【映画レビュー】「殺人者」はマ・ドンソクに借りを作った、観客の期待に応えないスリラー映画とは…
※この記事には映画のストーリーに関する内容が含まれています。
韓国で実際に起こった連続殺人犯カン・ホスン事件をモチーフにして公開前から話題になった映画「殺人者」は、昨年様々なジャンルの映画でシーンスティーラー(Scene Stealer:スターよりも注目される脇役)として活躍して存在感をアピールした俳優マ・ドンソクを主人公に抜擢した。映画はどっしりとした体格、鋭い目つきだけで観客を圧倒するのに十分なマ・ドンソクのビジュアルとイメージを最大限に活用して、じっと立っているだけでも冷ややかな空気が漂う連続殺人犯ジュヒョプを作り出した。ポスターや予告編だけを見ても、彼がこの映画に適役だということに異論はない。観客がこの映画を期待していたとすれば、その理由はただ一つ、マ・ドンソクだったはずだ。
しかし、この映画はマ・ドンソクを上手く活用できていない。映画は最初から彼の活動範囲を制約してしまったため、アイデンティティが曖昧になった。マ・ドンソクが演じるジュヒョプは妻の不倫を目撃して、妻と愛人をその場で残酷に殺害した人物だ。それ以来、彼は最初の犯罪から受けた精神的な傷を克服するためにまた殺人を犯すことになり、いつの間にか自分でも知らないうちに意味も名分もない殺人を繰り返す殺人鬼になってしまったというのが彼に与えられた設定である。しかし、6年が過ぎた後、ジュヒョプは過去を隠したままある田舎町で犬を飼育しながら過ごしている。
「殺人者」はタイトルとは反対に、ジュヒョプが殺人鬼として生きた過去ではなく、正常に生きようと努力する現在から話を進める。つまり、映画で話したいことは殺人鬼の本能を押さえているジュヒョプの苦悩と、悪い血がそのまま残って自分も父親のように悪くなるのではないかと心配するジュヒョプの息子ヨンホの内的葛藤である。鮮血が飛び散るハードコアなクライム・スリラーを期待した観客に、映画は心理スリラーとして調理した料理を突きつけている。観客の期待を裏切ってでも突きつけた監督のお勧めコースは美味しかったのだろうか。
残念ながら、監督が推薦した料理の味は“水準以下”だ。料理には誰が見ても新鮮で良い材料であるマ・ドンソクという俳優がいるにも関わらず、監督のレシピは材料の新鮮さをそのまま生かせずに、味気ない料理を作ってしまった。どこに問題があったのだろうか?一番大きな問題は“現象”だけが存在しているということだ。ジュヒョプが殺人を止めるきっかけが描かれないまま、殺人を止めて元気に過ごしている現象だけが存在する。ジュヒョプがジスを見て思い出す場面はあるが、そのような現象について映画が具体的に提示する手掛かりは何もない。ジュヒョプの直感、突然思い出した昔の記憶だと遠回しに暗示するだけだ。
このように蓋然性が単純で粗い映画の物語は、観客がしきりに時間を気にするようにする。シナリオの問題はこれだけではない。映画の中の台詞を噛みしめてみよう。映画の中の人物は一様に鳥肌が立つレベルの台詞を言っている。皆が激しい思春期を経験しているようだ。「幸せになりたい。一人でいたい」など、直接的な感情表現の他に意味の分からない台詞がほとんどだ。これはジュヒョプが隠しておいた殺人鬼の本能を取り戻す時も同じだ。「どうして出てくる、お前さえいなければ良かった!」と。この映画はホラージャンルを掲げながらも汚い言葉は控えており、台詞の作り方が下手だ。
結局、「殺人者」は観客の期待を裏切ったことに止まらず、適当な満足感さえ与えられなかった。強烈なタイトルとマ・ドンソクという俳優のオーラを観客を引き寄せる材料として使ったものの、いざ映画は過度に従順な流れで退屈さを与える。スリラーなら人物とストーリーで緊張感を作らなければならないが、この映画はその足りない部分を頻繁に音響効果で埋めようとする。観客がその程度のやり方にだまされるほど甘くないということを監督は見落としたのだろうか。
この映画は全般的に不安で退屈だ。人物の関係設定とストーリーの流れは十分に予想可能で、結末ではジャンルの変化を試みる。最初からこの映画が言おうとする話、つまり正しく生きようとする殺人鬼の人生の後半部と自分の父親が殺人鬼という事実を知った息子の内的葛藤だけに集中して伝えようとしたらどうなったのだろうか。ジスの介入なしに父親と息子の間に流れる緊張感だけに集中したなら、映画の不安を少しは取り除けたのではないだろうか。結果的に、映画「殺人者」は俳優マ・ドンソクに借りを作ってしまった。
写真=ホンフィルム
ジュヒョプ(マ・ドンソク)は不倫を犯した妻を殺害して、身分を隠したまま田舎町に隠れて過ごす。彼の息子ヨンホ(アン・ドギュ)は学校で仲間外れにされるが、その理由は父親のジュヒョプが犬飼いであるためだ。ある日、ジス(キム・ヒョンス)という女の子がソウルから転校して来て、ヨンホは友達とあまり付き合わないジスに興味を持つ。母親(キム・へナ)と二人で田舎に来たジスは、浮気者の父親に傷付けられた子どもだった。ヨンホとジスはお互いの傷に共感したかのように少しずつ近付いていく。二人が近くなるほど、ジスはジュヒョプの正体に気付き、ジュヒョプは息子ヨンホが自身の過去を知ることが怖い。ジュヒョプは自分と息子の間に亀裂を起こしたジスを殺害しようとする。韓国で実際に起こった連続殺人犯カン・ホスン事件をモチーフにして公開前から話題になった映画「殺人者」は、昨年様々なジャンルの映画でシーンスティーラー(Scene Stealer:スターよりも注目される脇役)として活躍して存在感をアピールした俳優マ・ドンソクを主人公に抜擢した。映画はどっしりとした体格、鋭い目つきだけで観客を圧倒するのに十分なマ・ドンソクのビジュアルとイメージを最大限に活用して、じっと立っているだけでも冷ややかな空気が漂う連続殺人犯ジュヒョプを作り出した。ポスターや予告編だけを見ても、彼がこの映画に適役だということに異論はない。観客がこの映画を期待していたとすれば、その理由はただ一つ、マ・ドンソクだったはずだ。
しかし、この映画はマ・ドンソクを上手く活用できていない。映画は最初から彼の活動範囲を制約してしまったため、アイデンティティが曖昧になった。マ・ドンソクが演じるジュヒョプは妻の不倫を目撃して、妻と愛人をその場で残酷に殺害した人物だ。それ以来、彼は最初の犯罪から受けた精神的な傷を克服するためにまた殺人を犯すことになり、いつの間にか自分でも知らないうちに意味も名分もない殺人を繰り返す殺人鬼になってしまったというのが彼に与えられた設定である。しかし、6年が過ぎた後、ジュヒョプは過去を隠したままある田舎町で犬を飼育しながら過ごしている。
「殺人者」はタイトルとは反対に、ジュヒョプが殺人鬼として生きた過去ではなく、正常に生きようと努力する現在から話を進める。つまり、映画で話したいことは殺人鬼の本能を押さえているジュヒョプの苦悩と、悪い血がそのまま残って自分も父親のように悪くなるのではないかと心配するジュヒョプの息子ヨンホの内的葛藤である。鮮血が飛び散るハードコアなクライム・スリラーを期待した観客に、映画は心理スリラーとして調理した料理を突きつけている。観客の期待を裏切ってでも突きつけた監督のお勧めコースは美味しかったのだろうか。
残念ながら、監督が推薦した料理の味は“水準以下”だ。料理には誰が見ても新鮮で良い材料であるマ・ドンソクという俳優がいるにも関わらず、監督のレシピは材料の新鮮さをそのまま生かせずに、味気ない料理を作ってしまった。どこに問題があったのだろうか?一番大きな問題は“現象”だけが存在しているということだ。ジュヒョプが殺人を止めるきっかけが描かれないまま、殺人を止めて元気に過ごしている現象だけが存在する。ジュヒョプがジスを見て思い出す場面はあるが、そのような現象について映画が具体的に提示する手掛かりは何もない。ジュヒョプの直感、突然思い出した昔の記憶だと遠回しに暗示するだけだ。
このように蓋然性が単純で粗い映画の物語は、観客がしきりに時間を気にするようにする。シナリオの問題はこれだけではない。映画の中の台詞を噛みしめてみよう。映画の中の人物は一様に鳥肌が立つレベルの台詞を言っている。皆が激しい思春期を経験しているようだ。「幸せになりたい。一人でいたい」など、直接的な感情表現の他に意味の分からない台詞がほとんどだ。これはジュヒョプが隠しておいた殺人鬼の本能を取り戻す時も同じだ。「どうして出てくる、お前さえいなければ良かった!」と。この映画はホラージャンルを掲げながらも汚い言葉は控えており、台詞の作り方が下手だ。
結局、「殺人者」は観客の期待を裏切ったことに止まらず、適当な満足感さえ与えられなかった。強烈なタイトルとマ・ドンソクという俳優のオーラを観客を引き寄せる材料として使ったものの、いざ映画は過度に従順な流れで退屈さを与える。スリラーなら人物とストーリーで緊張感を作らなければならないが、この映画はその足りない部分を頻繁に音響効果で埋めようとする。観客がその程度のやり方にだまされるほど甘くないということを監督は見落としたのだろうか。
この映画は全般的に不安で退屈だ。人物の関係設定とストーリーの流れは十分に予想可能で、結末ではジャンルの変化を試みる。最初からこの映画が言おうとする話、つまり正しく生きようとする殺人鬼の人生の後半部と自分の父親が殺人鬼という事実を知った息子の内的葛藤だけに集中して伝えようとしたらどうなったのだろうか。ジスの介入なしに父親と息子の間に流れる緊張感だけに集中したなら、映画の不安を少しは取り除けたのではないだろうか。結果的に、映画「殺人者」は俳優マ・ドンソクに借りを作ってしまった。
- 元記事配信日時 :
- 記者 :
- キム・ジョンギル
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