グラントがカメラ恐怖症のことを告白した時、すごく共感しました。私もすごく緊張するタイプですから。もちろん作品を撮影するメインカメラは、演技をしていると思ったら大丈夫ですが、メイキング映像を撮影する6mmカメラは見ることができません。カメラと目を合わせて何かを語ることにかなり不安を感じます。役者ではない、人間チェ・ガンヒとしてカメラの前に立つような気までするんですよね」
痛みを知らなかった彼女が酷く病んだことがあったという。娘と病気にかかった母の切ない物語を描いた映画「グッバイ、マザー」(2009、監督:チョン・ギフン)を撮影しながら、演技をやめようかと真剣に悩んだ。演技がこんなに辛くてしんどいものなのかと初めて感じた瞬間だった。筆者はチェ・ガンヒの最高の作品として挙げるほど印象深く観た映画だが、本人には人生最大の危機で最悪の時間だったという。
チェ・ガンヒは「ポジティブだけど、自分に対しては限りなく冷徹に酷く振舞う。自責の念で自分の演技がとても下手だと思った。そうやって自分を責めながらやっとのことで撮影を終えた。役者の道から逃げようと決心したこともあった」と説明した。
自信を喪失したその時、逃げようとしたという彼女の言葉がじーんと胸に響く。何の悩みもなさそうなチェ・ガンヒの衝撃的な出来事だった。彼女の人生グラフには、私たちが知らない試練がかなりあったようだ。私たちは元気な「カンちゃん(チェ・ガンヒの愛称)」に騙されていた。
「死ぬほど辛かったです。演技をやめて何をしようかなと思ったんですが、自分にできることは何もありませんでした。英語さえうまければ、海外でスカーフを売りながらヒッピーのように暮らそうかと思いましたが、残念ながら私、英語が下手なんです。だから盲導犬を飼ってみようかとも思いました。犬は何も話せないからいいのではないでしょうか? ハハ。基本的にファンは自信のあるスターが好きなはずですが、私はそうではないから……いつも申し訳ないです」
それには理由がある。これまで数多くの作品に出演してきたが、授賞式では可笑しいくらい彼女の名前が呼ばれなかった。彼女が18年間の役者人生で受賞したのはほぼ「人気賞」しかない。主演賞や助演賞は一度も受賞したことがない。
彼女は「幸いファンの方々がみんなネットに詳しくて、一日に何度も投票してくれているのだと思う。熱心にクリックしてくれたおかげで『人気賞』だけでも受賞することができた」とし「主演賞の候補にノミネートされたことは多いが、受賞には繋がらなかった。大人気ない若い頃には主催側が私をからかっているような気がして悔しかったこともある」と告白した。
2011年に韓国で放送されたSBSドラマ「ボスを守れ」で最優秀賞を受賞したが、チェ・ガンヒは何だかその賞がとても重く感じられるという。自分自身も本当に上手かったと思える作品で受賞したかったのに、「ボスを守れ」は愛された分上手くできなかった作品だと思うからである。それでチェ・ガンヒはまだ主演賞を受賞したことのない女優になった。
「私、“相性の良いカップル”はたくさんしてきました。カップル賞や人気賞は欠かさず受賞したと思います。それなりに自慢できる経歴ですね。主演賞受賞への願望は当然あります。私も褒めてもらうことが好きですから(笑) でも皆さんからだけじゃなく、私自身も認めることができる作品で受賞したいです。いつかは私も受賞する日が来ますよね? どうせもらうなら、『ミナ文房具店』でもらいたいんですけど……ハハ」
信頼できる女優チェ・ガンヒが「くだらないロマンス」(2010、監督:キム・ジョンフン)以来、3年ぶりに映画に復帰した。今回は子供の頃の記憶を思い出させるヒューマンコメディ映画「ミナ文房具店」(監督:チョン・イクファン、制作:ビョリビョル)だ。かつては優秀な公務員だったが、無理やり問題の多い文房具店を背負うことになったオーナーのミナ役を務める。“狂った怪物”というニックネームに、気の強い小学生たちに怒鳴るなど……彼女は一体どのような事情でそんなに怒らなければならないのだろうか?
「環境運動をしていることから普段はマグカップやタンブラーを使っていますが、たまに紙コップが懐かしくなる時があります。雨の日、軒下で雨垂れを見つめながらインスタントコーヒーを一杯飲みたくなることがあるんですよ。紙コップで飲むコーヒーと、マグカップで飲むコーヒーの味が違うっていうこと、知ってますか? 特にインスタントコーヒーの場合は(笑) ここで打ち明けますが、本当に懐かしくなる時には紙コップで一杯ほど飲みます。どこか温かいですから。情があって……。『ミナ文房具店』はまさに紙コップで飲むインスタントコーヒーみたいだと思います。ビターでスイートなテイストがあります」
デビュー18年目、それでもカメラの前では緊張します
始まりは1995年のKBS 1TVドラマ「新世代報告書~大人たちは知らない」だった。10代の悩みや問題などを描き、旋風的な人気を集めた青少年ドラマでチェ・ガンヒは人々に顔を知らせた。以降、映画では「女子高怪談」(1998、監督:パク・ギヒョン)でセンセーションを巻き起こしたこともあった。荒波にもまれることなく、無難に今の地位まで上がり、いつの間にか“ラブコメクイーン”というニックネームまで得ることになった。考えてみれば、「女子高怪談」を除くと、チェ・ガンヒの出演作のほとんどは小さくてこぢんまりとした、日常の物語を描いた映画である。ヒットした映画は全くない。それにもかかわらず、予想外の興行成績を収める妙(?)な力を持っている。実は、予想外のことでもない。観客が信頼する女優チェ・ガンヒだからこそ、興行成績も当たり前の結果。彼女は18年間観客の信頼を得てきた、ごく稀な女優だ。
チェ・ガンヒは「観客が私のどのような姿を見たがるのか、よく分かっている。今回の映画も大きな映画ではない。期待できない作品なのかもしれないが、俳優の顔ぶれを見てまず一度は信じてほしい。少なくとも、期待を裏切らない」と力強く言った。キラキラと輝く彼女の目を見ると、どうもデタラメではないようだ。
しかしそんな観客の信頼が、時にはプレッシャーになることもある。世の中、容易なことはないはずだが、それにもその分の責任が付き物だ。おまけに彼女はまだカメラの前で緊張するという。18年間カメラの前で過ごしてきたのに……本当に驚くことばかりだ。
「ハリウッドスターのヒュー・グラントがカメラ恐怖症のことを告白した時、すごく共感しました。私もすごく緊張するタイプですから。もちろん作品を撮影するメインカメラは、演技をしていると思ったら大丈夫ですが、メイキング映像を撮影する6mmカメラは見ることができません。カメラと目を合わせて何かを語ることにかなり不安を感じます。役者ではない、人間チェ・ガンヒとしてカメラの前に立つような気までするんですよね」
演技をやめて、盲導犬を飼ってみようかと思ったが…
変わらない親しみやすさがある。近所のお姉さんのように温かく、気楽だ。でも実際の性格は、周りの人々が舌を巻くほどクールで淡々とした性格だという。物事に無関心と言われるほどだという。痛みを知らなかった彼女が酷く病んだことがあったという。娘と病気にかかった母の切ない物語を描いた映画「グッバイ、マザー」(2009、監督:チョン・ギフン)を撮影しながら、演技をやめようかと真剣に悩んだ。演技がこんなに辛くてしんどいものなのかと初めて感じた瞬間だった。筆者はチェ・ガンヒの最高の作品として挙げるほど印象深く観た映画だが、本人には人生最大の危機で最悪の時間だったという。
チェ・ガンヒは「ポジティブだけど、自分に対しては限りなく冷徹に酷く振舞う。自責の念で自分の演技がとても下手だと思った。そうやって自分を責めながらやっとのことで撮影を終えた。役者の道から逃げようと決心したこともあった」と説明した。
自信を喪失したその時、逃げようとしたという彼女の言葉がじーんと胸に響く。何の悩みもなさそうなチェ・ガンヒの衝撃的な出来事だった。彼女の人生グラフには、私たちが知らない試練がかなりあったようだ。私たちは元気な「カンちゃん(チェ・ガンヒの愛称)」に騙されていた。
「死ぬほど辛かったです。演技をやめて何をしようかなと思ったんですが、自分にできることは何もありませんでした。英語さえうまければ、海外でスカーフを売りながらヒッピーのように暮らそうかと思いましたが、残念ながら私、英語が下手なんです。だから盲導犬を飼ってみようかとも思いました。犬は何も話せないからいいのではないでしょうか? ハハ。基本的にファンは自信のあるスターが好きなはずですが、私はそうではないから……いつも申し訳ないです」
女優主演賞候補の常連だが、受賞の経験はまだない彼女
人生のモットーが「最高の自惚れと最高の羞恥心を抱いて生きよう」だというチェ・ガンヒ。彼女は冗談半分で「最高の羞恥心は抱いているけど、最高の自惚れはまだ手に入れることができていない」と語った。それには理由がある。これまで数多くの作品に出演してきたが、授賞式では可笑しいくらい彼女の名前が呼ばれなかった。彼女が18年間の役者人生で受賞したのはほぼ「人気賞」しかない。主演賞や助演賞は一度も受賞したことがない。
彼女は「幸いファンの方々がみんなネットに詳しくて、一日に何度も投票してくれているのだと思う。熱心にクリックしてくれたおかげで『人気賞』だけでも受賞することができた」とし「主演賞の候補にノミネートされたことは多いが、受賞には繋がらなかった。大人気ない若い頃には主催側が私をからかっているような気がして悔しかったこともある」と告白した。
2011年に韓国で放送されたSBSドラマ「ボスを守れ」で最優秀賞を受賞したが、チェ・ガンヒは何だかその賞がとても重く感じられるという。自分自身も本当に上手かったと思える作品で受賞したかったのに、「ボスを守れ」は愛された分上手くできなかった作品だと思うからである。それでチェ・ガンヒはまだ主演賞を受賞したことのない女優になった。
「私、“相性の良いカップル”はたくさんしてきました。カップル賞や人気賞は欠かさず受賞したと思います。それなりに自慢できる経歴ですね。主演賞受賞への願望は当然あります。私も褒めてもらうことが好きですから(笑) でも皆さんからだけじゃなく、私自身も認めることができる作品で受賞したいです。いつかは私も受賞する日が来ますよね? どうせもらうなら、『ミナ文房具店』でもらいたいんですけど……ハハ」
- 元記事配信日時 :
- 記者 :
- チョ・ジヨン
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