パク・ヘイルがおすすめする「冬が終わって春がやってくる間に聴く音楽」

そのため70歳の老人役を演じなければならない「ウンギョ」は、パク・ヘイルにとって挑戦だったに違いない。「明らかに難しいことだと分かっていました。けれどまだ経験したことがない年齢と感情に対する好奇心がありました」そして彼は老人の身体に漠然と適応するより、文壇で文筆活動をしていないから社会性が衰えていて、ずっと詩を書いてきたので型にはまった自分だけの生き方があるという推測をして、イ・ジョクヨと言う人物を少しずつ細かく作り上げた。岩の上を歩くシーンで登山経験を表現するためにインドアクライミングスクールに通ったり、特殊メイクという仮面を突き抜けて伝えられる細かい感情をコントロールするために繰り返し悩んで話し合いをした。
年が変わって、季節が変わった。そしてパク・ヘイルは老人の体を脱いで再び少年の顔に戻った。「まだ完全に追い払うことは出来ません」と話しながら爽やかな微笑みを見せるパク・ヘイルが選んだこの歌は今、パク・ヘイルのオリジナル・サウンドトラックと言ってもいいだろう。冬が終わって春がやってくる間、彼が聴くしかなかった歌を紹介しよう。

「長い時間をかけてイ・ジョクヨの特殊メイクを終えた後、10分くらい鏡を見ながら考えました。“僕はイ・ジョクヨだ。僕は今から老人になる”と。そして撮影現場へ向かいながらだんだんと70歳の老人の気持ちになって、スタッフを迎えるんです」新しい人物になるだけではなく、経験したことがない年齢を生きなければならないパク・ヘイルは、イ・ジョクヨになるために自分に催眠をかけなければならなかった。イ・ジョンソンの歌「幸せよ」はそんな彼が役に入り込むために大いに役立った歌だ。「チョン・ジウ監督にもこの歌を聴かせたことがあるけれど、夜中にずっとこの歌を聴いていたと言っていました。僕が感じたある感情を監督も見つけたようです」ひまわりの初期メンバーでありギター教則本の著者として有名なフォークミュージシャンのイ・ジョンソンの1stアルバムに収録されている「幸せよ」は“愛しているから”というリフレイン(繰り返し)が印象的な歌である。

静かな歌がすべて穏やかなわけではない。静かだが深い激情がにじみ出るペク・ヒョンジンの歌はそうした点で澄みきっている顔の裏に凄まじいエネルギーを隠したパク・ヘイルの演技と似ていている。「演劇をしていた若かったころ、オオブプロジェクトの歌が本当に有名でした。その時からペク・ヒョンジンさんにいつも関心を持っていました」と彼が紹介した2番目の歌はペク・ヒョンジンが一人で作って歌った歌「膝枕」だ。日記のように具体的だが、一方で暗号のようなペク・ヒョンジンの文章は、詩のように聴く人の心を動揺させる。まるでみんなと別れて自分の部屋に閉じこもったイ・ジョクヨの気持ちを歌うかのような雰囲気もあった。もう一つ付け加えると「ウンギョ」では俳優に変身したペク・ヒョンジンの姿をわずかの間見ることが出来る。

ペク・ヒョンジンがパク・ヘイルにプレゼントしたものは歌の感想だけではなかった。「獎忠洞(チャンチュンドン)にある公演会場でした。ペク・ヒョンジンさんのコンサートを見に行ったのですが、ソン・ジヨンという歌手がその日一緒に公演をしていました。そのとき初めて見たのですが、本当に印象深く残っていて、それ以来ちょくちょく音楽を聴いています」フォーク音楽にブルージー(ブルース音楽を連想させる雰囲気)な感性を加えたシンガーソングライターのソン・ジヨンは重々しいメロディーと歌詞で自分だけの音楽の世界を作っているミュージシャンだ。公演中心に活動をしていた彼女はMBC音楽番組「音楽旅行ラララ」の出演当時、話題になった。それに3rdのアルバムのカバーはマ・グァンス教授の作品としても知られている。その中でもパク・ヘイルが推薦する歌「旅の疲れ」には、「ウンギョ」の撮影中、イ・ジョクヨとしての人生を生き、やっと本来の姿に戻った彼の疲労感が映し出されている。

ギターと声、そして歌う人が書く歌詞。パク・ヘイルが選んだ歌の共通点はボブ・ディランに至って一種の確信を与えた。しかし本来、彼は「いつも歌の歌詞に集中しているのではありません」と話す。気持ちを切り替える時、わずかな休憩時間に主に聴く歌はメッセージと単語の意味を飛び越えて音楽自体の力で彼を説得し慰めている。「外国語の歌もわざわざ歌詞の意味を探す方でもないんです。だけど聴いているだけで伝わってくるものがあります。それが音楽の力だと思います」パク・ヘイルはボブ・ディランの名曲「Blowin' in the wind」を選んだ理由についても「私にはこの曲で春を感じます。歌を口ずさみながら、この季節に本当に良く似合っています」と簡潔に理由を説明した。

「この歌は本当にパク・ヘイルの春の曲です」撮影が終わり、いよいよ映画の公開を控えたパク・ヘイルは今になって映画の人物から抜け出すことが出来たと打ち明けた。そして昔聴いたジョイ・ディヴィジョンのアルバムを再び聴きながら完全な春、目に見えるようにはっきりと感じられる若さを思い起こしている。「もちろん『ウンギョ』は老年の心に関する話でもありますが、“若さ”ということに焦点が置かれ、それが本当に良いことだという話でもありますね。どちらかと言えば51%は後者です。映画を見終わって春だから本当に良い、良かった、そんなふうに思ってもらえたらいいですね」ただ2ndのアルバムを発表して自ら命を終えたイアン・カーティスが導いたバンド、ジョイ・ディヴィジョンの「Love will tear us apart」は以後、残ったバンドのメンバーが結成したニュー・オーダーによってリメイクされた時代の名曲である。

「映画1本に出演するといつも答えに近づいたように感じるが、結局作品が終わったら再び最初に戻るので映画を手放すことができない」と語る優等生は「年を取るにつれ新しいキャラクターが与えられるので多分一生かけても正解を見つけることは難しい」と首をかしげる。答えがない道を、好奇心を持って歩いていく少年の魂が老いない限り、パク・ヘイルの次の歩みを期待せざるを得ない。
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- ユン・ヒソン、写真 : チェ・ギウォン、翻訳 : チェ・ユンジョン
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