「ミナ文房具店」ポン・テギュ、手放してからやっと目に見えるもの
俳優ポン・テギュ(32)は忠武路(チュンムロ:韓国の映画界の代名詞)で最も忙しい俳優の中の一人だった。年に一つの作品に出演することも難しい人がほとんどなのに、なぜかポン・テギュは年に3~4作品を観客に届け、誰よりも忙しい20代を過ごした。
ある日突然試練が訪れるのが人生というものだろうか。父親の死、訴訟、腰の負傷。振り返ってみると、どうやって耐え抜いたんだろうと思うほどの難関が彼の人生に一つずつ重なった。
感心なことにポン・テギュは自分の前に立ちはだかる試練を耐え抜いた。長いトンネルのようだったその瞬間が去ると、小さなことでは揺れることのない自分に出会うことができた。
「昔はクランクインの前日は眠ることさえできませんでした。ブランクの間、ずっとそれについて思いました。『僕が楽しまないと』と。新人時代には経験不足だったとしても、ある程度人気が出てからは何もかも意識をするようになりました。執着も強かったですし。そんなことは止めようと自分に言い聞かせてから、やっと撮影現場を楽しめるようになりました。スタッフの中でも『ポン・テギュってあまりにもリラックスして撮影現場に来ている』と心配していた方もいました(笑)」
ポン・テギュは映画「浮気な家族」(2003、監督:イム・サンス)、MBCシットコム(シチュエーションコメディ:一話完結で連続放映されるコメディドラマ)「ノンストップ4」で顔が知られてから全てを意識するようになったという。ポン・テギュは「偏執症に近いほど完璧主義を求めていた。“頑張る”というのは、数値では表せないことなのに、強迫観念があった」と打ち明けた。
シナリオが下線やメモで埋まるほど、台本を完璧に暗記するほど安心できたという。ポン・テギュは現在を楽しめず、未来に執着していた過去を思い出してはすぐ「今がいいな」と笑った。
「昔は公共交通機関を利用すると大変なことになると思っていました。昨日も地下鉄で『ミナ文房具店』のスケジュールに行きました。人に気付かれても大丈夫です。実は、みんなあまり気付いていなかったりして(笑) 俳優は現実に足を着けていなければならないのに、いつの間にか上に浮いているような気がしました。難しいことだと思ったけれど、やってみれば全部できることでした」
ポン・テギュは筆者とインタビューをする前にスマートフォンで何かを一生懸命検索していた。もしかして試写会の反応をチェックしているのかと質問すると「コメントなどは一切見ない」と答えてくれた。
ポン・テギュは「昔はコメント一つ一つを気にするほうだった。しかし、試写会の反応でもコメントでも、結局はすでに出てしまった結果ではないか。結果のために苦しむことなく、その過程をもう少し楽しみたい」と強調した。
「『ミナ文房具店』を始める前に、一定の枠に僕をはめることは止めようと自分に言い聞かせました。いわゆる小学校の先生と言えば思い出す固定観念を、僕のほうから作らないようにしたんです。実は僕の演じたガンホ役は当初のシナリオではもっと出演が少なかったです。なので、プレッシャーも少なかったんですね」
ガンホはチェ・ガンヒが演じたミナとは違って劇中で人物への説明が非常に少ない。過去を思い出すシーンだけでガンホという人物を確立することは、難しくはなかっただろうか。
「そうですね。過去を思い出すシーンがガンホという人物を説明してくれる全部です。だからこそ現在のシーンでわざわざ何かをすることはありませんでした。実際、過去にある行動をしていたとして、将来にも同じく行動する人が何人いるのでしょうか。大人になったガンホには、僕なりに容易くアプローチできました。難しくアプローチしていたら、『ミナ文房具店』をここまで楽しむことはできませんでしたね」
しかし、意外にもポン・テギュはアドリブを“避ける”俳優だ。全50話のMBC週末ドラマ「漢江ブルース」(2004) の撮影当時、チェ・ジョンスプロデューサーから「君が今やったアドリブが、話が50話になった時に、どのような影響を及ぼすのか、考えたことがあるか?」という言葉を聞いてから、現在もその考え方には変わりがない。
「台詞においての瞬発力というのがあまりないほうです。アドリブというのは、ある瞬間ふっと出てくるものですが、それが難しいんですね。実際、アドリブは危険なものだとも思っています。シナリオにある台詞は、完成されている部品と同じなんですが、僕がそこに新しい部品を加えて、もっとよくなることもあるだろうけれど、全体が壊れてしまうこともあり得ます。僕のアドリブで変わる余地のある全てを計算していない限りですね」
ポン・テギュは「『ミナ文房具店』でも、俗っぽい言葉で言えば僕が“食ってもいい”シーンが多かったけれど、僕はシナリオ通りに演じた。“食う”という表現も、本当に危ない言葉だ」と力強く語った。
「シーンスティラー(シーン泥棒、助演でありながらも出演シーンをものにする俳優のこと) というのもそうですね。映画でもドラマでも一人でやっている仕事ではありませんので。素晴らしい映画が出来上がるためには僕一人で頑張っていいものではないし、僕一人で目立っていいものでもありません。シーンスティラーがあるシーンを掌握したとしても、それは多くのスタッフの苦労があったおかげではないでしょうか? スタッフと俳優の力が相まってシーンスティラーが誕生するというアプローチは可能ですが、ある俳優一人が特別に目立ち、シーンスティラーだと呼ばれることは危険だと思います」
ある日突然試練が訪れるのが人生というものだろうか。父親の死、訴訟、腰の負傷。振り返ってみると、どうやって耐え抜いたんだろうと思うほどの難関が彼の人生に一つずつ重なった。
感心なことにポン・テギュは自分の前に立ちはだかる試練を耐え抜いた。長いトンネルのようだったその瞬間が去ると、小さなことでは揺れることのない自分に出会うことができた。
偏執症に近かった完璧主義を捨てたら…
映画「ミナ文房具店」(監督:チョン・イクファン、制作:ビョリビョル)で「青春とビート、そして秘密のビデオ」以来3年ぶりのスクリーン復帰を果たしたポン・テギュは、かなり余裕ができたような雰囲気だった。「人ってね、少し苦労をしてみないとね」と話す彼は、約3年ぶりに訪れた撮影現場を思いっきり楽しんだという。「昔はクランクインの前日は眠ることさえできませんでした。ブランクの間、ずっとそれについて思いました。『僕が楽しまないと』と。新人時代には経験不足だったとしても、ある程度人気が出てからは何もかも意識をするようになりました。執着も強かったですし。そんなことは止めようと自分に言い聞かせてから、やっと撮影現場を楽しめるようになりました。スタッフの中でも『ポン・テギュってあまりにもリラックスして撮影現場に来ている』と心配していた方もいました(笑)」
ポン・テギュは映画「浮気な家族」(2003、監督:イム・サンス)、MBCシットコム(シチュエーションコメディ:一話完結で連続放映されるコメディドラマ)「ノンストップ4」で顔が知られてから全てを意識するようになったという。ポン・テギュは「偏執症に近いほど完璧主義を求めていた。“頑張る”というのは、数値では表せないことなのに、強迫観念があった」と打ち明けた。
シナリオが下線やメモで埋まるほど、台本を完璧に暗記するほど安心できたという。ポン・テギュは現在を楽しめず、未来に執着していた過去を思い出してはすぐ「今がいいな」と笑った。
4年も公共交通機関を利用している理由
ポン・テギュはここ4年、マネージャーなしで公共交通機関を利用している。4年間のブランクで「持っていなくてもいいものを持っていたんだ」と感じたという。休みの日には区役所で絵画の講義を聞き、近所の年寄りと談笑を交わすというポン・テギュは“芸能人”という不便な服を脱ぎ、やっと体にフィットする洋服を着ているように見えた。「昔は公共交通機関を利用すると大変なことになると思っていました。昨日も地下鉄で『ミナ文房具店』のスケジュールに行きました。人に気付かれても大丈夫です。実は、みんなあまり気付いていなかったりして(笑) 俳優は現実に足を着けていなければならないのに、いつの間にか上に浮いているような気がしました。難しいことだと思ったけれど、やってみれば全部できることでした」
ポン・テギュは筆者とインタビューをする前にスマートフォンで何かを一生懸命検索していた。もしかして試写会の反応をチェックしているのかと質問すると「コメントなどは一切見ない」と答えてくれた。
ポン・テギュは「昔はコメント一つ一つを気にするほうだった。しかし、試写会の反応でもコメントでも、結局はすでに出てしまった結果ではないか。結果のために苦しむことなく、その過程をもう少し楽しみたい」と強調した。
「『ミナ文房具店』の出演分は当初もっと少なかった」
ポン・テギュにとって「ミナ文房具店」は2009年に撮影した「青春とビート、そして秘密のビデオ」以来の3年ぶりの映画だった。大きな事件がなく、水が流れるように流れるストーリーに魅了されたというポン・テギュは「ミナ文房具店」のことを「洗練された映画」だと説明した。「『ミナ文房具店』を始める前に、一定の枠に僕をはめることは止めようと自分に言い聞かせました。いわゆる小学校の先生と言えば思い出す固定観念を、僕のほうから作らないようにしたんです。実は僕の演じたガンホ役は当初のシナリオではもっと出演が少なかったです。なので、プレッシャーも少なかったんですね」
ガンホはチェ・ガンヒが演じたミナとは違って劇中で人物への説明が非常に少ない。過去を思い出すシーンだけでガンホという人物を確立することは、難しくはなかっただろうか。
「そうですね。過去を思い出すシーンがガンホという人物を説明してくれる全部です。だからこそ現在のシーンでわざわざ何かをすることはありませんでした。実際、過去にある行動をしていたとして、将来にも同じく行動する人が何人いるのでしょうか。大人になったガンホには、僕なりに容易くアプローチできました。難しくアプローチしていたら、『ミナ文房具店』をここまで楽しむことはできませんでしたね」
シーンスティラー? それが一人で可能なことなのか
ポン・テギュは図々しい演技では右に出る者はいないほどだ。「クァンシクの弟クァンテ」「二つの顔の猟奇的な彼女」「サンデーソウル」で披露した彼の才気溢れる演技を見ていると、自然に「あれ、アドリブじゃない?」という気がする。しかし、意外にもポン・テギュはアドリブを“避ける”俳優だ。全50話のMBC週末ドラマ「漢江ブルース」(2004) の撮影当時、チェ・ジョンスプロデューサーから「君が今やったアドリブが、話が50話になった時に、どのような影響を及ぼすのか、考えたことがあるか?」という言葉を聞いてから、現在もその考え方には変わりがない。
「台詞においての瞬発力というのがあまりないほうです。アドリブというのは、ある瞬間ふっと出てくるものですが、それが難しいんですね。実際、アドリブは危険なものだとも思っています。シナリオにある台詞は、完成されている部品と同じなんですが、僕がそこに新しい部品を加えて、もっとよくなることもあるだろうけれど、全体が壊れてしまうこともあり得ます。僕のアドリブで変わる余地のある全てを計算していない限りですね」
ポン・テギュは「『ミナ文房具店』でも、俗っぽい言葉で言えば僕が“食ってもいい”シーンが多かったけれど、僕はシナリオ通りに演じた。“食う”という表現も、本当に危ない言葉だ」と力強く語った。
「シーンスティラー(シーン泥棒、助演でありながらも出演シーンをものにする俳優のこと) というのもそうですね。映画でもドラマでも一人でやっている仕事ではありませんので。素晴らしい映画が出来上がるためには僕一人で頑張っていいものではないし、僕一人で目立っていいものでもありません。シーンスティラーがあるシーンを掌握したとしても、それは多くのスタッフの苦労があったおかげではないでしょうか? スタッフと俳優の力が相まってシーンスティラーが誕生するというアプローチは可能ですが、ある俳優一人が特別に目立ち、シーンスティラーだと呼ばれることは危険だと思います」
- 元記事配信日時 :
- 記者 :
- キム・スジョン、写真 : キム・ジェチャン
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