「馬医」イ・ビョンフン監督“14年間ドラマ出演を拒んでいたチョ・スンウ、彼をキャスティングした理由は…”
「宮廷女官 チャングムの誓い」「イ・サン」「トンイ」など数々のヒット作を生み出し、アジア全土に韓国時代劇ブームを巻き起こした韓国歴史ドラマの巨匠イ・ビョンフン監督。最新作の「馬医」が“東京ドラマアウォード2013”にて海外作品特別賞を受賞したことを受け、キャスティングや制作秘話、作品について監督ならではの熱い想いを語ってもらった。
― 「馬医」を題材にしたきっかけは?イ・ビョンフン:ドラマ「馬医」は私の以前のドラマと類似している部分と異なる部分があります。医療ドラマという点では「ホジュン ~宮廷医官への道」や「チャングムの誓い」と同じ分野ですが、動物を治すという部分が異なります。韓国では動物を治療するドラマは今まで一度もなかったんです。1950年代からの約60~70年のTVドラマ史上、こうしたドラマは一度もありませんでした。「馬医」は動物と人間の交流、動物と自然、自然と人間、これらをテーマに作った新しいドラマだと言えるでしょう。
― チョ・スンウさんをキャスティングした理由は?
イ・ビョンフン:チョ・スンウさんは前からキャスティングしたかった俳優の一人でした。ドラマの主人公を探すときは別の役柄でのイメージがついていない、新しいイメージを見せられる俳優を探すのが演出家の夢なんです。能力がありドラマのイメージにも合っていて、テレビでの既存のイメージが邪魔をしない、新しい姿を持った俳優をキャスティングするのが夢なんです。チョ・スンウさんは俳優デビュー14年の経歴を持つ、映画やミュージカルのスターです。でもテレビには一度も出演したことがなかったので、とても新鮮な顔だという点で大きな強みがありました。だから、チョ・スンウさんにやって欲しかったんです。
7年前にドラマ「薯童謠ソドンヨ」のときにオファーをし、また「トンイ」でもチ・ジニさんに決まる前に一度オファーしたんですが断られました。テレビドラマの制作現場が過酷で大変だからというのが理由でした。実際、韓国のテレビドラマの制作現場は戦場です。寝る時間も食事の時間も休憩も満足にとれず、撮影の繰り返しで何日も徹夜した上に健康も害してしまうような悪条件なんです。そこで自分がやっていけるのか、そんな現場でやりたい演技がちゃんと表現できるのかという疑問があって今まで14年間一度も出演しなかったそうです。でも2作品とも断られてしまったのになぜ今回はOKしてくれたのか?それはずっと後回しだったテレビドラマは影響力が非常に大きく、やはりそれは無視できない、いつかは一度テレビのお仕事をするべきだと思ったのでしょう。
彼は20歳の時「ホジュン」を見てすっかり魅了され、「ホジュン」のようなドラマに出るのが夢だったそうです。「ホジュン」に夢中になったのでテレビドラマに出るなら「ホジュン」の監督とやりたいと思い続けていたところに私からのオファーが来て、テレビドラマへの出演の必要性を感じていた時だったのもあり、快くOKしてくれたんです。
チョ・スンウさんを起用した理由は2つです。テレビドラマの主人公としてフレッシュな顔という強み。もう一つは彼のまなざしの優しさです。私はドラマの主人公にはまなざしの優しい人を使うようにしています。主人公は正義を代弁する役なので、まなざしが悪人風だったり、純粋でない場合は主人公にはしっくりこないんですが、チョ・スンウさんのまなざしはとても優しいので主人公に相応しいと思いました。
もう一つは同じ医療ドラマ「ホジュン」のような厳粛な主人公を描くのではなく、ユーモアがあって茶目っ気がある医師の姿を描きたかったんです。医師ホジュンとの差別化も図れるからです。「チャングムの誓い」は女医でしたが、今回は同じ男性医師なので差別化する必要があったんですよね。チョ・スンウさんにはひょうきんな部分もあるんです。茶目っ気があってユーモアがあると思ったので、それで「馬医」の主人公にはチョ・スンウさんが適役だと思ってラブコールを送り出演をお願いしたんですが、チョ・スンウさんがOKしてくれて幸せな気持ちでキャスティングを終えました。
― イ・ヨウォンさんの印象は?
イ・ビョンフン:ドラマでは、卑しい身分出身の男性獣医師がトップの医師になって、裕福で医学をきちんと学んだトップの女医と競争し合うという二人の様子も見せたかったんです。でも実際にはペク・クァンヒョンが優秀すぎて途中で競争が曖昧になってしまいました。もともとの意図は最後まで二人が競争することでした。だからこそヒロインには聡明で賢く強いけれども美しいイメージの女性を選ぶ必要があったのです。
ご存知のようにイ・ヨウォンさんは4年ほど前に「外科医 ポン・ダルヒ」で医師役を演じました。まっすぐで有能な外科医役を立派に演じて韓国では大好評でした。私もそれを見てイ・ヨウォンさんなら賢くて強い女医を演じきってくれるだろうと思い起用しました。ただ、気がかりなのは「善徳女王」という韓国ドラマでタイトルロールである善徳女王の役を彼女がやっていたことです。あのドラマは韓国では大成功をおさめたので、既にドラマのタイトルロールをやったことのある女優がオファーを引き受けてくれるのかなと思ったんです。「馬医」の実質的な主人公はペク・クァンヒョンだし、イ・ヨウォンさんの役はヒロインではあるけれど、男性主人公が中心ですから引き受けてくれるかなと心配でしたが、意外にも引き受けてくれて幸せでした。「イ監督なら私を必ず輝かせてくれると信じているからこのドラマをやることにした」と言ってくれまして、幸いなことにキャスティングできたんです。
― イ・サンウさんについては?
イ・ビョンフン:イ・サンウさんは「馬医」の前から韓国でも20代より30代の女性に大人気です。20代ではなく、なぜ30代の女性なのかはわかりません。イ・サンウさんのファンクラブは30代女性ばかりだそうですよ。今回のチョ・スンウさんとイ・サンウさんの共演では20代女性にはチョ・スンウさんが、30代女性にはイ・サンウさんが人気だったようです。びっくりするほどの人気ですよね。だからこそ心配になったんです。イ・サンウさんの役はラブロマンスでは相手に負けてしまう助演です。でも脚本家はイ・サンウさんを望んだんですね。私はイ・サンウさんは愛が成就しない役だからあとで本人が落ち込んじゃったらどうするのって聞いたんです。でも脚本家はイ・サンウさんだ、彼しかいないと言うのでとても心配でした。
ドラマでの展開も実際そうなりました。チョ・スンウさんの比重がどんどん高まり、愛する人は奪われてしまいます。イ・ヨウォンさんはイ・サンウさんではなく、チョ・スンウさんにどんどん惹かれていくので胸が痛みました。それでイ・サンウさんに申し訳ないから助演ではあっても素敵な人物の設定にしてほしいとお願いしたんです。ドラマではイ・サンウさんは愛する人をめぐってのライバル役ということになるのでちょっと悪役的なところも必要なんですね。悪人にならないといけないのに、イ・サンウさんに申し訳なくて悪人に仕立てることができず、いい人の役で話を展開しました。もともとの役とは違った設定になったんですね。ペク・クァンヒョンを非難したりねたんだり罠にはめたりする設定だったのに、イ・サンウさんに申し訳なくて悪人というよりライバルという設定になったのです。
脚本家には結局、悪人を悪人にできず、苦悩しながらも最後までペク・クァンヒョンを助ける役になってしまったよと言いました。イ・サンウさんだったから最初の悪人の設定とは変えたのですが、それでもいつも申し訳なく思っていました。当初イ・サンウさんが私に期待していたほど、ドラマ中での彼の比重は大きくならなかったからです。本人にも謝ったんですが、彼は時代劇は初めてだったので監督のおかげでとてもいい演技の勉強になったと言ってくれて仮にドラマでの役が不完全燃焼でもこのドラマを通じて演技を学ぶことができたので満足だと何度も言ってくれました。私が謝ると「監督とんでもない、僕はこのドラマでたくさんのことを学んだ」と言ってくれたのです。
― 印象に残っているシーンは?
イ・ビョンフン:動物とのシーンが印象に残っています。2つだけ紹介しますね。4話のシーンで馬がじっと横たわっていて目を開けます。主人公の男の子も意識を失って倒れています。そこで馬が目を開けて瀕死の男の子を見て母性を感じて近づいて舐めてあげて介抱した結果、馬も元気になり男の子も助かって命を取り留めるシーンがありました。このシーンは馬が言う通りに動かず撮影が本当に大変でした。馬が目を開けて男の子を見て優しい眼差しになり、そっと起き上がって男の子に近づくという撮影に4日を費やしました。馬がただ起き上がるシーンは撮れましたが、近づいてくれなくて4日間の撮影で諦めました。馬が目を開けて男の子を見て起き上がるというシーンも2日かけてもダメでした。偶然にももう諦めたその時、突然馬が目を開けて起き上がったんです。カメラ回っているか?と慌てて聞くと回っていて偶然の幸運によるショットでした。あきらめたシーンが撮れていたんです。偶然に助けられなかったら絶対に撮れませんでしたね。
もう一つは8話か9話で牛を70~80頭動員するシーンがありました。牛が病気にかかり逃げるシーンです。牛ってあんなに怖い動物だとは知りませんでしたね。おとなしくてやさしいとばかり思っていました。私はせっかちな性格で、思った通りに動かないと自分のほうから動いちゃうタイプで馬の時も自分の手で動かしたりしたんですが、牛が動かなくて牛の群れの中に入って牛を押しました。それで牛は前に向かって歩き出しましたが、2頭の牛に足を踏まれて、足の骨が折れたかと思いました。踏まれた瞬間の感覚で「ああ、右足の骨が折れたな」と思ったんです。2頭の牛に踏まれたくらいですから、牛が全部移動したあとものすごく痛くってそっと足の指を動かしてみたら動いたんです!とにかく痛かったけど骨折はしなかったと思いました。助演出のスタッフはレントゲンを撮ってみたほうがいいと勧めましたが、足の指が動くんだからひびは入ったかもしれないが骨は絶対に折れてはいない、翌日まで様子を見ようと私は言いました。次の日はかなり腫れましたが、足の指が動かないならレントゲンを撮りに行くけど動くなら行かないつもりでした。撮影が沢山あるからです。でも翌朝、足の指は動いたので大丈夫だと伝えました。幸いなことに痛みは一週間で消えて治りました。
あの牛に踏まれた時、ものすごい痛さで牛の体重ってすごいんだなと衝撃を受けました。牛を飼育している牧場のオーナーに聞いたら牛は馬よりもちょっと頭脳は劣るそうです。だから馬は人の足を踏んだりすることは絶対ないけれど、牛は踏んだりぶつかったりはよくあることだし、馬は人が落馬したとしてもその人が馬に悪さをしない限りは決して踏みつけたりはしない。だけど牛は前に人がいてもそのまま踏みつけて行くらしいです。牛の群れの中に入っていくなんて死にたかったのか?牛の中で牛を手で押すなんて!と怒られました。群れの中で牛に押し倒されていたら踏まれて死んでいたかもしれませんね。
― 監督のこれまでの作品が日本で人気がある理由は?
イ・ビョンフン:人気作とのお言葉ありがとうございます。いい側面からドラマを見てくださったおかげだと思います。私がドラマを作るときにいつも言うのは、ドラマはまず面白くなければダメで、面白くなければドラマじゃない、これが私の信条なんです。次にテレビドラマは公共媒体ですから有意義でなければならない。何か教育的な要素を取り入れなければならないと常に思っています。家族一緒に見られるドラマでありつつ面白いドラマでなければならないのです。ストーリーをどうしたら面白く展開させていけるのか、いつもドラマを作る時にこだわっていますね。
面白いドラマにはいくつかの要素があります。一番目は面白いストーリーです。特に時代劇はストーリーがつまらないと人々は見てくれません。二番目は台本上の不文律とも言えますが、登場人物をきちんと生かすことですね。ドラマの人物は面白くて魅力的で愛らしくなければなりません。そうでないと視聴者は感情移入したり同一視したりできないのです。視聴者はドラマの中の主人公に自分を重ね、一緒に喜怒哀楽を味わって楽しむものですが、登場人物が面白くないとそれができません。ですからこの2つに常に焦点を当てて面白いドラマを作らなくてはいけないと思っています。その面白さこそが人気につながるのです。
また、もう一つ大切なことはドラマに登場する職業や素材には、2013年の現在でも関心を持ってもらえるものを選択することです。どんなに昔の面白い話であっても、2013年の現在の視聴者には興味が湧かない話ならそれはダメだということです。「ホジュン」「商道サンド」「チャングムの誓い」「薯童謠ソドンヨ」「イ・サン」「トンイ」「馬医」すべて21世紀の現在でも関心を持たれている素材です。視聴者が昔話ではなく最近でもありうる話だと思える素材なのです。
例えば「チャングムの誓い」は料理と健康の話、「ホジュン」は名医の話、「イ・サン」は優れた政治家の話、「トンイ」は教育熱心な母と捜査する人の話ですし、絵を描く人を扱った話もあります。こうしたものは現代でも関心を持たれる素材ですよね。トンイは息子を産んで教育に悩みます。それは日本のお母さんも同じですよね。どうしたらちゃんと教育してあげられるかを考えるわけです。それをトンイが息子の延礽君ヨニングンの教育について、いろいろ悩む場面として取り入れました。現代の視聴者にも関心の持てる素材だからです。
もう一つ大切なのは登場人物の性別に関係なく、前向きで専門的な職業を選ぶことです。ドラマの視聴者は現代人ですから、登場人物の職業は現代人が憧れるようなものであってこそ視聴者の興味を惹きつけ、ドラマを楽しく見てもらえるからです。「ホジュン」のヒロインは看護師でしたし、「商道サンド」のヒロインは立派な商人でした。「チャングムの誓い」のヒロインは腕のいい料理人、「イ・サン」のヒロインは優れた絵師、「トンイ」のヒロインであるトンイは優秀な捜査官でした。そして「馬医」のヒロインは医師です。時代劇であっても視聴者は現代に生きているのでこうした素材・職業・物語という要素が興味を惹きつけるのだと思います。
― これから「馬医」を観る日本のファンに一言。
イ・ビョンフン:「馬医」に出てくる獣医師は李氏朝鮮時代には身分の卑しい者の職業でした。これは最下層の身分から王の主治医というトップの地位に登りつめる立志伝のような一人の人間のサクセスストーリーです。主人公は「馬医」の序盤では獣医師ですが、人を治療するようになります。学校に入学して医師となり、修行を重ねながらさまざまな物語が展開されていくのです。
また、ドラマの中でペク・クァンヒョンは愛や喜びにも出会いますが、非常に大きな試練にも見舞われます。師匠にまつわる大きな試練が立ちはだかり、ペク・クァンヒョンは将来を期待される医師だったのに、あっという間に奈落に落ちて死刑宣告を受け、死の一歩手前まで行くといった波乱万丈なストーリーが展開されます。このドラマでは胸を痛めたり痛快に感じたり、拍手を送ったり気の毒に思ったりしながらも最後には満たされた気持ちになれることでしょう。これから「馬医」は変化に富んだ展開を重ねていきます。ご期待に十分に沿えるたくさんの話が繰り広げられますので、皆さん楽しみにご覧ください。
■作品情報
馬医
出演:チョ・スンウ(映画「マラソン」、映画「ラブストーリー」)、イ・ヨウォン(「善徳女王」「私の期限は49日」)、イ・サンウ(「神々の晩餐‐シアワセのレシピ‐」)、ユソン(「ソル薬局の息子たち」)、キム・ソウン(「悲しき恋歌」「花より男子」)、ソン・チャンミン(「シンドン」「ロードナンバーワン」)ほか
演出:イ・ビョンフン(「チャングムの誓い」「イ・サン」「トンイ」)
脚本:キム・イヨン(「イ・サン」「トンイ」)
制作:MBC/KIMJONGHAK PRODUCTION
発行:NHK エンタープライズ
販売元:ポニーキャニオン
(C)2012-13 MBC
■DVD&Blu-ray情報
●Blu-ray BOX I<第1話~第10話収録> PCXE-60058(6枚組)
価格:¥23,000(税抜)/¥24,150(税込)
●DVD BOX I<第1話~第10話収録> PCBE-63456(6枚組)
価格:¥19,000(税抜)/¥19,950(税込)
<BOX 映像特典>
・チョ・スンウ インタビュー
・馬医ミュージッククリップ「ただひとつの」運命の出会い
・馬医トレーラー
・制作発表会見
・馬医 韓国放送直前特番
・韓国版エンディング
<封入特典>
馬医 ブックレット
※Vol.1~2 レンタル中
レンタルDVD各巻に特典映像として韓国版エンディングを収録。
Vol.3~5は11月29日レンタル開始!
■関連サイト
・NHK BSプレミアム 海外ドラマ「馬医」番組サイト
- 元記事配信日時 :
- 記者 :
- Kstyle編集部
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