チョ・ガンヒョン「ドラマ『太陽を抱く月』を見るのを我慢して、陽明を想像した」
写真=ショープレイ
ミュージカル「太陽を抱く月」の中で、悲運の王子陽明(ヤンミョン)というキャラクターを俳優ソン・ドゥソプと共にダブルキャストで演じ、これまでのコミカルな演技や男性的な演技を繰り広げていた一連の作品から脱し、愛する女性にたった一言の愛の告白さえも出来ないロマンチストを演じるチョ・ガンヒョンの姿が気になった。
―陽明は愛する女性を目の前にしながらも告白できない、切ない恋をしているキャラクターだ。チョ・ガンヒョン:演技には想像力が必要だと思っている。練習序盤は、「演技のためにドラマを見るべきか」と大いに悩んだ。でも、いざドラマの名シーンを見てしまったら、台本を読んで想像したシーンが消えるかも知れないと心配になった。そのため、見たいけど見なかった。ドラマを見なかったので、自分が演技で埋めなければならない想像のスペースが増えた。
いつからホ・ヨヌのことが好きで、どれほど好きなのかなどの部分だ。想像しながら感じなければならない過程が多くなった。そのように練習しながら自分の感じる陽明の方が、(ドラマよりもむしろ)台本に相応しいと思った。観客がドラマの陽明と僕が演じる陽明をどのように比較するのかは分からないが、絶えず自分の苦痛を隠そうと努めている陽明を演じ、舞台でお見せするのが最善の方法だと思う。
―6月末、「第7回大邱(テグ)国際ミュージカルフェスティバル(DIMF)」にもこの作品で参加したそうだが。
チョ・ガンヒョン:客席が観客でいっぱいになって驚いたし、とても有難かった。感情の伝達もうまくいった。龍仁(ヨンイン)では、舞台の上で僕が痛いと言えば「本当に痛いのかな」という反応だったが、大邱では「痛いんだ」という反応が直ちに感じられた。大邱での瞬間的な反応は、僕だけでなく俳優全員が同じように感じたことだ。今回は龍仁から瑞草洞(ソチョドン)にある芸術の殿堂に公演会場を移してソウルに来たので、自分が表現したいことにより容易に近づくことができる。
―これまでの出演経歴を見ると、創作ミュージカルに多く出演する傾向がある。
チョ・ガンヒョン:創作ミュージカルは、過程が面白い。果てしない大海原へと漕ぎだし、目的地に向かう気持ちとでも言えるだろうか。創作ミュージカルを終えると、オールを漕いでいたので演技という名の腕の筋肉が沢山増える。俳優として大いに役に立つのが創作ミュージカルだ。
―演劇をしていたが、どのようにして演技に音楽まで加わったミュージカル「ジキルとハイド」のオーディションを受けることになったのか。
チョ・ガンヒョン:学校では演技を専攻しただけで、ミュージカルを学んだことはなかった。家庭の事情で学校を休学し、色んなバイトをやってきた。その中でミュージカルで1人で何役も演じるアンサンブル俳優の待遇について知り、「これなら生活できる」と思い、バイトを止めてオーディションを受けた。
当時、「ジキルとハイド」主演たちの演技を見ながら、「僕もミュージカルやってみたい」と思うようになった。演劇をやっていてミュージカル俳優になったが、演劇舞台への渇きはまだ残っている。ミュージカルのように大きな舞台に立てば立つほど、より小さく、繊細で細かい部分を求めるようになる。
状況が許すなら、小劇場の舞台にも立ちたい。大劇場には物理的な距離がある。かすかな息の音のように繊細な演技をしてもよく伝わらない。その反面、小劇場では僕の内面をはじめ、演技の細かな震えまで観客が見られるという長所がある。
―俳優としては軍の服務履歴が特異だが?
チョ・ガンヒョン:学校を休学し、休む期間を減らすために海兵隊に志願した。志願して、一番早く行けるのは海兵隊だから。そこで、2004年から2006年までイラクへ派兵された。日記を書かない日がないほど、緊迫した日々の連続だった。イラク派兵時代に書いた日記は、今読んでも新鮮で面白い。当時、服務していた部隊は、韓国大使を警護する任務を担当していた。
一度、戦争が起こったかのように空から数千発の銃弾が降り注いだことがあった。戦争が起きたかと思い、非常事態となった。非常サイレンがあちこちで鳴りまわり、屋上に登って実弾という実弾はひとつ残さず取り出さなければならなかった。後任兵が漏らしたほど、危機的状況だった。僕さえも、「ここで死ぬのか」と嘆いたくらいだった。
銃声は聞こえ続けているのに、突然降りて来いと指示された。降りてみるとイラクとサウジアラビアのサッカー試合があったが、数年ぶりにイラクが勝ったのでイラクの人々たちが空に向かって銃を数千発も撃ったと言われた。今だから笑っていられるハプニングだが、当時は戦争に劣らぬ戦慄を感じた。当時、イラクの状況がこのようなものだったので、安全に対し少し不感症になるほどだった。最初は、ドンと爆発音が聞こえ黒い煙が上がっただけでも震える声で報告をした。それが、2ヶ月が経つと爆発音がしても平然と報告するようになった。
―人生でどのような経験がミュージカル舞台での演技に役に立つのか?
チョ・ガンヒョン:毎瞬間、親しい人と親しくない人の両方を感じながら観察することが、演技する上で重要だと思う。人生には嬉しいこともあるが、その反面愛する人と別れるような悲しみもある。このような喜怒哀楽を、貯金するようにうまく積み重ねることが重要だ。
色んな感情を感じ、それをうまく保存しておけば、後で舞台で色んな人物を演じる時、当時の感情を取り出すことができる。そうすると、「チョ・ガンヒョンの演技は、嘘ではない」と観客が僕の演技を信じることができる。漠然と想像だけで、または他の俳優が演じるのを真似するよりも、自分の感情を引き出して演技することの方が重要だ。
―デビュー当時と現在、そして10年後のチョ・ガンヒョンの姿は?
チョ・ガンヒョン:「ジキルとハイド」でミュージカルを始めた当時は、本当にお金が全くなかった。真夜中にアルバイトをすれば電車がまだ動いていないため、落星垈(ナクソンデ)から薬水洞(ヤクスドン)まで歩かなければならなかった。夜明けの道を歩きながら薬水洞まで行く途中、LGアートセンターの前で壁に手をついて、「この舞台に立てるなら、本当にもう望みはない」と祈るほどだった。
今は電車がなくても、歩かなくて良くなったので、本当に幸いだ。十年後は今よりももっと気持ちのこもった演技をしつつも、変わらない俳優になりたい。「どうしたら歌が上手くなるんだろう」「どうしたらもっと踊れるようになるんだろう」も良いが、今僕の頭の中には、「どうしたらもっと演技が上手くなるんだろう」でいっぱいになっている。
- 元記事配信日時 :
- 記者 :
- パク・ジョンファン
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