“予想外のヒーロー”を幾重もの表情で演じたイ・ジョンソクに痺れる ―「あなたが眠っている間に」鑑賞コラム
「君の声が聞こえる」では人の心の声が聞こえ、「ピノキオ」では嘘をつくとしゃっくりが出てしまうヒロインをナイトのように守る。パク・ヘリョン脚本家作のもとで、イ・ジョンソクは常に“ファンタジーと現実の繫ぎ手”だ。ありえない設定なのに、その世界をリアルとして成り立たせ、魅せてしまう。
そして、「あなたが眠っている間に」だ。本作でも彼は、予知夢をみるヒロイン、ホンジュ(miss A出身スジ)とともに未来の悲劇を阻止していく。これが何に驚くって、前2作と大きく異なり、ジョンソクの役どころが、“予想外のヒーロー”なのだ。
これまでイ・ジョンソクが演じてきたキャラクターの多くは、9の完璧カッコいいに対し、ふいに見せる1の弱さ脆さや隙が心をくすぐってくるタイプ。が、本作のジェチャンは、検事でイケメンなのに残念さの方が際立つという設定だ。
なにせ家ではズボラ、あまりのだらしなさに弟に呆れられ、職場では要領の悪さから未処理案件をためこむわ、空気の読めない言動で同僚・上司から冷たい目で見られるわの、できそこない君。厄介事につい首を突っ込み、言った後で自分の口を恨んだり、権力者を相手に威勢よくハッタリをかましたものの陰でビクついたり。なによりそのダメさ加減に無自覚な点が可笑しく、飄々と演じるジョンソクに笑わされること度々。だが、それが彼のすべてか? というと、ジェチャンという男はそうではないのだ。
たとえば、序盤のジェチャンは、「あなたなら未来を変えられる」と言うホンジュを避け、予知夢に向き合うことから逃げ腰。その理由をホンジュにぶつけるシーンがあるのだが、その一言に彼の人となりが表れ出ていて、ハッとなる。
「助けたくなるから。助けられなかったら、きっと自分を責めるから」そう、ジェチャンは人を助けたくなってしまう人なのだ。助けたい気持ちの大きさゆえに、葛藤もする。自分にその人を助けられるだろうか……と。そして、誰かの窮地を目にすると、助けられないかも……という重荷から「俺には関係ないことだ」と一度は目をそむけるのだが、結局その人のもとに駆けつけてしまう(そして助け出す!)。
たとえば、ユボム弁護士(悪いやつ!)の助手席に乗車していて事故に遭うホンジュの前に颯爽と現れたとき、同じくホンジュの母の店を訪ねてきたユボムに対しガツンと言ってやったとき。普段はややビビリだけれど、ここぞというときはカッコよさを発揮するジェチャンがまるでスーパーマンのようで(本当に!)、序盤から何度ニヤついたことか。
普段のダメンズぶり(それでもビジュアルは最強!)が9に対し、肝心なときに見せる1の冷静さと正義感、切れ味鋭い頭脳が抜群に利いていて、“カッコ悪いのにカッコいい”新たなタイプの主人公像に、あっという間に虜となり。加えて、物語が進むにつれ、カッコ良さの割合がぐんぐん増えていくのも痛快。ダメ・ジェチャンと素敵ジェチャンの共存が、彼のキャラクターとしての魅力、ひいては物語の面白さに幅と緩急を持たせているわけだが、シーンごと、状況ごとに、声のトーンを変え、眼差しに強弱や温かさ鋭さを色付けし、幾重もの表情で演じたイ・ジョンソクに、再び惚れ込んでしまう。
なかでも個人的にとても好きなシーンがある。ジェチャンが重傷を負う夢を見たホンジュが激しく動揺して訪ねてくるシーンだ(第9話)。「(夢でそうだったように)スーツは着ないで。横断歩道は渡らないで。私に会ったから刺されるのだから私に会わないで!」と泣くホンジュに対し、優しく頭を撫でながら、彼は穏やかな笑みを浮かべ、こう言う。
「イヤです。検事だからスーツしか着る服がない、一番似合う格好だし。横断歩道を渡らないと危険横断になる。何より君を避けることなんてできない」優しく、しかし冷静に、彼女の動揺を受け止めながら、安心できるよう導いていくジェチャン。「一時しのぎの方法では防げない。なぜ起きたか、理由から考えよう」そう言って、彼女の夢の内容をメモし(ここの“白シャツ腕まくり”な仕事する男感も高ポイント)、予知夢が現実になるのを回避する方法を見つけ出そうとするのだ。
「好きです」という彼女への告白シーンもそうなのだが、大事なときほど、静やかに、包み込むような落ち着きと優しさで、相手を守ろうとするジェチャン。9の“三枚目”の内に隠れていた、1の絶対的カッコよさにシビレてしまう。
彼だけではない。ジェチャン、ホンジュの“予知夢仲間”で、彼らを未来の悲劇から助けてくれる“ワケあり”警察官ウタクの存在感も見逃せない。ホンジュを密かに想い、ジェチャンとの仲を(夢で)知りながら、出るときは出る、引くときは引くの絶妙な配慮で、2人と奇妙な友情を築いていくウタク。
そのデキる子ぶり、けなげさ、笑うときのきゅるんとあがる口角(爽やカワイイ! でもどこか切なげ)と、心奪われるポイント満載の名2番手を生み出した新鋭チョン・ヘインは、本作の発掘品だろう。
そして、今や名バイプレイヤーとしてヒット作に欠かせないキム・ウォネ演じるチェ係長と、彼を慕い懐くジェチャンが繰り広げる父子(ときに恋人?)のような愉快で温かな関係も胸を震わせるものが。
なぜ彼らは予知夢をみるのか? 散りばめられた伏線が見事に回収されていく展開も、パズルが1枚の絵になっていくように爽快で美しく、さすがパク・ヘリョン脚本家!と唸らされる。なにより、このドラマは温かい。本作は、予知夢で未来を変える物語だ。が、既存のファンタジーで見るように、自分の人生を変えるべく過去の失敗をリセットしていく物語ではない(これはこれでメッセージが込められていたりするが)。主人公たちが奮闘するのは、自分のためではなく(復讐もない)、自分を助けてくれた大切な人や権力の理不尽により苦しむ人たちの未来を守るため。その他者に対する誠実で温かな思いやりが、すべてのキャラクターたちの根底に流れていて、ときめき笑わせられながら、深い感動で胸がいっぱいになるのだ。
そのため、鑑賞は2度以上をお勧めしたい。初見はさらりと見流していた部分に「これだったか!」な大事な意味があり、序盤からゾクゾクさせられるから! 書ききれなかったが、ジェチャンの少年時代を演じた名子役ナム・ダルム君も絶品だ。
(文:エンタメライター 高橋尚子)
そして、「あなたが眠っている間に」だ。本作でも彼は、予知夢をみるヒロイン、ホンジュ(miss A出身スジ)とともに未来の悲劇を阻止していく。これが何に驚くって、前2作と大きく異なり、ジョンソクの役どころが、“予想外のヒーロー”なのだ。
これまでイ・ジョンソクが演じてきたキャラクターの多くは、9の完璧カッコいいに対し、ふいに見せる1の弱さ脆さや隙が心をくすぐってくるタイプ。が、本作のジェチャンは、検事でイケメンなのに残念さの方が際立つという設定だ。
なにせ家ではズボラ、あまりのだらしなさに弟に呆れられ、職場では要領の悪さから未処理案件をためこむわ、空気の読めない言動で同僚・上司から冷たい目で見られるわの、できそこない君。厄介事につい首を突っ込み、言った後で自分の口を恨んだり、権力者を相手に威勢よくハッタリをかましたものの陰でビクついたり。なによりそのダメさ加減に無自覚な点が可笑しく、飄々と演じるジョンソクに笑わされること度々。だが、それが彼のすべてか? というと、ジェチャンという男はそうではないのだ。
たとえば、序盤のジェチャンは、「あなたなら未来を変えられる」と言うホンジュを避け、予知夢に向き合うことから逃げ腰。その理由をホンジュにぶつけるシーンがあるのだが、その一言に彼の人となりが表れ出ていて、ハッとなる。
「助けたくなるから。助けられなかったら、きっと自分を責めるから」そう、ジェチャンは人を助けたくなってしまう人なのだ。助けたい気持ちの大きさゆえに、葛藤もする。自分にその人を助けられるだろうか……と。そして、誰かの窮地を目にすると、助けられないかも……という重荷から「俺には関係ないことだ」と一度は目をそむけるのだが、結局その人のもとに駆けつけてしまう(そして助け出す!)。
たとえば、ユボム弁護士(悪いやつ!)の助手席に乗車していて事故に遭うホンジュの前に颯爽と現れたとき、同じくホンジュの母の店を訪ねてきたユボムに対しガツンと言ってやったとき。普段はややビビリだけれど、ここぞというときはカッコよさを発揮するジェチャンがまるでスーパーマンのようで(本当に!)、序盤から何度ニヤついたことか。
普段のダメンズぶり(それでもビジュアルは最強!)が9に対し、肝心なときに見せる1の冷静さと正義感、切れ味鋭い頭脳が抜群に利いていて、“カッコ悪いのにカッコいい”新たなタイプの主人公像に、あっという間に虜となり。加えて、物語が進むにつれ、カッコ良さの割合がぐんぐん増えていくのも痛快。ダメ・ジェチャンと素敵ジェチャンの共存が、彼のキャラクターとしての魅力、ひいては物語の面白さに幅と緩急を持たせているわけだが、シーンごと、状況ごとに、声のトーンを変え、眼差しに強弱や温かさ鋭さを色付けし、幾重もの表情で演じたイ・ジョンソクに、再び惚れ込んでしまう。
なかでも個人的にとても好きなシーンがある。ジェチャンが重傷を負う夢を見たホンジュが激しく動揺して訪ねてくるシーンだ(第9話)。「(夢でそうだったように)スーツは着ないで。横断歩道は渡らないで。私に会ったから刺されるのだから私に会わないで!」と泣くホンジュに対し、優しく頭を撫でながら、彼は穏やかな笑みを浮かべ、こう言う。
「イヤです。検事だからスーツしか着る服がない、一番似合う格好だし。横断歩道を渡らないと危険横断になる。何より君を避けることなんてできない」優しく、しかし冷静に、彼女の動揺を受け止めながら、安心できるよう導いていくジェチャン。「一時しのぎの方法では防げない。なぜ起きたか、理由から考えよう」そう言って、彼女の夢の内容をメモし(ここの“白シャツ腕まくり”な仕事する男感も高ポイント)、予知夢が現実になるのを回避する方法を見つけ出そうとするのだ。
「好きです」という彼女への告白シーンもそうなのだが、大事なときほど、静やかに、包み込むような落ち着きと優しさで、相手を守ろうとするジェチャン。9の“三枚目”の内に隠れていた、1の絶対的カッコよさにシビレてしまう。
彼だけではない。ジェチャン、ホンジュの“予知夢仲間”で、彼らを未来の悲劇から助けてくれる“ワケあり”警察官ウタクの存在感も見逃せない。ホンジュを密かに想い、ジェチャンとの仲を(夢で)知りながら、出るときは出る、引くときは引くの絶妙な配慮で、2人と奇妙な友情を築いていくウタク。
そのデキる子ぶり、けなげさ、笑うときのきゅるんとあがる口角(爽やカワイイ! でもどこか切なげ)と、心奪われるポイント満載の名2番手を生み出した新鋭チョン・ヘインは、本作の発掘品だろう。
そして、今や名バイプレイヤーとしてヒット作に欠かせないキム・ウォネ演じるチェ係長と、彼を慕い懐くジェチャンが繰り広げる父子(ときに恋人?)のような愉快で温かな関係も胸を震わせるものが。
なぜ彼らは予知夢をみるのか? 散りばめられた伏線が見事に回収されていく展開も、パズルが1枚の絵になっていくように爽快で美しく、さすがパク・ヘリョン脚本家!と唸らされる。なにより、このドラマは温かい。本作は、予知夢で未来を変える物語だ。が、既存のファンタジーで見るように、自分の人生を変えるべく過去の失敗をリセットしていく物語ではない(これはこれでメッセージが込められていたりするが)。主人公たちが奮闘するのは、自分のためではなく(復讐もない)、自分を助けてくれた大切な人や権力の理不尽により苦しむ人たちの未来を守るため。その他者に対する誠実で温かな思いやりが、すべてのキャラクターたちの根底に流れていて、ときめき笑わせられながら、深い感動で胸がいっぱいになるのだ。
そのため、鑑賞は2度以上をお勧めしたい。初見はさらりと見流していた部分に「これだったか!」な大事な意味があり、序盤からゾクゾクさせられるから! 書ききれなかったが、ジェチャンの少年時代を演じた名子役ナム・ダルム君も絶品だ。
(文:エンタメライター 高橋尚子)
「あなたが眠っている間に」リリース情報
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発売・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
(c)2017. iHQ all rights reserved.
公式サイト:http://kandera.jp/sp/ananemu/
予告編:https://youtu.be/QV2t_4nKIFg
※U-NEXTにて独占先行配信中
https://bit.ly/2KWmiit
- 元記事配信日時 :
- 記者 :
- Kstyle編集部
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