私は“キム・ビョル”……悩みのトンネル、出口が見える
「火車」で女優人生の節目を迎えたキム・ビョル
実は、彼女が苦しいトンネルから抜け出していることが、映画「火車」を見て分かった。「火車」でイ・ソンギュンの働く動物病院の看護師として出演したとき、キム・ビョルに以前の元気ハツラツとした姿は見られなかったものの、落ち着いた様子だった。彼女の演技が安定しているのは、苦しいトンネルを抜けつつあることの証明でもある。女優としての内的な葛藤と悩みなくして、そのような180度違う演技の波長を見出すことは難しい。
キム・ビョルは、ドラマ「テルン選手村」(2005)で一気に関係者とファンの注目を浴びた。堂々として気が強く、ユニークな彼女ならではの魅力は、映画「赤ちゃんと僕」の主演にキャスティングされるほど凄い勢いだった。
しかし、映画「飛翔」以来2年のブランクを経てから出演した映画「火車」では、違うトーンの演技を披露した。それも、余裕たっぷりの笑みを浮かべての演技だ。果たしてこれまでの間、キム・ビョルに何があったのか。
「『テルン選手村』『赤ちゃんと僕』でちやほやされました。“本当に私うまくやれたんだな”と思ってたんです。別に努力もしてないのにちやほやされて、調子に乗っていました。本当にバカみたい…… 実際は、もともとの性格とキャラクターがよく合っていただけで、演技がうまかったわけではありませんでした。後になってそのことに気付いたんです」
「『飛翔』の監督とスタッフたちに、6ヶ月後にお詫びの電話」
キム・ビョルがこのようなことを悟ったのにもきっかけがあった。キム・ボムと一緒に主演を演じた映画「飛翔」を通じてのことである。「飛翔」を終えて、1ヶ月に1回、6回も「飛翔」を観たが、最後の6回目にその映画を見る途中、自分の過ちに気付いたという。「その瞬間、自分の人生から血の気がサーッと引くような思いでした。5回目まで“映画はヒットしなかったけど、綺麗に写ってるじゃん”くらいの気持ちで観てました。そんな中、テレビのチャンネルを回していて、6回目に『飛翔』を偶然観たんですが、いきなり悟ったんです。『あ、私に問題があったんだ。それで映画がヒットしなかったんだ』全身から血の気が引く感じがしました。本当に辛くて、パニック状態に陥ったんです」
キム・ビョルは、自分が出演した映画「飛翔」を6回も観て初めて過ちを悟ったのだ。もう映画は幕を下ろして6ヶ月後だった。遅ればせながら、監督とスタッフたちに申し訳ないと言いたかった彼女は“お詫びの電話”をかけ始めた。
「大して人気もなく、認知度も高くなかった私をヒロイン役にキャスティングしてくださったのに、それをあまりにも軽く受け取っていたんです。そのことにもまた、あまりにも後になって気付いてしまって、本当に申し訳ないと言いました。私のせいでその方々の努力が台無しになって、申し訳なかったことも付け加えました。監督とスタッフに、『またいつどこで会えるか知らないけれど、後でこの借金は全部返済したい』と言いました」
自分の過ちに気付いても、後で詫びることがどんなに勇気を要することなのか、経験した人たちは分かるだろう。にもかかわらず、キム・ビョルは勇気を出して受話器を取り、お詫びの言葉を告げた。そのように詫びながら、涙を流したという。
「飛翔」を通じて演技者として役に取り組む姿勢、現場での態度などに対して深く反省し、キム・ビョルは大いに悩んで、自分を振り返り反省と懺悔の時間を過ごした。気苦労が絶えなかったことは、インタビュー中、彼女の眼差しと震える息遣いから伝わってきた。
「『火車』、演技の勉強だけでなく、人生の勉強にもなった大切な作品」
そのような辛い時間を経て、2年ぶりに復帰したキム・ビョル。いまや27歳の女性になっており、眼差しから一層成熟した姿が感じられた。また、胸の奥にはまだまだ演技者としての課題が多く残されているとも言った。でも確かなのは、以前の元気ハツラツなティーンエイジャーの魅力より、今の姿の方がはるかに美しく見えるということだ。特に、映画「火車」でキム・ビョルは、イ・ソンギュン、チョ・ソンハなどの俳優とともに呼吸を合わせ、流れを滑らかにしながらも映画を活気付けた。以前は“星の国のお姫様”のような異色的な魅力があったというならば、「火車」でのキム・ビョルは、どこでも見られる、リアリティのある、地に足をしっかりつけているような、そんな演技をした。
「『火車』は、私にとって非常に意味のある作品です。演技の勉強だけでなくて、人生の勉強もできました。本当に、とても大切な時間でした。主演でない助演の立場から現場を見て、自分自身をもっと振り返ることができましたし、現場でどのように作業すべきか、どのようにコミュニケーションを取るべきかも学びました。何より、できるだけ私という人を目立たせず、普通に映したかったんです。話の流れになる人物ですから。そして、ソンギュンさんのペースに合わせて、彼のペースに従いました。なので、自分の演技を気にせず、ソンギュンさんのペースに従ってやりとりできたと思います。普通に演技しようと務めたんです」
「27歳、分かれ道……今は楽な道の方が怖い」
27歳のキム・ビョルは、最近分かれ道に立たされているような気がすると告白した。19歳でこの仕事を初め、一気に注目されたこともあるし、また2年あまりの間人々から忘れられたりもした。彼女が考えたトンネルは、思ったより長くて辛かったそうだ。「最近、人生に対する悩みが多いです。これまで自分を認めて、認められようとしてきただけで、反省はしていなかったと思います。今は、自らも反省して、役者としても大いに悩んでいます。楽な道の方が、今はもっと怖くなりました」
キム・ビョル。彼女が人生に対して、そして役者としての悩みと反省を持って選択した映画は「火車」。そして「火車」と同時期に撮影した「私は公務員だ」は、下半期の公開を控えている。キム・ビョルの悩んだ痕跡が盛り込まれた「火車」が観客の心を掴んだように、「私は公務員だ」も期待される。キム・ビョルが悩むトンネルの出口は、もう目の前まで来ているように見える。あと少しだ。キム・ビョル、ファイト!
- 元記事配信日時 :
- 記者 :
- イ・ジョンミン、チョ・ギョンイ
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