イム・ファヨン「無から有を生み出す女優になるのが最終的な目標」

どこからこんな原石が、やっと今になって現れたのだろうか。書道用紙に一滴の墨が落ちたかのように、自身を作品の中に完璧に投影させる熟練された技術者。白い書道用紙に真っ黒な墨が染みるように、ものすごい存在感を見せてくれる。ありきたりの真珠より珍しく、絶妙な色で人の心を奪う黒真珠のような新人だ。不思議なほど視線を奪う新人女優イム・ファヨン(31歳)が、ついに背筋を伸ばした。

これまで演劇舞台と短編映画を通じて演技力を培ってきた実力派の新人だ。2013年、演劇「光海、王になった男」で300対1の競争率の中で王妃役を手にしたイム・ファヨン。パク・チュミ、ハン・ガインなどすでにスター女優の登竜門となっているアシアナ航空のCMで「美しい人々－保育教師編」のモデルを務めた。CMが公開されてから爆発的な関心を集めるなど美しい先生だったイム・ファヨンはテレビに活動の場を広げ、MBC週末ドラマ「伝説の魔女」に出演し、コ・ドゥシムの若い頃を演じて視聴者を虜にした。

“期待株”イム・ファヨンはそこで立ち止まらなかった。昨年、忠武路(チュンムロ：韓国映画界の代名詞)に活動の場を広げたイム・ファヨンは「殺されたミンジュ」(監督：キム・ギドク)でスクリーンデビューを果たした。そして、キム・ギドク監督が制作する6本目の映画「鰻の男(Made in china)」(監督：キム・ドンフ、制作：キム・ギドクフィルム)で観客に深い印象を残す予定だ。劇中でイム・ファヨンは厳しい偏見と直面する女性役を演じて、華やかな始まりを告げた。

「まだ直接的な反応に接していないので、実感はできていません(笑) 印象深く見てくださったなら、それで満足です。実は、この作品を演じながら心配が多かったです。(キム・ギドク監督が制作するためかという質問に)いいえ、そんな心配は全くありませんでした(笑) あまりにも錚々たる先輩と一緒にする作品だったので。ハン・チェア、パク・ギウン先輩のように、私もこの映画に上手く溶けこむことができるか心配しました。もしかしたら私がこの映画に迷惑をかけるのではと懸念していたんです。中国語の台詞があったのでさらに悩みました。常に周りの空気を伺っていました(笑)」

イム・ファヨンは「鰻の男」で生活のために韓国に密航する中国人を演じた。中国人でありながら、韓国での適応力も披露しなければならない人物であり、流暢な中国語、自然な延辺弁を同時に披露する必要があった。一つの作品で3つの言葉を披露するというのは、言葉で書くように簡単なことではない。ここに内面の演技まで加わると、新人としてはかなりの負担となる。

「『鰻の男』のシナリオを初めて見た時に、内容が本当に良かったです。オーディションを受けることができるというので、嬉しかったです。役のために少し中国語を習って行ったんですが、いざオーディションの場所に行くと緊張して中国語の台詞を思い出すことができませんでした。オーディションを審査する演出部の方が中国語を知らないと思って、でたらめな中国語で喋ったけど、実はその方、中国語が分かる方でした。恥ずかしかったのですが、我慢して最後までオーディションを受けた覚えがあります。けど、問題はオーディションではありませんでした。撮影に入る前からハードなトレーニングが始まったのですが、本当に手強いものでした(笑)」

特訓を彷彿とさせる中国語のトレーニングを始めたというイム・ファヨン。発音から文法まで完璧に役になりたかった彼女の情熱は、実に素晴らしいものだった。小さなカフェで中国語のできる演出部のスタッフの指導のもと、1ヶ月間勉強した。「ちゃんとしないと」という彼女の誓いがあったからか、イム・ファヨンは映画の中で中国語を完璧に演じきった。まるで実際の韓国系中国人のように。

「修学能力試験(日本のセンター試験に相当)以来、ここまで一生懸命勉強したことはないと思います。演出部の方が本当に苦労しました。そのおかげで、今の私がいるんだと思います(笑) 怖い先生でした。中国語の授業の時は、その日の分の勉強が終わらないと家に帰れないくらいでしたので(笑)」

3つの言葉を披露するというプレッシャーも大きかったが、それよりも根本的な、新人として認知度に関する悩みももちろんあった。一気にスターになれる大胆な演技を好む新人も多い中、イム・ファヨンの選択は異なっていた。強烈で刺激的な方法の代わりに、実力で勝負したいという信念を持っていた。

「大胆な作品で観客に顔を知らせると、簡単に私という女優を知らせることはできるでしょう。けど、無理をしてまでそうする必要はないと思います。間違いなく私に上手くできる領域というものがありますから。作品を選べる立場にいるわけではありませんが、まず機会が与えられると『果たして私にできる役なのか』と考えます。とにかく欲張ったら良いというわけではありません。最初から大きな話題となっている俳優たちを見ると『すごい』と思いますが、『羨ましい』とは思いません。『私にできないことを、あの俳優たちはやっている』とまず思います」

一歩を踏み出したばかりのイム・ファヨン。考えていることから人とは違う彼女が夢見る、女優としての青写真は美しかった。欲心を実現すること、多方面において才能のある女優になることだった。綺麗なスターになることだけを夢見ている、中身が空っぽなお菓子ではなかった。

「無から有を生み出す女優になることが最終的な目標です。上手いのはもっと上手くして、下手なものも上手く見える生まれながらの役者になりたいです。観客がイム・ファヨンを思い出したら『この女優は何でも演じられる』『この女優が出る作品はチェックしたい』と思わせたいです。もちろん難しい話ですけどね。雲の上の話なのかもしれませんが、始めたばかりですので挑戦してみます。大胆に、一歩ずつ進んでいかないと(笑)」