Vol.1 ― イ・スンギ、濃いオスの香り“理由ある成長”
MBC「キング~Two Hearts」のイ・ジェハは、確かに今までイ・スンギが演じてきた人物とは異なる。これまでイ・スンギが演じてきた典型的な人物は、明るくて、やや無邪気で、ときにはお茶目な20代の男性だった。だが、「キング~Two Hearts」のイ・ジェハはここから一歩進むべきだった。ドラマ序盤の“無邪気すぎた王弟”の姿はこれまでのイ・スンギが演じてきた人物に近かったが、ドラマが展開するにつれて、国家や、愛する女性に対して同時に責任を持つ“国王”であり、“大人の男性”の姿を見せなければならなかったためだ。
イ・スンギ自身も「とても内面が複雑で、色々な出来事が多いキャラクター」だと説明したイ・ジェハ。イ・スンギは「だから最初は(僕より)年上の俳優の名前がキャスティング候補として上がっていたようだ」とし、「最初はイ・ジェハを自分のものにすることができるのか」と悩むほど、大変なことだったと告白した。彼の言葉通りイ・ジェハを表現するには、戦争、復讐、南北関係、国際関係などを同時に表現する感情シーンが繋がっており、今まで彼が表現してきた人物よりはるかに重かった。
だが、イ・スンギはすぐにこのように話した。「迷っていたけど、入ってきた仕事だからやるべきだ」と。「何でも1日で慣れる」という“適応力”があったからなのだろうか。「キング~Two Hearts」を撮影していたイ・スンギは、いつのまにか監督のサイン一つで泣いたり、叫んだりする“俳優”になっていた。「どこかに椅子はないのかと座るところを探したり、何かが必要なときも誰かに指示しようとしたり、一人で歩くときも、後ろに近衛隊がいるような気がして、おかしかった」と言うほど、“イ・ジェハ後遺症”に浸っている彼に会った。
キスシーンが上手になった理由?俳優として満足するものを撮りたかった
―驚きました。「1泊2日」で見ていた、よく笑う、親しみやすいイメージのイ・スンギが毒舌を吐いたり、ダークなジェハになったりして……。イ・スンギ:イ・ジェハというキャラクターは、マッチョのイメージが強い。キム・ハンア(ハ・ジウォン)を愛して、命がけで板門店(非武装地帯にあって南北の軍事停戦委員会その他の会議が開かれるところ)を越えること、その部分でオスの香りを感じたのではないでしょうか。(ここでイ・スンギは“オス”という単語を使ったことが恥ずかしかったのか、笑い続けた)
女性を見守ってくれそうな感じがあったようですね。それに国王でしょう。「1泊2日」に出演していたときは、僕の中にあった男臭さが、自分でも少なくなっている気がしましたね。だけど、今回はバラエティから離れていたので、一層やりやすくなりました。
―そのせいか「“キスシーンが下手な俳優”イ・スンギが日就月将した」という評価もありました。
イ・スンギ:本当にキスシーンが下手だった!だけど、それは絶対、練習でできるものじゃない。毎日練習する相手と撮るわけでもないし、初めて会う人とキスシーンを撮る場合もあるから。「キング~Two Hearts」では、本当にハンアを大切にして、愛していて、また切羽詰った状況が多かったんですね。どんな人がそのように命がけで恋をしますか。そんな切羽詰る思いが、キスシーンに表れたんだと思います。
また、キスシーンがどれもユニークでした。冷蔵庫のキスシーンも、(キス)する前に話をします。本当にリアルな男女関係で、お互い恋を確認する状況、惹かれる状態でのキスでした。以前は見せるキスシーンに集中したけど、今回は本当に、配役の人物として満足できるキスシーンを撮りたかったんです。イ・ジェハなら、どのようにキスするか。
実際、お酒を飲んでキスするときって“格好よく”はしないでしょう。リアルにやりますね。格好よくやるのではなく、現実的にやろうとしました。だから、その場面で「キャーッ」となった人は、そんなロマンがあったのではないでしょうか。好感はあるけど、確信のない状態で一度くらいは突然キスされたいというロマン?(笑)
―「格好よくやるのではなく、現実的にやろうとした」という言葉が印象的ですね(笑) だけど、キスシーンだけでなく、作品全体を通じてそんな姿が見られたと思います。
イ・スンギ:最初にイ・ジェギュ監督に会ったとき、「楽に、正直にやりなさい」と言われました。「ここでは、演技をこのようにしなさい」ではなく、本当に僕がやりたいようにやることを望んでいたんです。なので、演じながら表情に気を使うよりも、本当に誰かを説得する状況であれば、説得するために熱心に話しました。以前は「僕が格好よく見えるポイント」を考えましたが、今回はひたすらイ・ジェハになりきろうとしました。
“本物”の方々と一緒にいると、僕がアマチュアであることを実感した
―このような思いをする特別なきっかけがありましたか?イ・スンギ:きっかけがあるというよりは、良い俳優、監督と一緒にいたら、自然にそう思えたんです。“本物”の方々と共演すると、ある瞬間、僕がアマチュアであることを実感しました。それで、その“本物”を追いかけていたら、自然に僕も演じることができるようになりました。序盤はシーンごとに緊張しました。監督の顔色だけを窺(うかが)っていました。非常に頼ってたんですね。シーンを撮影するたびに「これはどうでした?これは合っていますか?」と聞いたり。それがかなり長く続きました。
そして第7話から第10話の間、イ・ジェハが感情的な部分を表現したときです。キム・ボング(ユン・ジェムン)に出会ってハンアとの恋を確認するなど、感情的なシーンが多かったんですね。それで、のめり込んでいくうちに、僕の持っていたフレームみたいなものが自然に無くなりました。また、ハ・ジウォン先輩やユン・ジェムン先輩、イ・スンジェ先輩はとてもエネルギーのある方々なので、そのエネルギーをもらった面もあるし、浮いた話ではなく、真の話をしたような感じがしました。
―今回のドラマでは沢山泣いたり、心を痛める恋をするなど、感情の消費が多かったと思いますが、きつくありませんでしたか?
イ・スンギ:きつかったことはありません。むしろ、感情的なシーンはこなせたほうです(記者:特別な方法でも?)集中すると、感情がすぐに込み上げてきました。また、現場でNGを出す人が殆どいません。そんな雰囲気でした。(撮影を)長くしていると、おかしなことになるほどでした。最初は緊張してうまくできなかったけど、ある瞬間に力を抜いたら……。
泣くシーンも、泣くことだけを思うとうまくいかないけど、この状況が僕にとってどれだけ悲しいことかを考えて台詞を発すると、すぐに涙が出ました。そのため、泣くシーンは早く撮り終えました。他の角度から数回撮っても全て泣けたので。そもそもあんまり泣けないけど、今回は思いっきり泣きました。いつも「泣くシーンだけうまく演じることができますように」と願ったりしていた僕が!(笑)
―バラエティなどの活動をせず、演技だけに集中したことが役にのめり込めた理由ではないでしょうか。
イ・スンギ:そうですね。演技では普通に話すのと同じトーンで話すけど、バラエティではそれより2段階ほどトーンを上げなければなりません。(こう言って、イ・スンギは実際にバラエティと演技のときの声のトーンを比べて見せた)その差が無くなるから、集中できた部分もあります。「演技をするときに集中すると、こんな感じかな」ということが分かりました。演技とバラエティの両方を経験したので、今後は平行しても調節できるのではないかと思います。
視聴率が5%だとしても、僕の人生には役立った
―今までの話をまとめてみると、「キング~Two Hearts」は俳優イ・スンギにとって“ターニングポイント”のような作品になったようですね。イ・スンギ:完全なターニングポイントです。例え視聴率が5%しかなかったとしても、この作品に出演したことが僕の人生には役立ったはずです。もし、「キング~Two Hearts」が視聴率40%になったとしましょう。ドラマをやる以上は、上手く演じなければならないけど、単に視聴率だけが跳ね上がったら、僕は“いつ壊れるか分からない塔”のようですね。
なので、今回は視聴率のストレスが余りありませんでした。もちろん、序盤に良かった視聴率が後になって下がる場合もありましたが、それは題材とか主題意識に不慣れなものだったという理由もあったようです。だけど、本当に視聴率は重要ではありませんでした。「キング~Two Hearts」は僕にとって、とても重要な作品でした。撮影もとても楽しかったので。
イ・スンジェ先輩、ユン・ヨジョン先輩、ユン・ジェムン先輩、ハ・ジウォン先輩……。こんな素晴らしい出演者の皆さんに一つの作品で出会うことは難しいし、感情的なシーンだけでこのように(ドラマを)展開することも難しいですね。普段の生活を表現していく中で感情的なシーンが一つ二つ入る程度ですが、戦争や国際関係、復讐のような感情が引き続き展開されるため、僕にとってはどんな現場よりも良かったですね
―だけど惜しかった点もあります。例えば、特定ブランドのドーナツが続けて出てくるとか……後に「そのブランド名からドラマのタイトルを決めた」という噂までありました。
イ・スンギ:僕は実際、それほど深刻に考えていませんでした。メインPPL(Product Placement:ドラマや映画に特定会社の商品を小道具として登場させること)だから、登場するのは当たり前だと思ったし、「キング~Two Hearts」は軽くない内容ですが、何か面白い場面を考えようとすると、必ずそんなアイデアはドーナツを持っているときに浮かび上がったりもしました(笑) ハンアに指でハート模様を作りながら、ハート模様のドーナツをあげたのも、僕のアドリブでした。ハンアにドーナツをあげなければならなかったけど、誘惑すべきですよね。だから誘惑することに集中したんです。
例えば、何の意味もないティッシュですけど(テーブル前にあったティッシュを渡して)、これを渡しながら、「君のために準備しておいた」とも言えるでしょう。お水も「君が暑いかと思って、あらかじめ注文しておいた」と言うとか。誘うためにはそのようにも言えると解釈したんですね。「ハンアを誘惑してみせる」と思ってあげたけど、それが“ドーナツの乱”になるとは思いませんでした。びっくりしました(笑)
―なるほど。そんな悲しいエピソードがあるとは……。この機会で誤解が解けますね。それでは本題に戻って「キング~Two Hearts」に出演して、バラエティで積んできた“優等生イメージ”から脱皮した点も良かったですね。
イ・スンギ:あるイメージから脱皮しようと意図したことではありません。「キング~Two Hearts」に出演したのは、イ・ジェギュ監督の作品というのがありました。一度一緒に仕事をしてみたいと常に思っていました。なので、イ・ジェハがどんなキャラクターであるか考えもせず、合流しました。
だけど、蓋を開けてみたら「やれるかな」とも思いました。「だから、最初に(僕より)年上の俳優の名前が上げられたりしたんだな」と思いました。とても内面が複雑で、出来事の多いキャラクターでした。だけど、作品に出演するからにはやるしかない。本当に良い方々と作品を作ることができたのが、とても幸せでした。
僕は“優等生イメージ”について考えたことがありません。マスコミの方々が作ってくださったのが大きいですね。流れがあると思います。もっと年を取ったら、別のイメージになるはずだし。僕が35歳くらいになったら、今よりは濃い匂いがするでしょうね。
演技が楽しくなった。来年の上半期には何かやっているはず
―“俳優イ・スンギ”がどんな作品を次回作として選ぶのか関心が注がれているようですが、またバラエティに出演する予定はありますか。イ・スンギ:バラエティは、良い番組があればやりたいと思いますね。しかし、話が進んでいるものはありません。「1泊2日」で共演したシン・ヒョジョンプロデューサーの新たなバラエティ番組に合流するという噂もあるんですが、それはまったく根拠もなく広まった話のようですね。シンプロデューサーとはいつかぜひまた一緒にできたらと思う程度ですね。とても強い人で、仕事もできる人だと思いますから(笑) シンプロデューサーだけでなく、「1泊2日」の制作チーム全員といつかまた一緒に仕事がしたいと思っています。
次回作も検討しています。映画もドラマも話はありますが……。「キング~Two Hearts」の次回作として適切な作品とキャラクターを選びたい。今回、演技がとても楽しくなって、早く次の作品を決めたいという思いもあります。次回作はそう遅くはならないと思います。遅くとも、来年の上半期には何かやっていると思います。
―最後に、イ・スンギを応援するファンに一言お願いします。
イ・スンギ:ファンの方々は……。本当にびっくりしました。僕より“イ・ジェハ” が多かったので(笑) ドラマとキャラクターを分析してくださったのを見て、びっくりしました。僕もそこまではやらないんですけど、「すごいなぁ」と思いました。実は、僕は皆さんに暖かい言葉も交わしていないし、ご飯をおごったこともないですけど……それでも好かれているから、本当にありがたいですね。
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- 記者 :
- イ・ミナ
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