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是枝裕和監督、大ヒット作「ベイビー・ブローカー」のトークイベントを開催!鈴木おさむも驚愕のミラクルな瞬間を明かす“あれは実はテイク1なんです”

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是枝裕和監督の最新作にして、赤ちゃんポストをきっかけに出会った赤ん坊の母親、ベイビー・ブローカーの男たち、そして彼らを現行犯逮しようと追いかける刑事……。彼らが絡み合いながら繰り広げる一風変わった旅路を描く、衝撃と感動のヒューマンドラマ「ベイビー・ブローカー」が大ヒット公開中。

去る現地時間5月28日に閉幕した「第75回カンヌ国際映画祭」では、主演のソン・ガンホが韓国人俳優初となる「最優秀男優賞」を受賞。またキリスト教関連の国際映画組織がコンペティション部門の中から「人間の内面を豊かに描いた作品」に与える「エキュメニカル審査員賞」も受賞し、合わせて2冠の快挙を成し遂げた。

この度、是枝裕和監督最新作「ベイビー・ブローカー」の大ヒットを記念して7月21日(木)、東京・日比谷のTOHOシネマズ日比谷にてトークイベントが開催された。是枝監督に加え、以前から是枝監督と親交のある放送作家の鈴木おさむも出席し、本作についての様々な質問を監督にぶつけた。

意外な組み合わせに思える2人だが、鈴木おさむが以前、是枝監督の著書「映画を撮りながら考えたこと」を読んで感動し、感想を書いたハガキを出版社に送ったことをきっかけに交流が生まれ、それから、是枝監督の新作が公開されるたびに、鈴木のラジオ番組に監督が出演するようになったという。

鈴木は同書の中で、是枝監督がホームドラマについて書いた部分を引用しながら、今回の「ベイビー・ブローカー」の感想をこう語る。「本を読み返したら、面白い一節があって、『家族だからわかり合える、家族だから何でも話せるというのではなく、家族だからこそ知られたくない、家族だからわからないということのほうが、実際の生活では圧倒的に多いと思います。かけがえがないけど厄介だという、その両面を描くことがホームドラマにおいては重要だと考えています』と。僕はこの作品を観て、この物語は最悪なことから始まっていくホームドラマだなと解釈しました。最悪なところから始まって、家族じゃない人たちが、家族の形を作っていくんですけど、“ホームドラマ”という表現がこの映画にすごく合っているなと思いました」と語った。

鈴木は数年前に父親を亡くしており「父が亡くなって初めて『あ、親子だったんだな』とすごく感じたんです。いなくなって初めて気づくというか、(映画でも)失われそうになっていけばいくほど、みんなが“家族”を感じているなと思いました」と、自身の経験もなぞらえつつ、家族を描いたホームドラマであると評した。

是枝監督はその言葉にうなずきつつ「(主人公たちの)旅はいつか終わるので、短い時間だけ一緒にいる人たちであり、“家族”とも呼べないような集団ですけど、終わりに向かうにつれて、離れがたくなっていく。かけがえのないものになっていくんだけど、もう終わりが見えている。でも、それは普通の家族も同じで、気づいてないだけで、常に終わりに向かって進んでいるんだなというのは、僕も自分の父や母を亡くしたとき、初めて思いました。なくさないと気づかない……そういうものなんですよね。後で振り返った時、きっと彼らは『家族』という言葉を聞いた時、車の中だったり、洗車の時のことを思い出すのかなと」と語った。

鈴木は「終わりのあるもの」として、映画の中に登場する観覧車のシーンについて「なぜ観覧車に?」と質問。是枝監督は「好きなんですよね、観覧車(笑)。“回る”というのがいいですね」とポツリ。「でも、韓国のスタッフには『韓国人はそんなに観覧車好きじゃないよ』と言われまして(苦笑)。観覧車のある遊園地を探すのも大変でした」と明かした。

観覧車のシーンの撮影は、監督は同乗できず、NGが出てもすぐにやり直すことができず、1周まわって戻るまで待たなくてはならないなど、難しい部分が多い。監督は「夕方を狙ってたんですけど、一周回ってしまうと光が変わってしまうので、1日1テイクかせいぜい2テイクという状況で、上にのぼると電波が飛んでこないので、(映像を)見られないしセリフも聞こえない。でも、役者の顔を見ていると、良いものが撮れたなとわかるという妙な感じでした」とふり返った。

また、鈴木はカン・ドンウォンがインタビューで「監督はあまりモニターを見ない。芝居を直で見るので、不安になることもあった」と語っていたことに触れ、モニターを通してではなく、俳優の芝居を直接見る理由について質問した。

是枝監督は「モニターでお芝居を見ていると、逆に遠くなるんですよね。大きなスクリーンに映した時の感じというのは、むしろ現場で肉眼で見ているものと近いんです。モニターで判断すると、大きなスクリーンで見たときに『もうちょっと抑えればよかった』とか思っちゃうんですけど、現場で肉眼で見ていると間違わないんですね」と、芝居に対する独自の審美眼について語った。

さらに鈴木は、カン・ドンウォンが「いままでで1番自然に演技ができた」と語っていたことに触れつつ、役者の自然な演技を引き出すために意識していることを尋ねた。

監督は「言い方が難しいけど、なるべく役者が芝居に集中しないように、自分のセリフだけに集中しないようにというのは思っています」と、独特の表現で説明。今回、カン・ドンウォンは現場で少年ヘジン役の子役の面倒をずっと見ていたとのことで「本番直前まで言うことを聞かなくて、1番大事な『生まれてきてくれてありがとう』というセリフのシーンでも、直前までベッドの上で跳ねてたんです(苦笑)。僕が『ここだけは静かにしてね」と言っても聞かなくて、カン・ドンウォンさんが『あとでレゴを買ってやるから!』って(笑)。一緒にスケボーで遊んであげたりもしてて、それが逆に本番でも良い感じで出てます。最後のホテルに赤ちゃんをもらいに来る夫婦が入ってきたとき、あの少年はサッカーボールで遊んでて、カン・ドンウォンさんがすごく雑に引っ張っていくんだけど、あれはほぼ素です(笑)。あの感じがすごくよかったです。旅の終わりになった時、あの2人があの距離感になっているのがとてもよかったですね」と語った。自分のセリフだけに集中させるのではなく「何かのついでにしかセリフを言えない状況を作ることが大事ですね」と、秘訣を明かした。

鈴木は、撮影の中で起こる、監督の想像をも超えて生まれる“ミラクルな瞬間”についても質問。「観覧車で(涙を流して)目を覆うシーンが『リモコンか?』というくらい、すごいタイミングの涙ですけど……」と語ると、是枝監督は「あれは実はテイク1なんです」と明かし、これには鈴木も「キター(笑)」と驚愕!

是枝監督は「あの観覧車、すごく古くてずっとギシギシとすごい音がしてたんです。録音部には『この音は使えないと思うから、明日もう一度リテイクしたい』と言われて、翌日に2テイク撮っているんです。でも、お芝居は圧倒的にテイク1が良くて、頑張ってノイズを抜いて仕上げました。技術スタッフは『絶対に使えない』と言ってたんですけど、僕は3つを比べたらテイク1しかないなと思ったし、自分のお芝居についてめったに意見を言わないイ・ジウンさん(IUの本名)が、あのシーンに限っては『自分としては、ひとつめが1番よかったと思う』と言ったので、もう1を使うしかないと思いました」と、裏話を明かした。

こうした“ミラクル”との遭遇について、是枝監督は「役者によるけれど……」と前置きし、ペ・ドゥナが演じる刑事が、夫に電話して音楽を電話越しに聴かせるシーンに言及。「ペ・ドゥナさんは、テイクが始まった時に『これがOKテイクだな』とわかる役者なんです。カメラが回ってお芝居を始めた瞬間に『これは神テイクになるぞ』とわかる役者さんのひとりで、安藤サクラさんもそういう役者さんです。ああいうテイクの時は、僕も技術スタッフも『あぁ、はじまった』とわかるので、トラブルが起きないようにすごく緊張しますね。そういうのを捕まえてくる役者がいるんですよ。屋上でペ・ドゥナさんとイ・ジウンさんが対峙するシーンもそうで、あのあたりはだいたいテイク1かテイク2で、あまり回しても意味がなくて、僕はもう手を合わせるだけです」と、ミラクルの瞬間を述懐した。

鈴木はさらに、クライマックスの「生まれてくれてありがとう」というセリフが発せられるシーンについても「どうやってるんですか?」と、直球の質問!

監督は「あのシーンは男の子をなだめるのに精いっぱいで……(笑)。ただ、あの少年、あのシーンで泣いてるんですよ。『生まれてくれてありがとう』と言われた直後に。現場は暗くて見えなかったんですけど、編集で見て『泣いてる!』って気づいたんです。ということは、あれだけはしゃいでいたのは、そういうシーンだから、照れたのかな? と思いました。実際に撮影してる時は、あの子を落ち着かせて……ということしか考えてなかったです。あそこもほぼ1テイクで、固めるシーンでもないのでほとんどぶっつけ本番でした。よく撮れたなと思います」と、感慨深そうに語った。

ほかにも是枝監督は、韓国映画ではもはやほとんどグリーンバックによる合成で撮影をするようになっている車の運転シーンも、あえてロケーションで撮影したことを明かす。「(グリーンバックのほうが)集中して撮れるという役者さんもいるということで、『パラサイト』のソン・ガンホさんの運転シーンも全部セットで止め撮りだと言われて、たしかにわからないなと思ったんですけど、だからこそ、絶対にロケーション撮影だとわかるように、必ず窓を開けて、風が吹き込むようなシーンに、わざとしています(笑)」と、監督なりの“意地”を明かした。

鈴木はその言葉にうなずきつつ「やはり、いま(映画界が)捨てていくものを、監督は拾っている。そこに“ホームドラマ”感があるなと思いました」と納得していた。

この日は、客席の観客からの質問にも答えた。最初は、ラストシーンで5人の写真がミラーにぶら下がっているが、その意図についての質問。是枝監督はしばし思案したあとに「よかったですよね?」とニヤリ。「あの瞬間を思い出すんだろうなと思ったんですよね。最後に赤ちゃんのまわりにいられる人といられない人が生まれて、みんなではもう二度と車に乗らないなと思ったけど、それでも、あの時の写真を思い出す人がいるというのがいいのかなと思いました」と説明する。

続いて、中国からの留学生の男性からの質問。男性は、本作が描き出す家族ではない人々が家族のような人間関係を築いていくところに「感動しました」と語る一方で、人身売買は深刻な犯罪であり、現実のブローカーは、映画に出てくるような優しいクリーニング屋ではなく、危険な犯罪者であると語り「ロマンチックなキャラクター設定が、犯罪を美化し、映画のリアリティ、社会性を弱くしてしまう部分もあるのでは?」という問題を提起した。

是枝監督は「『万引き家族』の時も『万引きを肯定するのか?』という意見はありました」とふり返りつつ、「どう思いましたか?」と男性に質問。男性は「『万引き家族』のキャラクターたちは人間の複雑さをよく表現しているけど、今回の是枝さんは優しいと思います。(登場人物たちは)みんな優しくて、ひどいことはあまりしないし、僕も感動しました。でもドラマと現実のバランスはどう思いますか?」と応じる。

是枝監督は「僕が(犯罪を)許しているというよりは、サンヒョン(ソン・ガンホ)は自分なりの倫理観で、そばには戻ってこないという結末にしました。『法を犯すこと』と『倫理的に生きようとすること』は、イコールではなくて、僕にとっては倫理のほうが大事なんです。(映画の中に)法を踏み外す人は結構出てくるけど、自分が描きたいのは、そこ(法を犯すか否か)で生きている人間ではなくて、別の基準(=自分なりの倫理観)で生きている人なんです。ソヨンが自分でも言っているように、この事件がニュースになったら『売春婦が……』と言われるわけで、みんな社会から断罪されることになるでしょう。だから、そうではない目で僕が描き、そうではない目でみなさんに観ていただくことで、それは別に犯罪を許しているというわけではないと思って作っています」と、疑問に対し真摯に向き合った。

トークの最後に、鈴木は「僕は今年50歳になりまして、父が亡くなったり、大事な友達がいきなり逃げちゃったり、生きているといろんなことがあります。人生のいろんなタイミングで、どの映画・物語と出会うかって大事なことだと思っていて、いまの僕がこの物語に出会って、家族のことを考えたりするというのが、僕にとってはすごく素敵なことでした。この映画を観て感動する人はたくさんいると思いますが、この映画が人生にとって必要な人もたくさんいると思うんです。この映画がそういう人と出会えることを強く願っています」と呼びかけた。

是枝監督は、鈴木の言葉に「良い言葉をいただきました」と伝え、「自分で映画を作っていて、1番思うのはそういうことで、観た人の人生に必要とされる映画を作りたいと思っています。それは、自分が観てきた映画もそうで、観た瞬間にそう思うわけじゃなく10年くらい経って見返した時に、自分の中でのその映画の価値や意味が変わっていくという経験をしばしばするものです。自分が父親を失くしたり、父親になったりしたことで、前に観た映画の感慨や感情が変わる……。映画って、人生の節々に寄り添ってくれるものなんだなと思います。自分の映画がもし、そういうものとして、みなさんのそばに置いていただけるのであれば嬉しいですし、これからもそんな映画を作っていけたらいいなと思っています」と語り、会場は温かい拍手に包まれた。

■作品情報
「ベイビー・ブローカー」
大ヒット公開中!

監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ペ・ドゥナ、イ・ジウン(IU)、イ・ジュヨン

製作:CJ ENM
制作:ZIP CINEMA
制作協力:分福

提供:ギャガ、フジテレビジョン、AOI Pro.
配給:ギャガ
(C) 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED

<あらすじ>
古びたクリーニング店を営みながらも借金に追われるサンヒョン(ソン・ガンホ)と、<赤ちゃんポスト>がある施設で働く児童養護施設出身のドンス(カン・ドンウォン)。ある土砂降りの雨の晩、彼らは若い女ソヨン(IU)が<赤ちゃんポスト>に預けた赤ん坊をこっそりと連れ去る。彼らの裏稼業は、ベイビー・ブローカーだ。しかし、翌日思い直して戻ってきたソヨンが、赤ん坊が居ないことに気づき警察に通報しようとしたため、2人は仕方なく白状する。「赤ちゃんを大切に育ててくれる家族を見つけようとした」という言い訳にあきれるソヨンだが、成り行きから彼らと共に養父母探しの旅に出ることに。一方、彼らを検挙するためずっと尾行していた刑事スジン(ペ・ドゥナ)と後輩のイ刑事(イ・ジュヨン)は、是が非でも現行犯で逮捕しようと、静かに後を追っていくが……。<赤ちゃんポスト>で出会った彼らの、特別な旅が始まる。

元記事配信日時 : 
記者 : 
Kstyle編集部
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