【制作トーク第2弾】APPLE TREE PICTURES ユン・シンエ代表“トップスターのギャラ1億ウォン時代に悩む”
ユン・シンエ代表(44歳)のドラマには、マクチャン(日常では起こらないような出来事や事件が次々と起きる韓国特有のドラマ)コードがない。彼女の手掛けるドラマに大ヒット作が少ない理由でもあるが、代わりに、彼女が制作したドラマは若くてスタイリッシュだ。ドロドロ系のドラマが成功すると言われようが、そういうドラマは意図的に避けてきた。ドラマは健やかであるべきだ。そんなこだわりがあったからこそ、“名作ドラマ”という評価を得ることができた。
だからといって、ヒット作がないわけではない。「海神-HESHIN-ヘシン」「大望-テマン-」などを通じて、高い視聴率が与える快感を覚えた。時代劇で経験できる全てのことを、この二つの作品から得た。「春の日」「フルハウス」などのトレンディードラマも制作した。“ドラマが人生だ”という、APPLE TREE PICTURESのユン・シンエ代表の制作世界を覗いてみよう。
アニメ「赤ちゃん恐竜 ドゥーリー」から始まった歴史
制作の仕事を始めたのは、スリルを覚えたからだった。延世(ヨンセ)大学の新聞放送学科で放送経済学を学び、コンテンツで収益を上げる方法を勉強した。偶然入社したアニメーション制作会社SUNWOOが運命を変えてくれた。「ドゥーリーのリュックサック旅行」のプロデューサーを務め、大成功を収めた。SUNWOOの会長が、社員約70人の前で拍手をしてくれた。虎のように厳しい方から褒められて、全身が震えるのを感じた。ここで現在、APPLE TREE PICTURESを一緒に運営する夫にも出会った。全ての歴史が「赤ちゃん恐竜 ドゥーリー」のおかげで始まった。独立する前、キム・ジョンハクプロダクションで約7年間働いた。当時はプロデューサーという概念がなく、映画と違って、ドラマはプロデュースと演出の概念がはっきりしていなかった。初めて作ったドラマは、「美しい日々」だった。1ヶ月間スケジュールを練っている中で、全体の予算をどう配分すればいいのか悩んだ。映画は予算のコントロールが可能だが、ドラマは難しく、「アスファルトの男」のイ・ジャンス監督から多くのことを学んだ。マーケティングからスケジュール管理まで、プロデューサーが管轄できるように力を貸してくれて、とても丁寧な方だった。
「海神-HESHIN-ヘシン」「大望-テマン-」も制作した。「海神-HESHIN-ヘシン」の時は、こんなにも酷いシステムは世界中のどこにもないだろうと思った。ハン・ジェソクからソン・イルグクにキャスティングが変更する過程で、紆余曲折を経た。さらに追い打ちをかけるように、許可を取るのが難しい中国のセット場で撮影したテープを丸ごと紛失するというアクシデントまで起こった。ソン・イルグクをキャスティングする過程も簡単ではなく、放送日は迫ってくるのに、何度も問題が起きた。しかし、これがドラマの醍醐味なのかもしれない。
母のガン闘病、人生のターニングポイント
「海神-HESHIN-ヘシン」を準備する時、中国全域を歩き回った。全ての日常がドラマに縛られていた。仕事に疲れはじめていた頃、母がガンであると判明した。母が亡くなると、全てのことが虚しくなった。初めてやめたいと思った。勝たなければ気が済まない、負けず嫌いだった自分の過去を顧みるようになった。当時、女性プロデューサーは私一人だけだったし、ひたすら無我夢中だった。そんな自分に疲れてしまった。しかし、再び気持ちを引き締めることができたのも母のおかげだ。母は「オールイン 運命の愛」が大好きだった。「オールイン 運命の愛」のようなドラマを作ってほしいという母の言葉が今でも耳にこびりついている。母との最後の旅行で行った場所は済州(チェジュ)島のソプジコジにある「オールイン 運命の愛」セット場だ。母は車椅子に乗ってそこまで行った。「犬とオオカミの時間」を制作したのは、母との約束だったからだ。
APPLE TREE PICTURESの人々と初めて作った作品は、「春の日」だ。Sidus HQで制作されたが、私の事務室の人たちが作ったドラマだ。コ・ヒョンジョンの復帰作ということで話題になった。制作発表会の場所を決めるのにも気を遣った。制作発表会には歴代最多の取材陣が集まった。予想される質問まで用意したのも初めてのことだった。
「春の日」の撮影現場では、面白いエピソードも生まれた。済州島で撮影をしているコ・ヒョンジョンをこっそり撮ろうとした記者が葦原に隠れていたのだ。それくらい、世間からの関心が加熱していた。
誰もが驚いた「犬とオオカミの時間」の成功
私が本当に作りたいドラマを作るようになったのは、「犬とオオカミの時間」からだ。同じ時期に「9回裏2アウト」を制作した。「海神-HESHIN-ヘシン」「大望-テマン-」は大作だが、私の好みではない。「犬とオオカミの時間」は、ミュージックビデオから始まった。“兄弟が、お互いの身分を知らないまま銃を向け合う”いうコンセプトだけがあった。ハン・ジフン脚本家が長い時間をかけて用意した作品で、数え切れないほど台本を書き直しながら真心を込めた。振り返ってみると、運が良かった。シノプシス(ドラマやステージなど作品のあらすじ)だけの状態だったにもかかわらず、スターに浮上したイ・ジュンギをキャスティングすることができた。準備期間が長引き、たくさんのストレスを受けたが、編成からは一気に進んだ。MBCドラマ局長が素早い判断を下してくれたおかげであり、キム・ジンミン監督は、さっぱりとした性格の持ち主だった。すべての条件が完璧に揃い、ドラマは好評を得た。
スエ、イ・ジョンジンが出演した「9回裏2アウト」は、最も残念な作品だ。もっと時間をかけることができれば良く仕上がったはずなのに、もったいない。チ・ジニ、オム・ジョンファと手を組んだ「結婚できない男」も、APPLE TREE PICTURESで制作した。好評を得たチ・ジニのキャラクターは、私のニ番目の兄をモデルにした。きれい好きで、規則的な生活を送る一人暮らしの男性だ。家族からインスピレーションを受ける場合が多い。
国家情報院との特別な縁
映画「7級公務員」がとても面白く、ドラマとしても制作したいと思った。「犬とオオカミの時間」と同じ国家情報院という素材であるため、多少心配はしたが、チョン・ソンイル脚本家を信じた。当時、ドラマのオファーをたくさん受けていたのに、私を選んでくれた。ストーリーの構想を練るために、国家情報院の要員たちと食事をしたことがある。ドラマのエピソードを聞かせると、むしろ彼らが驚いていた。爆弾酒(ビールにウイスキーを混ぜて飲む酒)訓練は、実際の新入要員が経験する訓練法だ。ドラマに対して、多くの関心を持っていた。チュウォンの所属事務所であるSIMエンターテインメントのシム・ミョンウン代表に感謝する。編成も確定していなのに、チュウォンの出演を保障してくれた。チェ・ガンヒも人並はずれた情熱を見せてくれて、ドラマの撮影現場からは、いつもいろいろな話が出がちだが、「7級公務員」はそんなことがない。しかし、ここ最近、こんなにも緊張することは滅多になかったような気がする。水木ドラマの視聴率競争が激しい。SBS「その冬、風が吹く」とKBS 2TV「IRIS 2」が激しい接戦を繰り広げている。
出演料1億ウォン時代に悩む
キャスティングは、常に難しい。周りの意見を積極的に取り入れる方だ。「海神-HESHIN-ヘシン」にソン・イルグクをキャスティングしたのは、同じマンションに住んでいるおばさんたちが支持したからだった。おばさんたちにドラマのシノプシスを聞かせた後、俳優のリストを見せた。ソン・イルグクの人気が圧倒的だった。一種の世論調査というか。それなりに信憑性がある。チュウォンの人気は、小学校6年生の息子から確認した。息子がうちに遊びにきた友達8人とカクシタルごっこをしているのを見て、人気を確信した。一緒に仕事をした俳優がスターになると不思議な気分だ。チョ・インソンのスター性は、一目で分かった。「ノンストップ」に出演する前に会った彼は、漫画から飛び出してきたかのようだった。非現実的なルックスと純粋な雰囲気が気に入った。甘い顔なのに、拳にはタコがあった。その二面性の魅力が好きだったので、興奮しながらぜひ一緒に仕事をしましょうと言った。チョ・インソンは、「大望-テマン-」の特別出演を約束してくれたが、あっという間にスターになってしまった。改めて、断られると思ったが、約束通り、快く出演してくれた。中国で虎と戦うシーンだった。勢いにのっている俳優を虎の前に立たせた。
最近、ドラマ制作会社の悩みは、俳優たちの高くなった出演料だ。一部の俳優たちは一話あたり1億ウォン(約875万円)を超える出演料をもらっている。PPL(Product Placement:テレビ番組や映画に特定会社の商品を小道具として登場させること)と間接広告に対する規制は依然として厳しい。制作会社はお金を稼ぐ悪者で、演出者がアーティストとして扱われる時は、やりきれない気持ちになる。PPLは健全な商業行為なのに、悪い事と扱われるのが悲しい。
一話あたりの制作費が急騰した。15年前に放送された「美しい日々」の一話あたりの制作費は、7500万ウォン(約660万円)だった。今は一話あたり、1億2千万ウォン(約1050万円)程度かかる。一人の俳優が1億ウォンを超える出演料をもらうので、問題が生じるしかない。一人の出演料に追われることになると、出演者の人数が減る。少数の人物にストーリーを合わせようとすると、ドラマの質が落ちる。スターの高い出演料が、不合理な構造を形成している。新人を育てたくても、彼らを出演させる場がない。「7級公務員」の、新入要員の訓練シーンには、計40人の新人俳優が登場する。意図的にアルバイトを使わずに、オーディションを行い、彼らにチャンスを与えたかった。お互いに助け合う構造になることを願っている。
-短いトーク-
#これから一緒に仕事をしてみたい俳優ソン・ジュンギ、キム・スヒョン、チャ・スンウォンだ。ソン・ジュンギは、人間性が良いことで有名であり、義理深い人だ。演技にも深みがある。チャ・スンウォンとは一緒に仕事をするチャンスがあったが、結局、実現しなかった。ぜひ一緒に仕事をしてみたい。イ・ビョンホンも欠かせない。動物的な感覚を持っている俳優だ。「美しい日々」で、一緒に仕事をする機会を得られたことが嬉しく思える。
#見た後、感動を覚えたドラマ
「砂時計」を見て感動した。キム・ジョンハク監督とソン・ジナ脚本家に会った時、彼らと同じ空間にいるのが不思議に思えるくらいだった。「砂時計」は予告編まで覚えているほど、大好きな作品だ。
#これから作りたいドラマ
連続ドラマを制作してみたい。もともと好きではなかったが、年を取って考え方が変わった。KBS「棚ぼたのあなた」やJTBC「限りない愛」のように、明るくて健康的なドラマが好きだ。ファンタジーにもチャレンジしたい。CGが登場するファンタジーではなく、現実を描いたファンタジーが好きだ。
#意外にヒットしたドラマ
「フルハウス」だ。原作の漫画を見て、どのようにドラマにするか悩んだ。限られた空間の中でエピソードが繰り返される形式であるため、心配事が多かったが、意外にも成功を収めることができた。ソン・ヘギョさんが上手くやってくれた。撮影に入る前に、キャラクターにピッタリな衣装とヘアスタイルを準備してきた。とても爽やかで可愛かった。
#最も残念なドラマ
「9回裏2アウト」だ。改めて制作すれば、きっともっと良くなるはずなのに、惜しいドラマだ。
#制作会社にとって良いドラマ
ドロドロしたドラマは好きじゃない。ドラマは商業的なジャンルであるが、電波は公共のものだ。公共の電波を何でもかんでもに使ってはいけないと思う。常識外れの設定が乱れ飛ぶドラマは作らない。
- 元記事配信日時 :
- 記者 :
- キム・ジヒョン、写真 : ムン・スジ
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