「ハン・ゴンジュ」チョン・ウヒ“最初の撮影が集団暴行シーン…気を引き締めて臨んだ”
役者に一生付きまとう作品がある。チョン・ドヨンの場合は映画「シークレット・サンシャイン」のシネ、ソル・ギョングは映画「公共の敵」のカン・チョルジュン、キム・ソナはドラマ「私の名前はキム・サムスン」のサムスンがそうだ。役者の立場としてはそのイメージが負担になることもあるが、役者がある作品の確固たるアイデンティティになるということは役者誰もが享受できる特権でないことは明らかだ。これは、役者がそれだけキャラクターに溶け込んだという意味であり、またそれを観客が認めたという意味だからだ。
そういう意味で、チョン・ウヒは賢い女優だ。多くの女優が登場する「サニー 永遠の仲間たち」(以下「サニー」)でシンナー中毒の問題児役に扮して自分の存在を知らせ、「ハン・ゴンジュ」では作品に自分自身の存在を完璧に溶け込ませた。集団暴行という消せない傷を抱えても毎日を黙々と耐えて生きる「ハン・ゴンジュ」では、ゴンジュの口調から表情、すすり泣き、残像…すべてがチョン・ウヒそのものである。再発見というお決まりの表現で彼女を説明するのはうんざりすることだ。その理由が気になるなら、映画館で「ハン・ゴンジュ」を見ることをお勧めする!
チョン・ウヒ:残像が多く残る映画だ。
―すでに分かっていると思うが、その残像が浮かぶ時の気分はあまり愉快ではない(笑) 観客がこのように感じるならば、実際にその状況を演じた役者はさらに苦しい気持ちになっているだろう。集団で暴行されるシーンを最初に撮影したと聞いた。
チョン・ウヒ:撮影のスケジュール表を見て最初の撮影がレイプシーンであることを知った。たぶん監督はその撮影を通じてスタッフにも、私にもどんな心構えでこの映画に取り組むべきなのかを伝えたかったのだと思う。監督の意図がとてもよく理解できたので、気を引き締めて撮影に臨んだ。役者たちとほぼ交流していない状態だったので、ゴンジュに入り込むのにも大きく役立った。
―映画を見ている間、ゴンジュは本当に我慢強い性格のキャラクターという気がした。撮影に入る前にゴンジュをどのように表現したいと思ったのか?
チョン・ウヒ:私はゴンジュがとても本能的なキャラクターだと思った。人生を生きていくことにおいて、生き残ることは本能だから。誰も手を差し出してくれない極限の状況で、ゴンジュは生きようという欲望だけで耐える。そんな点が我慢強いキャラクターだと思った。
―実際のチョン・ウヒはどうなのか? 逆境に強いのか?
チョン・ウヒ:ゴンジュと似たところがある。倒れそうに見えるが、決して倒れない。すごく弱くてなかなか耐えられない人だとよく思われるけれど、それは大きな誤解だ。私は心理的に大変なことがあっても忍耐強いタイプだ。
―チョン・ウヒには2つのイメージがある。一つはか弱く見えるイメージで、もう一つは“シンナー中毒の問題児”だ(笑)
チョン・ウヒ:(笑) そうだ。「サニー」の前は色んな人からか弱く見えると言われた。でも、「サニー」で“問題児”という肩書きを得た後は、気が強く見えると言われるようになった。
―「サニー」の“問題児”として記憶されるのは女優としてどうなのか?
チョン・ウヒ:嬉しい。以前は「私は絶対か弱くない! なめられるような人じゃない!」といくらアピールしても誰も信じてくれなかった。でも、もう違う。皆、私を甘く見ないみたい(笑) “問題児”役で多くの観客に私の存在を知らせることができた。感謝している。
―ある作品が役者に一生付きまとう場合がある。それは良い意味でも、悪い意味でもだ。ムン・ソリにとって「オアシス」のコンジュがそうであるように、自身にとって「ハン・ゴンジュ」のゴンジュがそうなるだろう。この作品を選んだ時、女優として期待したことがあると思うが。
チョン・ウヒ:特別に望んだことはなかった。ただこの作品がとても気に入って、出演したいという意欲が大きかった。撮影しながら演技に対する興味も大きくなった。でも、私ができることはそこまでだと思う。作品の撮影までが私ができることで、観客が作品をどう受け入れるか、作品がどんな風に残るかは私の手から離れた問題だ。映画自体に望むことはあった。今までこのような題材を扱った映画は多くあり、すべて似たような感情で終わってしまうが、「ハン・ゴンジュ」はそのように終わらずに、違う方向で共感を与える映画になってほしいと思った。
―個人的には映画の感情に訴えかけすぎない部分が良かった。
チョン・ウヒ:シナリオ自体が非常にシンプルだった。シナリオ通りに映画が上手くできあがったと思う。
―映画もそうだが、演技に対する評価も非常に良い。すでに何度も聞いたと思うが、フランス女優マリオン・コティヤールがマラケシュ国際映画祭でチョン・ウヒの演技を高く評価した。
チョン・ウヒ:とても好きな女優だ。マリオン・コティヤールが褒めてくれたという話を朝6時に電話で聞いた。電話を切った後、あまりにも嬉しくてもう一度寝ることができなかった。頭を何かで殴られたような感じがした。
―それでは、韓国の役者の中では誰から演技を褒められたいのか?
チョン・ウヒ:キム・ヘスク先輩! キム・ヘスク先輩が大好きだ。見るたびに「とても素敵だ」と思ってしまう。
―キム・ヘスクも少し“問題ウーマン”のような感じ(一同笑) がして、カリスマ性もすごい。
チョン・ウヒ:キム・ヘスク先輩が私の存在を知っているかどうか分からないが、いつか先輩に「あの子、演技が上手いね?」と言われたい。本当にそんな日が来てほしい。
―「ハン・ゴンジュ」は映画関係者、要するに監督たちも非常に好きそうな作品だ。この作品を通じて女優チョン・ウヒに多くの演出家が注目しそうだ。
チョン・ウヒ:本当にそうなるかな? 「サニー」の後は強烈なイメージのせいでキャスティングを躊躇う監督が多かった。「ハン・ゴンジュ」のイ・スジン監督も最初はそのせいで躊躇された。でも、私が説得した。
―「サニー」の時、チョン・ウヒに対する観客とマスコミの関心は本当にすごかった。だから「サニー」の後、上手く行くと思ったが、率直に言ってその関心が少し引いたと思う。残酷な質問かもしれないが、周りの関心が冷めた後どんな気持ちだったのか?
チョン・ウヒ:その時はすごく浮き立っていた。今後、仕事が上手く行くだろうという期待も確かにあった。多くの人々が私のことを知ってくれたし、事務所にも所属することになって様々な状況が変わった。それで、チャンスもさらに増えるだろうと思った。でも、現実は反対だった。実は「サニー」を撮る前に人々から「もうかなり遅れているのではないのか?」と言われたけれど、私自身は上手く行っている方だと思っていた。周りに演技のチャンスを掴めず苦労している人が本当に多かったからだ。彼らに比べたら、私は運がいい方だと思った。でも、「サニー」の後、自分も知らないうちに欲が生じていたようだ。その時がちょうど20代半ばを過ぎた時だったので不安な気持ちがあったし、期待ほど上手くいかなくて大変だったのもあった。女優の仕事を始めてから初めて大変だと思った。でも、今になって考えてみると、その時間は女優チョン・ウヒにとっても、チョン・ウヒという一人の人間にとっても必要な時間だったと思う。その時間があったから「ハン・ゴンジュ」に出会えたし、「私は生きている」という考えで「ハン・ゴンジュ」に全てのエネルギーを注ぐことができた。
―短期間で注目されて、また短期間で消えていく役者は非常に多い。仕事が上手くいかない時期にある役者にとって最も必要なのは何だと思うか?
チョン・ウヒ:まず、演技がしたいという気持ちが必要だ。そして、その気持ちが変わってはいけないと思う。それによって自分はとても大変になるかもしれない。役者になりたいという欲求は人をとても苦しめるからだ。でも、最後まで諦めずに頑張ることで機会が訪れた時、また立ち上がることができる。
―その時、気持ちを諦めて軽い誘惑に乗ってしまう人も多いと聞いた。また、役者の代わりにエンターテイナーを選択する人も多い。
チョン・ウヒ:そうだ。そんなケースも少なくない。
―演技に対する気持ちと共に身に付けるべきものは?
チョン・ウヒ:周りの話にある程度は耳を傾けない必要もあると思う。親や年齢、お金など様々な現実的な壁のせいで役者への道を諦める人が多いけれど、そんなことに振り回されず、自分自身を信じて前に進む必要があると思う。色んなことを考えたり、あの人は私をどう思うだろうなどと気にしたりすると自分が大変になる。結局、自分を信じることが重要だ。
―そのため、耐える人が勝つという言葉があるようだ。その時期を-100から+100までの数字で表現するとしたら、大変な時期はどのくらいだったか?
チョン・ウヒ:-85までは下がっていたと思う(笑)
―今はどこまで上がってきたのか?
チョン・ウヒ:今は……今はとてもいい。不安はあるけれど、それは今までと違う種類の不安だ。非常に良い評価を受けているので、今後どうすればいいのかという不安を抱えている(笑) 今は+50ぐらい?(笑)
―先ほど話したように次のステップが本当に重要だと思う。今年28歳になるのだろうか? 個人的な考えだが、女性が生物学的に一番美しく見える年齢は23歳から28歳ぐらいまでだと思う。私の経験からもそう感じた。だから、その時期は本当に楽しく生きるべきだとも思う。
チョン・ウヒ:わ、共感する。最近、私もそんなことをよく考える。
―では、楽しく遊んでいるのか?
チョン・ウヒ:えーと、以前は小心者だった。周りの人のことを考えて躊躇することが多く、自信もあまりなかった。でも、20代も後2年しか残ってないので、何でも積極的に取り組むべきだと思う。後で振り返った時、後悔はしたくないから。でも、放蕩三昧という意味ではない。
―1度ぐらいは放蕩三昧でもいいと思う(笑)
チョン・ウヒ:ハハ。私にはあまり合わないと思った。今より若かった時、思いっきり遊んでみようとしたことがあるけれど、あまり興味をそそられなかった。お酒を飲むこともそうだし、あまり楽しくなかった。
―今まで行った最も大きな脱線は? 脱線までとは言えなくても「私がこんなこともした」と言える行動は?
チョン・ウヒ:ある意味、私にとって一番大きな脱線は演技だ。演技がしたいと話した時、一番多かった周りの反応は「君が?」だった。普通、女優は美しくて、背が高くて、才能のある人がする職業だと思うからだ。だからみんな「漠然とした夢なんだ」という視線で私を見た。でも今、私は演技をしている。また「君は平凡なキャラクターしかできないだろう」と言われたけれど、私はそれと逆に強烈なキャラクターを演じている。だから、演技は私にとって脱線で、挑戦だ。
―チョン・ウヒの才能はどこから来ているのか?
チョン・ウヒ:父親! 父が陶芸をやっている。歌も非常に上手で、母親や私より感性がはるかに豊かだ。
―多くのインタビューで自分の顔は普通だと話したが、本当に平凡だと思うのか?
チョン・ウヒ:以前は「君とそっくりな人を見た」と本当によく言われた。だから、その度に「ああ、私はよくいる顔なんだ」と思った。でも、最近は「違うよ。個性ある顔だ」ともしばしば言われる。他人の目に映る私は自分が思っているのと少し違うようだ。でも、私は自分が平凡だと思う。性格もそうだし、容姿もそうだ。でも、平凡だと思うからこそ演技がより面白く感じられる面もある。
―オーディションを受けたり監督と会ったりする時、女優としてどんな面をアピールするのか?
チョン・ウヒ:アピールするというより、ただ気楽な気持ちで臨む。
―ほら。先ほど自分は平凡だと話したが、平凡な人は普通そんな時に緊張する。
チョン・ウヒ:ハハハ。私は「すべてのことには理由がある」と信じる主義だ。もちろん、努力はする。最善を尽くしてオーティションに臨むが、もしだめだったら縁がなかったと思うし、上手くいったら運が良かったと思う。だから、オーディションを受ける時は緊張しない方だ。
―ポン・ジュノ監督、ウォンビン、シン・ドンヨプなどの前でも全く緊張しなかったのか?
チョン・ウヒ:誰かと会う時は相手の地位とか能力、年齢と関係なく、常に「人間と人間として会う」と考える。ポン・ジュノ監督がどれほど凄い人なのかよく知っているけれど、もしそれだけ考えていたら緊張してオーディションに落ちたはずだ。ウォンビン兄さんと会った時も「わ~ウォンビンだ~ウォンビン~」のようには考えなかった。ただ人間として接しようと思った。そして幸いにも人間的に知ってからその方たちがより好きになった。
―おおらかな面があるようだ。女優として自分は運が良い方だと思うのか?
チョン・ウヒ:とても良い方だと思う。いつもそう思ってきた。
―今のテンポには満足しているのか?
チョン・ウヒ:満足している。もし早く成功したら、演技の深さが今よりはるかに薄かったと思う。人と接することもそうだ。今のテンポが良いと思う。
―「ハン・ゴンジュ」ではコンビニでアルバイトしたが、次の作品「明日へ」では大型スーパーでアルバイトをする。「明日へ」の撮影はどうだったのか?
チョン・ウヒ:まず、初めて20代のキャラクターを演じることになって嬉しかった(笑) 「母なる証明」で浪人生ではあったが、本格的な20代の演技は初めてだ。でも、特に違うことはなかった。10代の演技をしたときは同世代や若い役者と共演したが、「明日へ」では先輩たちと共演したから、20代を演じてもまだ自分が幼い感じがした。むしろいつもより幼い子供になったようだった。
―もし私が女優なら、女性の先輩が多い撮影現場より、男性の先輩と共演する撮影現場の方が気楽そうな気がする。「明日へ」は多くの女優(ヨム・ジョンア、ムン・ジョンヒ、キム・ヨンエなど)が出演する作品だが、気を遣ったことはなかったのか?
チョン・ウヒ:だから実は私もとても緊張した。監督も女性だから撮影現場が難しいかもしれないと心配した。でも、無駄な心配だった。みんなとても気さくな方で、すごく優しかった。気楽に撮影できた。
―最近「愛の棘」のチョ・ボア、「情愛中毒」のイム・ジヨン、「愛のタリオ」のイ・ソムと一緒に注目されている。このように多くの新人女優が同時に注目されたことは今までなかったと思うほどだ。そこで質問だが、「この部分だけは私が一番だ!」と自分をPRしてほしい。
チョン・ウヒ:その中に私も入る? まず、私も一緒に挙げられるというだけでも幸せだ。そして、PRは……何があるだろう。存在感? 私以外の3人はきれいじゃないか。彼女たちに比べて私は平凡なので、より存在感があるように見えると思う(笑)
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- 編集 : チョン・シウ、写真 : ク・ヘジョン、翻訳 : ナ・ウンジョン
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